王様と僕
王様との面会はつつがなく、とは言えなかったが終わった。
非公式とまではいかないが、そこまで形式ばったものではく両親と双子、そしてシャルディが通された部屋には王と王妃、数人の家臣たちが控えているだけだった。
初めて見る王様という人種は、思ったより普通のオジサンだった。
(カリスマとか、ないもんですね)
カインは失礼な事を思いつつ、王の隣にいる王妃に目を向けた。
彼女は王に比べると随分と若く、美しい女性だったが、まったく表情がなく冷たい印象を受けた。
色素の薄い人が多いこの国では珍しい、黒に近い焦茶色の髪と瞳は異国の雰囲気を漂わせており、世俗に疎いカインにも政略結婚という言葉が浮かんできた。
「そなた達、双子と聞いていたが随分と様子が違うのだな」
王は権威だかではあるが、それなりの親しみを込めて話しかけてきた。
「カインは今は元気ですが、幼い頃は病気がちでしたので、その為かもしれません」
父がすぐさまフォローするように言った。
カインは一年前ではないにしろ、未だにアベルより小さく線が細いままで一見するとアベルのほうが年上に見えた。
最近は寝込むことはないが、アベルが剣の練習をしている間は、室内で魔法の練習に当てているカインである。おのずと差が出てしまうのは仕方がなかった。
「健やかになって良かったなカイン。そなた素晴らしい魔法の才能があるそうだが」
「シャルディ先生に教えていただいてますが、まだまだ覚える事が多くて大変です」
カインは王の突然に問いかけに驚いたが、表情にだすことはなかった。
「子供が謙遜などするものではないぞ。そなたが魔法で大人を倒したという話はここまで聞こえておる。
なかなか出来ることではないが、やはりカインが跡を継ぐのか」
一年前の出来事が王の耳に入っている事にも驚いたが、それより随分と踏み込んだ話をしてきた王にカインは返す言葉が見つからず、そっと父へ目を向けた。
「それはまだ決まっていませんが、剣の腕はアベルの方が上ですし、熱意もあるようですから、アベルが継ぐこともあるかと思います。それに、カインは魔法の勉強を続けたいと言っておりすので」
出来るだけ平坦な口調で言う父を、王は笑顔を保ったままではあるがスッと目を細めて見た。
「二人とも優秀だと、それはまた大変だな。
しかし、カインが魔法を学びたいとは我が国にとっても良いことだ。彼はしっかりしているようだし、来年、幼年学校に入れてはどうだろうか」
「・・・それは」
「そなたの領地はアベルがいれば安泰であろう。シャルディが王宮の職を辞してから、サルパン家のものは誰も王都にはおらんようだし、我が王家と繋がりが無いのも寂しいものだしな」
「王様、カインはしっかりしていますが、まだ五歳でございます。遠い親元を離れるには早すぎるかと思います。また、私もカインの家庭教師としてまだ教えるべきことが多く残っております」
ずっと後ろで控えていたシャルディだったが、慌てて声をあげた。
「シャルディ、久しいな。優秀なそなたが王宮を去って皆も残念がっておったぞ。
しかし、そなたが認めるほどの子供であれば幼年学校でもうまくやっていけるだろう。
どうだカイン、王都であればシャルディ以上の魔法の師も楽に見つかるであろうし、そなたの為にもなると思うが」
シャルディをいなした王は、カインの方を見て探るような目つきをして笑いかけた。
早く領地を出たがっていたカインとしては願ってもない話ではあるが、さすがに三十すぎの頭では簡単に頷けるわけもなかった。
王の言葉の裏には、大貴族であるサルパン家の人質を王都によこせという話が透けて見えている。
「ありがたいお話ですが、私は幼年学校がどういう場所かも知りませんし、父上と相談した上で決めさせていただければと思います」
「ははは、そうだな。私も少し急ぎすぎたようだ。
まぁ、入学出来る年になるまで、まだ一年あるし相談して決めるが良かろう」
「はい、私などをお誘いいただきましてありがとうございます」
「むう。王都ではいつでも歓迎するぞ。
公爵良い息子たちを持ったな。あとは、皆で気楽に楽しんでくれ」
王はこれ以上突っ込む気はないのか、話を終わらせ手を叩いた。
すると、どこからかメイドたちがお茶の準備などを始め、両親やシャルディもどこかホッとした顔をして肩の力を抜いていた。
「さあ、二人とも此方へいらっしゃい」
母は、双子の肩に手を置くと、端の方にある小さなテーブルに案内をした。
「カインもアベルも、ちゃんと挨拶出来て偉かったわね。
カインの方は、変な話になったけれど後は父上に任せておけば大丈夫だから」
母は二人を椅子に座らせると、アベルの頭を撫でながら、カインには苦笑まじりの顔を見せた。
「カインは王都の学校へ行くの」
褒める母にアベルは自慢げな表情を見せたが、カインを見ると少し不安そうに問いかけた。
「まだわかんないよ。まだ、先の話だしね」
「カインが行くなら、僕も行きたいなぁ」
「でも、もし王都に来たら父上や母上とも会えなくなっちゃうよ」
「んー、それは嫌だけど。カインとも会えなくなっちゃうんでしょ」
カインの手を両手でギュッと握るアベルを、どうしたものかと途方にくれるカインのもとにシャルディがやってきた。
「アベル。カインが行くと決まった訳じゃないからね。心配しなくて良いよ。
それより、変わったお菓子があったから見にいかないかい」
「そうね、私も気になるからアベル行きましょう」
母はアベルの目線に合わせて微笑みかけたが、アベルまだカインの方を向いたままだった。
「カインも行こう」
「アベルは母上と行っておいでよ。
僕はちょっと疲れたから、ここで座ってていいかな」
カインは空いてる方の手で自分の頭を掻きながら小さく言った。
「わかった、じゃあ僕が持って来てあげるね」
「うん、アベルありがとう」
カインは母とアベルの背中を見届けると、シャルディの方を向いた。
「なんだか、面倒そうな話でしたよね」
シャルディはちょっと驚いた顔をしたが、苦笑して、
「・・・そうだね、君はわかったみたいだね」
「なんとなくは、ですけど」
「とりあえず、パラディウスに帰ったら父上と相談してみるよ」
「その時は、僕も呼んでもらえますか」
「そうだね。君の話だものね、ちゃんと一緒に話そう」
「お願いします」
そう言って、王と父が話している姿を眺めたカインの頭を、シャルディは優しく撫でた。
「カインは賢いね」
少しだけ申し訳ない気持ちになった。




