天使の微笑み
初めての列車での旅は特に問題も起こらず順調に進み、三人は空が赤く染まりだした頃、王都へ着くことができた。
体を伸ばしながら列車から降りたカインは、バラディウス領とは違う都会独特のすえた匂いを感じた。
それはカインにとって、どこか懐かしさを感じるものであった。
酔っ払いすらいなくなった朝方の繁華街とか、浮浪者がたむろしている橋の下を思い出し、
情けなかった自分の記憶を蘇らせるには十分で、微かかに表情を歪ませた。
「人がいっぱいいるね」
王都の大きさに緊張より、好奇心の方が勝るのかアベルは興奮した声をだして走り出そうとした。
シャルディは、はしゃぐアベルを捕まえながら苦笑いをカインに向けた。
「アベル、はしゃぎすぎたら駄目だよ。カインは疲れてないかい」
「大丈夫です」
「駅から出たら、迎えの馬車が来ているはずだから二人とも離れないようにね
王都ではぐれたら、見つけられないし。中には悪い人もいるからね」
「怖いとこなんだね」
カインと手をつないだアベルは、耳元に顔を寄せて小さな声で言った。
馬車で王都にあるサルパンの別邸へと向かう途中、車窓から見えた田舎の風景とはまた違う王都の姿は、双子の目は再び釘付けになった。
カインは、豊かなパラディウス領では見かけない、
いかにもボロな服を着た人が多いことがショックであったが、
それでも行き交う人の多い街は地方都市とはまた違う活気があった。
建物がひしめきあう雑多な下町を抜け、橋を一本渡ると急に静かになる。
そこは広い庭と豪奢な建物が多く建つ貴族の邸宅が集まる場所である。
「さぁ、もうすぐ着くよ」
シャルディの声に、やっと乗り物から開放される喜びから双子は顔を見合わせて笑った。
サルパン邸は、豪華な屋敷の多いこの辺りでも、特に広く贅沢な造りをしている。
三人が馬車を降りると、十人程度のメイドたちが一糸乱れぬ姿で待ち構えており、
どちらかとえば使用人とフランクな付き合いをしているカインとアベルはただ立ち尽くした。
シャルディは、そんな二人に苦笑しながら屋敷の中に入るよう促した。
「メイドの人たち、なんか怖いねー」
「王都では、他の貴族の目もあるからね。みんな気を使ってるんだよ」
コソっと呟いたアベルに、シャルディも二人だけに聞こえるくらいの小さな声で返した。
「さぁ、明日は王宮に行かなくていけないから、今日はゆっくり休んでね」
「父上と、母上は」
「二人は、久しぶりの王都での社交界からね。帰るのは遅くなるだろうから、先に寝てた方が良いよ」
「そっかー、じゃあカイン。今日は一緒に寝ようっ」
天使のような容姿をしたアベルの天真爛漫な言葉に思わずメイドたちの顔も緩んでいた。




