汝殺すなかれ
窓から見える城が淡いオレンジ色の染まりだし、お互いの顔が見ずらくなってきて、カインは結構な時間がたっている事に気がついた。
「そろそろ帰らないと不味いんじゃない」
「ホントだ。僕、こんな時間までいたの初めてだから怒られるかも・・・」
「僕も一緒に怒られるから、半分ですまないかな」
「今日は、カインと一緒だね」
カインの言葉に、不安そうだったアベルは嬉しそう言った。
「話してばかりだったから、今度は、僕達の宝物を見せてあげるね」
「うん、また来ようね」
(やっぱり、秘密基地の宝物はエロ本なんかなー)
カインは来た時とは違い、くだらない事を考えるほど、軽くなっている自分の心に現金だなと呆れながらも顔が緩むのを押さえられなかった。
(これからは、もっとアベルと仲良くなろう)
カインが出した光で足元を照らしながら、ゆっくりと階段を降りていると、下から微かな物音が聞こえてきた。
「アベル、何か聞こえない」
「・・ホントだ。誰か来てるのかな」
アベルが先頭になり、少し急いで階段を駆け下りていった。カインも光だけ先行させて、遅れてアベルの後を追った。
アベルは、2階の広間が蝋燭の明かりで明るくなっているのがわかると、街の子が来ていると思ったのだろう、特に躊躇せず広間に入っていった。
「なんだ、おまえは」
まだ広間に着かないカインに中の様子はわからなかったが、警戒するような男の声が聞こえて足を速めた。
広間にたどり着き、カインがこっそり覗きこむと、アベルは3人のガラの悪そうな男と対峙していた。
「なんでガキがこんなとこにいるんだ」
「お前達こそ、ここで何してるっ」
子供の姿に男たちは少し警戒を解いたが、アベルが剣を抜くと、男たちは嫌な笑顔で顔を見合わせた。
「へー、なかなか良いもの持ってるじゃないか」
「こいつ、どっかの金持ちのガキみたいっすね」
カインは隠れたまま、出て行く事も出来ず焦っていた。
男達の言葉には訛りがあり、この領地の人間じゃないことがわかった。カインはなんとかアベルを助け出し、逃げられないか考えようとするが動揺している頭では何も浮かばない。
「おい、ガキ。身に着けてるもの全部こっちに渡しな」
そう言って、男の一人がニヤニヤしながらアベルに近づいた。
「こっちにくるなっ」
アベルは不用意に近づく男に、グッと腰を落とすと、瞬時に切りつけた。
アベルの剣は想像以上に鋭く、男の腕からは血が出ていた。
「っち、なかなかやるなぁ。ガキ」
斬られた男は、アベルの攻撃にむしろ残忍な笑みを深めて自分も剣を抜き構えると、アベルが息を整える間もなく飛び出し、アベルを突き倒した。
辛うじて剣は手離さなかったものの、仰向けに転がったアベルは、顔に突きつけられた剣先に青くなりながら、しかし男を睨み続けていた。
「へぇ、凄いガキもいたもんだな。だが、さよならだっ」
男がとどめを刺そうと、剣を大きく振りかぶった。
アベルも流石に、目をギュッと閉じて、これから来る衝撃を待ったが、その時は来なかった。
ドサッと男が倒れる音がして、アベルが恐る恐る目を開くと、剣を持つ腕ごと、身体の右半分がえぐり取られた男が仰向けに倒れていた。
アベルは呆然とていたが、荒い息音が自分の後ろから聞こえる事に気がつき、頭だけ後ろに向けると、そこにはカイン両手をかざした状態で青い顔をして立っていた。
カインは、アベルの危機に何も考えず魔法を放った。
しかし、男の無残な姿を見て、自分のやったことの恐ろしさに気が遠くなりそうだった。
「おい、もう一人いるぞ」
残された二人の男は、あっという間に死んだ仲間を見て一瞬のまれたが、カインが修羅場になれてない子供である事がわかりすぐ立て直した。
剣を構えた男たちは、警戒しながら、じわりとカインに向かってきた。
「・・カイン」
アベルの声は震えていたが、それでも、加勢する為にゆっくり立ち上がった。
それに気がつき、アベルの方に剣を向けようとした男の一人は吹き飛び壁にぶち当たった。
カインは再び魔法を放っていたが、今回は無意識で手加減していたらしく、身体が飛び散るようなことはなかった。
最後に残った男は、さすがにこの状況が不味いと思ったのか、カインたちと対峙しながら、少しずつ後ずさり広間から走り去った。
広間には血の臭いが広がり、カインの荒い息づかいだけが響いてた。




