最後で、最初の罪
30年の人生の運を使い果たしたような幸運によって、彼は
望んだ、異世界に
望んだ、チート能力を持って
望んだ、環境に
望んだ、前世の記憶を持ったまま
転生していた。
大人三人くらい余裕で寝れそうなベットに寝かされている彼は、2歳くらいだと思われる自分の身体を確認して、満足げに頷いてから、贅沢を極めた部屋の内装を見回した。
部屋には、彼のほかに白衣を着た老人と、メイド服をきた獣耳の女性が見えた。
(完璧だ・・・)
彼は、満面の笑みを浮かべた。
「良かった・・・、気がつかれましたか」
赤ん坊の様子に気がついた獣耳のメイドが、心から安心した表情でベットの方に近づいてきた。
それに対して、これくらいの子供の発達がどれほどのものかわからない彼は、とりあえず邪気が漏れないよう心がけつつ笑顔だけを返した。
彼は、目の前にいる大人達のやりとりから、自分が2歳児で数日前から寝込んでいたらしい事がわかった。
今より前の、赤ん坊としての記憶がないことを考えると、自分の影響であることは想像がついた。
まったく日本語とは違う、ここの言葉をなんとなくではあるが理解できるとこについては、
前世の記憶と引き換えに2年分記憶喪失になったというよりは、元々の脳みそに染み付いていた記憶のおかげであるようである。
本来の身体の持ち主には申し訳ないような気がしたが、
彼としては30歳にもなって、授乳プレイや、オムツプレイは勘弁して欲しかったことを思うと、ひたすら神様だか、あの美人の天使様だかのアフターフォローに感謝するだけであった。
覚醒してからの数日間たっても、心配する大人達によって、彼はベットに閉じ込められていた。
少し不満には思っていたが、そんな間でも、男前と美人な今生の両親と対面して、己の顔面に期待してみたり、
自分の中にある魔力らしきものを感知してみたりと、
これから先にある明るい未来計画を妄想するだけで、
今は嬉しくてしょうがなかった。
そろそろ、ベット脱出解禁が近づいたある日、彼の部屋はどこか浮き足立った雰囲気に包まれていた。
彼は、そんないつもと違う様子を不思議に思ってはいたが、未だにどう話してよいかわからないままだったので、常に控えている獣耳のメイドをひたすら観察していた。
メイドは、そんな視線に気がなったのか、彼に笑顔を向けながら言った。
「やっと、今日、お会いになれますよ」
彼はメイドの言ってる意味がわからないまま、いつも通りの笑顔だけ返したが、不思議と脳みその奥がチリチリするような感じがして、なんとなく不安になった。
数刻後、ベットですることも無くまどろんでいた彼の元に、両親の声と、また別に子供のはしゃいだ様な甲高い声が聞こえてきた。
少しづつ近づいてくる声に、彼は、無理矢理に目が覚まして少し起き上がり、身構えた。
楽しげな声が彼の部屋の前で止まり、ノックもなく扉が開くと、そこには彼の両親に、両方の手を繋がれた男の子が期待に満ちた表情で入ってきた。
その男の子と彼の目があった時、彼は、男の子の目から溢れていた期待と喜びが剥がれ落ち、絶望に染まっていくのを見届けた。
彼は、自分の前世で最後に犯してしまった大きな間違いを知った。




