汝殺すなかれ2
魔法を放った時のままの体勢で動かないカインに、アベルはカインの上げられた両手を、そっと包むとゆっくり降ろした。
「カイン・・ありがとう」
カインは、無事なアベルの姿を見て、腰が抜けたように崩れ落ちた。
「カイン、大丈夫」
「・・・うん。急に力が抜けて」
カインは、冷静になって、改めて自分のしたことが恐ろしくなった。
アベルを助ける為とはいえ、魔法の力がこんなに簡単に人を殺せることに恐怖を覚え、血のにおいと砕けた男の死体を目にして気持ちが悪くなった。
「カイン、立てる。ここ早く出た方が良い・・」
座りこんで下を向いたカインを持ち上げるようにして、アベルは小さな声で言った。
アベルの声はもう震えてはいなかった。
こんな状況でも気丈なアベルに、カインは力づけられて立ち上がろうとした。
そして、顔を上げると、アベルの姿越しに、さっき壁に突き飛ばした男が剣を持って近づいてくるのが見えた。
男の顔は、カインに対する憎悪で染まっていた。
「アベル、離れてっ」
カインはアベルを突き放すと、再び魔法を放とうとしたが、目の端に血まみれの男の死体が入ってきて、カインは一瞬、躊躇した。
その隙を見逃さなかった男は、思い切り振りかぶるとカインに切りつけてきた。
(間に合わないっ)
混乱しているカインは、うまく魔力をまとめきれず、斬られる覚悟をした。
「カインっ」
アベルの叫び声が聞こえて、カインの目の前が赤く染まった。
カインの手は血で濡れていたが、痛みはまったくなかった。
ただ、目の前には、自分とまったく同じ色をした頭があった。
「・・カイン、大丈夫・・」
カインに抱きついているアベルの背中からは、大量の血が流れだしていた。
「・・・ああ、ああああ」
カインには、その後の記憶は無かった。
気がついた時には、バラバラに飛び散った男の死体が増えていて、カインの腕の中には息をしていないアベルがあった。
「・・どうしよう・・アベル・・アベル・・・・」
カインはうわ言のように、アベルの名前を呼んだ。
(俺は、また間違えた)
(アベルだけは死んじゃ駄目だったのに)
血まみれのアベルを強く抱きしめるて、カインは無意識のうちに祈っていた
(神様、神様、神様・・・・)
いつのまにか、全ての感覚が消え去り、カインの意識は真っ白になった。
「そなたの願い、叶えよう・・」
遠くから、優しげでありながら、どこか面白がるような声が聞こえてきた。




