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11月。ねじくれまがった男

11月。


朝は、先月から始まったLINEの定例報告から始まる。


夕食:普通

朝食:味噌汁だけ

体調:◯


毎朝これらの項目を送ると、すぐ既読がついて

、鈴木くんから「おけ」と返信がくる。


自分で送っておきながら、これは彼氏へのLINEなのか?と疑問しか浮かばない。

トレーナーとか、マネージャーの間違いでは?


そう、なぜか先月から私と鈴木くんは彼氏彼女になった。

このLINEは、決して恋に浮かれてメンヘラ化した私が彼氏に逐一自分の行動を報告したくて送りつけているわけではない。

むしろ鈴木くんから頼まれて送っている。

よく分からないけど、彼は私のこういう日々のデータを集め、分析することを趣味としているようだ。

最初はもっと細かい項目を提示されて、さらにその中に生理の報告まであって、もちろん断ったら、

「そっかー、仕方ないなぁ、観察するからまぁいいか。」

とあっさり諦めた。

たぶん人によったら無茶苦茶気持ち悪い発言だろうけど、鈴木くんは彼氏だの彼女だの言う割に、私に大して女の子を求めている空気がないというか、

この人ほんとに恋愛とかするの?って疑問しかなくて、とりあえず流されるままになってる。



鈴木くんと私が付き合っていることが、周囲になんとなく周知されはじめても、ひなたちゃんをはじめ他のクラスメイトにも、


「え?ほんとに付き合ってるの?」とか

「鈴木くんって2人っきりの時変わったりするの?全然想像つかない」とか

言われた。


私だって想像つかなくて、初めはなにかが変わるのか少しドギマギしたけれど、

LINEの定例報告と、たまに一緒に帰る機会が増える以外は、特に何も変わらぬまま。

確かに他のカップルたちに比べて恋人の空気感みたいな特別な物が、私たちには皆無だ。

手も繋がない、寄り添ったりもしない。

唯一する触れ合いと言えば、たまに頭が痛い時にしてくれる頭皮マッサージくらい。


椅子に座らせられた私の背後からぐいぐい頭を指圧されるのはとても気持ちいい。


気持ち良すぎて、たまに意識が飛んで、ほんのりよだれがでてしまう。

何も気にして無さそうな鈴木くんにテキパキ乱れた髪を直されて、ついでによだれすら拭かれると、恋人というより、なんかそういうサービスを受けたのかなって気持ち。


そもそも私は恋をして鈴木くんと付き合っているわけじゃないし、今までも日常に精一杯で彼氏はおろか、好きな人すら居たか怪しい。

だから彼女としてどう振る舞うのが正しいのかも分からない。


鈴木くんは鈴木くんで、相変わらず何が楽しいのかよくわからないテンションで、私の周りを、以前よりは頻繁にウロチョロしているだけだ。

もともと彼が言い出した恋人関係なのだからと、特に何かを期待することもなかった。


夜お風呂あがりにスマホを見ていたら、鈴木くんから着信があった。

脱衣所にいたけど、なんとなくドライヤーだけ持って急いで自室に戻ってから通話ボタンを押した。


「もしもし」

「あ、今大丈夫?」


私はドライヤーをベッドの隅に放り投げて、自分もベッドに座る。

あ、頭濡れたままだな。寒くなるかな。

まぁちょっとなら大丈夫か。


「大丈夫。」

「明日お昼一緒に食べられる?」


付き合ってからも、私たちはお昼はいつもそれぞれの友達と食べている。

でも別にたまにはいいか。

あれ?2人ってことだよね?


「いいよ。2人でってこと?」

「うん!俺はそうしたいけど、いい?」

「うん。」

「じゃあ、昼休み中庭でね。」


なんかグイグイくるわりには決定は私に委ねるんだよね、鈴木くん。

電話の声って近いし、鈴木くんの声はそんなに低くはないけど、響くから耳がくすぐったくなる。


「…」

「…」


ん?何この沈黙。


「えっと、そんだけ?」

「…なんか喋ってみて?」

「へ?」

「なんでもいいよ!今自分の部屋?お気に入りの本とかないの?」

「部屋だけど…、本?えー、本?」


とりあえず手元に本なんて教科書くらいしかなくて、絵が好きで飾ってたマザーグースの本を読んでみた。



ねじくれまがった 男がいたよ

ねじくれまがった 道を歩いて

ねじくれまがった 木戸のむかいで

ねじくれまがった 銀貨をみつけ

ねじくれまがった ねずみを捕った

ねじくれまがった 猫を買いこみ

みんなで いっしょに暮らしたものだ

小さな ねじくれまがった家で


なぜかその歌を大いに気に入った鈴木くんにせがまれて、結局5回も読まされた。


「はぁー、面白かった〜」

「私は疲れたな。」

「やっぱり、好きだなぁ、ひかりちゃん。」

「え、」

「おやすみ、また明日ね。」


電話を切ったあと。

しばらく、ぼうっとしてしまった。

顔が、熱い。


私はその日頭を乾かすのを忘れてそのまま寝てしまった。


ねじくれまがった鈴木くんと一緒に暮らしている夢を見た。



作中のマザーグースの歌は


ディアマザーグース

作 ひらいたかこ

発行所 架空社

発行1990年

より引用させて頂きました。

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