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12月上旬。通電

12月上旬。


早退したあの日以来、一緒に帰る日は、帰り道に手を繋ぐようになった。


あと全体的に拳二つ分くらい距離が近くなった気がする。


私はその距離感を、遅れてきた思春期ばりに意識しまくっている。


「ねえ、鈴木〜、なんでそこでスマホ見るの?あっちいけよー。」


「え?ダメ?ひかりちゃんはいいよね?」


鈴木くんは、ひなたちゃんと話している私の隣に椅子を運んできて、身体を寄せてくっつくように隣でスマホで何かのグラフを見ている。

何を見てるのか意味不明すぎて聞いたら、株式チャートだよと、言われて、さらに意味不明だったからそれ以上聞かなかった。


私は右の肩にあたる背中に全ての意識を持っていかれて、さっきからひなたちゃんの話が右から左に抜けていく。



「なんか急におかんから彼氏感出してきたねー、鈴木。あいつそういう引き出し無いのかと思った。」

「…恥ずかしくて無理。」


班ごとの調べ物のまとめ作業の時間になり、自然の流れで鈴木くんと離れられた私は、存分に悶えた。

先生も離席してしまい、自習みたいなだらだらした空気の中、ひなたちゃんがまた私の方を向いて雑談を始める。


「まぁこないだまでが逆に本当に付き合ってんの?って感じだったし、いいんじゃない?満喫しろよ〜冬休み!」


ひなたちゃんは中学生の時から幾人かと付き合った経験もあるようだし、今も他校に彼氏がいる。

順当な経験を積んできた彼女から見ると、圧倒的に私たちの正統派からかけ離れたお付き合いが面白くて仕方がないようだ。


そうだ、こないだまで私たちは彼氏彼女の皮を被ったマネージャー兼ストーカーのような関係だったのに、鈴木くんがまるで本物の彼氏みたいなムーブをしてきて、経験値皆無の私は処理落ちして度々フリーズする。

圧倒的に私に恋人の振る舞いをするスペックが足りない。

ていうか、鈴木くんは一人でいつそんなレベルアップを?


「鈴木くんって一年の時、彼女いなかったんだよね?」


ひなたちゃんは一年生の時も鈴木くんと同じクラスだった。


「居ないと思うよ。ていうか男女関係なくあんまり特定の人とつるんでないっていうか、フラフラしてるというか。ちょっと話意味わからんけど、暗くはないし、頭いいし、女子に変に構えないし、案外言わないだけで狙ってる子はいたんじゃないかな?」


「そうなんだ。」



今まで私はあまりに鈴木くんを意識して無さすぎたんだと思う。

気にしなくてもウロチョロまとわりついていたし、逆に近すぎて視界に入っていなかったというか。


最近離れている時ほど鈴木くんの姿を目で追ってしまう。

窓際で同じ班の男子と話してる横顔。

背が高くて、当たり前だけど肩とか首のラインとか骨っぽい。

細くてひょろっとして見えるけど、意外と支えてくれる時とかよろけたりしないし。

制服着崩したりとかはしてないけど、手首につけてる腕時計とか、髪型とか、オシャレ感は無いのになんとなく似合ってて、いい感じに見えてしまう。

班の女の子が会話に入ってきて、目を細めてちょっと笑った鈴木くんの肩を、その子が触った。

女子に慣れている。確かに。お姉ちゃん居るって言ってたな。



「……」

「見すぎ見すぎ。モノローグつけてあげようか?」

「いい。」

「鈴木、頭脳派だなぁ。いやだなぁ、ひかりが攻略されちゃう。つまんない。」

「つまらなくていいの。」

「ごめんごめん。大丈夫だよー、360°どの角度から見ても鈴木はひかり一筋だよ〜。」

「違う!なんか、違うから!」


私はまた何と何が違うか分からない、何かを否定してしまった。





「最近、ひかり少し逞しくなってきたねえ。」


お風呂の後、いつもの筋トレをしていたらお母さんが台所から私を見ながらしみじみといった感じでつぶやいた。


「そう?」


確かに前は一回もできなかったクロス腹筋が今は調子のいい時だと連続で10回はできる。

他にも出来るようになった筋トレがいくつかある。

嬉しくなって、見て欲しくて鼻息荒めでちょっと多めにやってしまう。

あ、やっぱ無理。

力尽きてぐでっとヨガマットに仰向けに寝転ぶ。

「筋トレも頑張ってるけど、二年生になってからなんか学校も楽しそうじゃない。休むのもかなり減ったし、朝も顔色いい日も多いし。ねー?」

最後の「ねー?」に何か含むものを感じたけどスルーして「そうかなぁ?」とストレッチしながら返事をする。


確かに二年生になって鈴木くんが現れてからというもの、最初は意地でも倒れてなるものかという気合いと、その後は慣れてきてからは、心のどこかで、

(まぁ最悪倒れても鈴木くんが勝手に喜ぶだけだし。)と投げやりになっていた。

不思議なもので、倒れまいと気合を入れている時よりも、倒れてもいいやと諦めている方がなぜだか身体は言うことを聞いてくれる。


しかもなんだかんだ鬱陶しい反面、欲しい時に欲しい世話を焼いてくれるから、私の体調は事実彼に助けられて気がつけば一年生の時よりも快適に学校生活が送れていた。


鈴木くんが体育祭の時にプレゼンしていた彼の有用性は証明されてしまった。




俺、具合悪そうな伊勢谷さんみてすごいドキドキした!



付き合ってから育まれる好きもあるよ、たぶん。



やっぱり、好きだなぁ、ひかりちゃん。



じゃあ、ちゃんと見つけてね。




開脚前屈して、おでこを床につけて目を閉じた。

いつの間にか心の中に作られたおかしな回路に電気が走ったのを私は見ないふりをできなかった。


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