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兄と弟が生きる世界

「スペーロ・・」


アベルはカインの手を離すと、短縮呪文で小さな光をだして壊れかけた柵の隙間から屋敷に入った。


「カインも早く」


柵越しに呼ぶアベルに、カインは少し躊躇しながらも、突然のホラーだか、サスペンス映画みたいな展開にワクワクしているのがわかった。

柵を抜けると、子供達の背より伸びた雑草や、好き放題枝を伸ばした木々が頭の上を覆っていて、昼間にもかかわらず薄暗かった。


アベルの出した光を先頭にして、一列になって屋敷へと進む。アベルの様子や、僅かではあるが草を踏んだ跡から、何度か訪れているんだろうとわかり、カインは少し安心した。


正面の扉に到着すると、アベルは躊躇無く重厚感のあるドアノブに手をかけた。

蝶番が錆びているのか、キーっと甲高い音をさせてゆっくり扉が開いた。


屋敷の中は真っ暗だったが、アベルが少し光を大きくして上の方へあげると、カインにも内部の様子が少しづつ見えてきた。


屋敷の大きさからも、なんとなく予想は出来たが、どうやら以前は貴族の屋敷だったようである。

埃を被ってはいるが、上品に輝く大きなシャンデリア、お金をかけられたであろう家具や調度品から、カインはそう思った。


「カイン、こっちだよ」


きょろきょろと周りを見渡すだけで動かないカインに、アベルが急かすようにっ正面にある階段をのぼりながら呼びかけた。


アベルに連れられるまま、カインは屋敷の最上階に来てきた。

一部屋しかない、その扉を開けると物置だったのか、下の豪奢な感じとは違い雑多な雰囲気である。

アベルは部屋の奥へ進むと、慣れた様子で窓を開けた。


突然入ってきた大きな光に、カインは眩しそうに目を細めたが、だんだん目がなれてきて見えた、その風景に息をのんだ。


窓の外には、さっきまで歩いてきた街が眼下に広がっており、正面には自分達が住んでる城が、光を反射して白く輝いていた。


「凄いでしょ」


自慢げなアベルに、目の前の風景に圧倒されていているカインは返事は無かったが、そんなカインの様子にアベルは満足そうに笑った。


この世界で過ごした2年間に、カインは後悔を覚えた。

日本とはまったく違う生活の中、魔法に明け暮れてきた。毎日、城から街を見下ろしてきたが、海外から送られてきた絵葉書のような風景には現実感はなく、精巧な模型を見ているみたいだった。

しかし今、目の前にあるのは、この場所で人々が生きている事を見せつける街の姿である。

未だ夢の中にいるような気持ちを捨てられなかったカインは、溢れるような人間の力に圧倒されながら、やっと、この世界が存在し、その中で自分が本当に生きている実感を味わっていた。


カインは目頭が熱くなってくるのを感じたが、アベルの笑顔をみて涙を堪えた。


「・・・凄いね」


カインは、アベルの目を真っ直ぐ見て言った。


アベルは、カインが見せた予想以上の反応に驚いているようだったが、すごく嬉しそうな顔を見せた。


「街の子達とね、仲良くなって一緒に見つけたんだ。

本当は内緒なんだけど、カインは僕の兄上だから大丈夫だよ」


「・・ありがとう」


カインは、自分の中にあるわだかまりを今だけは忘れて、心からお礼を言うことが出来た。


その後、二人は床に直接座って、いろんな事を話した。

ほとんど、アベルの冒険談を聞くかたちではあったが、これまでの会話を断ち切るかのような返答がではなく、いろいろ聞いてくれるカインに、アベルはいつもより楽しそうにしゃべっていた。


「・・それでね、みんなもカインに会ってみたいって言ってたよ」


「そっか、じゃあ今度は一緒に来ようかな」


「うん。街の子たちも、絶対喜ぶよっ」


話の端々から、アベルが普段、カインの事を気にしていた事がわかって、カインは申し訳ない気持ちになった。

カインがアベルの片割れを奪ったことには変わりは無かったが、それでもアベルにとっては、ただ一人の兄弟であることは間違いなかった。

そして、カインの独善的な思い込みによって兄弟の時間を奪っていたことに気がついたのである。


「僕も、これからはもっとアベルと遊びたいな」


カインとアベルは、顔を見合わせて笑った。


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