変わらない世界
「電車…ではないのかな。これは」
カインは自分の倍ほどもある車輪をつけた鉄の塊を見上げて呟いた。
カインとアベルは一週間前、五歳の誕生日を迎えた。
幼児の死亡率が高いこの世界において、無事に五歳になった二人を祝う誕生日は、街を挙げてのお祭り騒ぎであった。
事件があってからの一年間、カインは少しづつではあったが、家族の一員として幸せな時間を過ごした。
そして、多くの人に祝われ、恥ずかしがりながらも笑顔でこたることができたことが嬉しかった。
そんな浮かれた雰囲気が覚めやらぬ中、カインとアベルはアダン王国の王都カナンへ向かうことになった。
広大な領地を持ち、この国の有力貴族でもあるサルパン・ド・パラディウス公爵の息子を王にお披露するためであった。
最初カインはこの話を聞いたとき、あまり気乗りしなかったが、両親の期待に満ちた目に逆らうことも出来ないまま行くことが決まってしまたった。
しかし、シャルディが王都にいる魔法の師匠を紹介する為、同行を申しでてくれたことで少し楽しみにもなっていた。
あまり領地から出ない両親がここぞとばかりに呼ばれる社交会に出席するため、家族旅行を泣く泣く諦め王都に向かった四日後、シャルディと双子は街のはずれにある駅に来ていた。
駅は、上等な衣服で身を包んだ人達で賑わっていた。
アダン国で旅客の為に路線が整備されたのはここ数年であり、利用できるのある程度お金を持っている人に限られたいた。
シャルディは、初めて見る列車に感動している双子を楽しそうに眺めていた。
「二人は列車見るのは初めてかい」
「でっかいねー、これに乗っていくの」
「そうだよ、馬車より早いんだよ」
カインは二人の話を聞きながら、この世界に列車があったことに驚いていた。
勝手に建物とか服装で、中世くらいの文化レベルだと思いこんでいたからだった。
「・・・先生、これって何で動いているんですか」
「蒸気機関っていう、魔法結石で作ったエンジンで動いてるんだよ」
「蒸気機関なんだ・・・魔法結石って何ですか」
「魔法を込められる鉱石があるんだけど、そこに利用法に適した魔法を書き込むんだよ」
「そんな石があるんですか」
「二十年くらい前に発見されたんだけど、魔法結石が作られるようになってから一気に魔法が浸透してない平民達の生活レベルもあがったんだよ」
「どんなことに利用されるんですか」
「城でもライトとか、炊事場なんかで使われてるよ。
あとは、単純作業なんかは魔法結石を埋めた機械を使うようになったから、大量に市販品を作れるようになったんだよ」
「ねー、何話してるの。早く乗ろうよー」
カインとシャルディの話がつまらなかったのか、アベルはシャルディの手を引いた。
(・・・産業革命みたいなのが起こってるのかな)
カインはアベルに笑いかけながら、前世で覚えた歴史の教科書を思い出していた。
「そうだね、王都までは結構時間がかかるから、そこで話をしてあげるよ」
シャルディは二人の背中を押しながら言い、三人は王都へと向かう列車に乗り込んだ。
列車は時速約80km。
新幹線を知っているカインには、驚くものではない。
しかし、この世界では馬より早いものに乗ってなかった事や、初めて乗る蒸気機関の列車に興奮を抑えられなかった。
もちろんアベルは、車窓から見える、凄い速さで流れていく景色に釘付けである。
そして一時間ほどすると、はしゃぎすぎて疲れたのか寝てしまっていた。
「まだ数時間乗ってるから、カインも眠かったら寝ていいよ」
シャルディは膝枕したアベルの頭をなでながら、正面にいるカインに話かけた。
「いえ、大丈夫です。
それより、さっきの話の続きが聞きたいです」
「さっきの話っていうと・・」
「魔法結石の話です」
「そうだね。本当は歴史の授業でゆっくり教えるつもりだったんだけど、暇つぶしには良いかな
獣人たちの大陸である鉱石が発見されたんだよ。もともとその鉱石は獣人の間ではお守りとして使われていたらしいんだけど、魔力を吸収保持する特性がある。
たまたま、大陸に奴隷を調達しに行った奴隷商人の中で魔法を使える奴がいてね、持って帰って来て魔法使いに見せたらしいんだけど、最初に特定の魔法文を込めると、魔力を出力することができたんだ。
だから、その鉱石を持っていれば魔法を使えない人でも魔法を利用できるようになった。
まぁ、用途は最初の指令のみだから使用場所は限られるけどね」
「それは永久に使えるんですか」
「いや、ある程度の寿命はあるよ。
ライトとかで使うなら一年程度いけるし、この列車だったら半年くらい。それに大きいものが必要だね」
「今も獣人の大陸でしか取れないんですか」
「そうだね、今のところ聞かないね。
今はそれぞれの国が大陸の鉱石とれる場所を管理していて、なかなか安価で出回らないから、市民の生活レベルで利用するのは当分は難しいだろうね」
「国が全部持ってるんですか」
「そうじゃなくて、他の国と争いにならないように場所を管理しているだけだよ。
実際、採集したり運んだりするのは民間でやってて多額の税金をかけているんだ、だから獣人奴隷にまぎれて運んだりしてるみたいだけどね。この国の奴隷に、獣人が多いのはそういう理由もあるんだよ」
魔法の講釈を聞くつもりが、思わぬ話になったことにカインは考えこんでしまった。
「さすがに難しかったかな」
「いえ、他の国とか奴隷とか、知らない事が多いんだなぁ、と思ってしまって」
「カインは変に知識があるから、つい話しすぎちゃったけど…
これからちょっとづつ教えていくから大丈夫だよ」
「そうですね…」
カインはシャルディから、車窓へと目を移した。
日本ではあまり見ない羊の遊牧の牧歌的な風景を眺めながら、さっきの話を整理していた。
(どんな世界でも、人の世の中でも変わらないもんだね〜)
最近は忘れていたはずの、前世での生活を思い出していた。




