師曰く、
シャルディは困惑していた。
新しく弟子となった少年が、あまりにも規格外なのである。
(この私に、いったい何を教えろと・・・)
シャルディは思わず、手で顔を覆った。
家庭教師をしている双子の一人、カインの要請で魔法を教えることになった。
元々、魔法の基礎を教えていたのだが、カインは既に独学で学んでいたという事もあり、アベルが剣術を学んでいる間、魔法の特別授業をすることになったのだった。
確かに初めて会った時から、シャルディにとってカインは困った生徒だった。
まず反応がまったくない。子供らしい姿も見せてくれない。そして、何を考えてるのかわからない。
しかし、そんなカインから頼られる言葉を聞いた時、シャルディは単純に嬉しくて、この変わった子供の為に出来ることはしてやろうと思ったのだった。
(・・・喜んだ自分を殴ってやりたいな)
シャルディは、四種類の魔法を同時展開しているカインを前にして、自己嫌悪に陥っていた。
「・・先生、これをこーして、こんな感じにすると・・・ドラゴン召還したみたいだよね」
カインが手を動かすと、目の前に火に包まれたドラゴンが現れた。
「そうだね・・・」
「これ見たら、驚いて逃げちゃうよね」
「・・・間違いないね」
(そんな技もってる奴に、誰も歯向かわないよ・・・)
シャルディは、かろうじて笑顔を保っている。話しをしてくれるようになったのは嬉しいが、返答に困る内容ばかりで、内心は焦りが止められなかった。
「…せんせい、魔法って戦う以外に、何に使うのかな」
「そりゃあ、至るところに利用されてるだろう」
「そうなんだ」
カインの驚いた顔を見て、これにはシャルディの方が驚いた。
しかし、考えてみればカインの知識というのは、随分と偏っているのだ。
「僕、魔法くらいしか取り柄がないんだけど、どんな職業がありますか」
「職業って、父上を継ぐんじゃないのかい」
「アベルの方が向いてますから。
出来れば、アベルの手伝いを出来れば良いけど…変にお家騒動になるのも嫌なんで」
「…どこで聞いたんだい。そんな話」
「ほとんど本読んで過ごしてたから、そういう話が山ほどあったんですよね」
「まぁ、確かによくある話ではあるね」
「だから、出来れば、お披露目のある15歳までに家出たいんですけど…どんな職業があるのか知りたいんです」
「ずいぶん急な話だね」
「だって、出来る事を後回しにして良いことは何もないでしょう」
「そうだけど…子供の言葉とは思えないな」
「体は子供、頭脳は大人。なんです」
「…ごめん。何言ってるのか、わからないんだけど」
「すいません。言ってみたかっただけです。
でも、街の子たちでも、小さい頃から仕事手伝ったりしてるから、どうせ無駄になる帝王学習うのもどうかなと思って」
四歳児のする話ではないが、どうやらカインは真面目に考えているらしい事がわかると、シャルディは、カインのことを大人として見ようと決めた。
どうせ既に、規格外なのである。
「そうだね。私は、もう少しゆっくり考えても良いと思うけど。
手っ取り早く、魔法を生かした職業につくなら、王立学校へ行くか、魔法使いに弟子入りすることだね」
「何が違うんですか」
「まず、学校に行ってそれなりの成績で卒業すれば王宮に召されるだろう。学校は12歳から入れるから、カインの望み通りになると思うよ。
もし弟子入りするなら、その後は民間で働くなり、実力があれば王宮でも働けるから幅広いけど、こればかりは人間関係にかなり左右されるからね。
あまりに若いと難しいかもしれない」
「先生は弟子とかとってないんですか」
「私は、元々の専門は魔法ではないからね。申し訳ないけど、君に魔法を教える自信はないよ。
それに、君に教えられる人がそういるとは思わないけど…カインは学校に行くのは嫌なのかい」
「…国に雇われたら、仕事選べないかなと思って」
「確かにそうだね…でも、カインは魔法を何に使うか決まってないだろう」
「そうなんですけど、魔法で戦ったりするのは嫌なんです」
思いつめた表情のカインを見ていると、シャルディは、数日前の出来事が彼にとって、想像以上に大きな影響を与えていた事がわかり自分のいたらなさを思い知らされた。
「そうだね、一人あてがないわけではないんだけど、会ってみるかい」
カインの顔はパッと輝いた。
「その魔法使いは…ちょっと性格に難はあるけど実力は折り紙付きだよ。
王都にいるから、連絡してみるよ」
「お願いします」
シャルディは、カインの素直な笑顔を初めて見た。
「私としては、君にやっと頼ってもらったのに、結局は他に頼むような事になってごめんね」
「それは…勝手に僕が人見知りしてただけなので」
「でも、カインは最初から私を「先生」と呼んでくれてたのにね」
「それは・・本に書いてあったんで」
「そうなんだ、まだ学校行ってない子には珍しいと思ったんだ」
「君は向上心もあるし、謙虚だからきっとうまく出来るよ」
「頑張ります」
少し困った顔をしていたカインだったが、子供らしくない決意のこもった声で答えた。
「じゃあ、父上には私の方から伝えておくから、カインも一度ちゃんと話すんだよ」
「はい」
シャルディは、会ってまだまもない、この早熟な少年の未来が明るいものとなることを心から祈らずにはいられなかった。




