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あなたの事を僕はずっと……  作者: ルーツ


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2

 結衣の言葉のあとも、時間は普通に流れていた。


 リビングに戻れば、テレビの音がして、キッチンからは食器の触れ合う音がする。

 さっきまでと、何ひとつ変わらない光景だった。


 


「ねえ湊、式は身内だけにする予定なんだけどさ」


 結衣がマグカップを手にしながら、軽い調子で言う。


「うん」


「落ち着いたら改めてちゃんとお祝いとか……って感じになるかな」


「そっか」


 


 それ以上、話は広がらなかった。


 広げなかった、の方が正しいかもしれない。


 


 聞きたいことは、たくさんあった。


 相手はどんな人なのか。

 いつから付き合っていたのか。

 どうして、自分は何も知らなかったのか。


 


 けれど――


 


「おめでとうって言ったよな、さっき」


「うん。ありがと」


 


 それで、十分だった。


 それ以上踏み込む資格なんて、自分にはない。


 


 陽菜の部屋で他愛のない話をして、ゲームをして、

 気づけばいつも通りの時間が過ぎていく。


 


 笑えていたと思う。


 少なくとも、自分ではそう思えるくらいには。


 


「もう帰るの?」


 玄関で、結衣が言う。


「明日も学校だし」


「そっか。気をつけてね」


 


 いつもと同じやり取り。


 


「うん。じゃあな」


 


 手を振って、家を出る。


 


 扉が閉まる音が、やけに大きく響いた。


 


 外の空気は、少し冷えていた。

 夕方と夜の境目みたいな時間。


 


 歩き出して、数歩。


 


「……はあ」


 


 思わず、息が漏れた。


 


 それだけだった。


 涙も出なければ、立ち止まることもない。


 


 ただ、胸の奥に重たいものが沈んでいるだけ。


 


 ――これでいい。


 


 何度も、そう繰り返す。


 


 翌日。


 


 何事もなかったように、朝が来た。


 


 教室のざわめき。

 チャイムの音。

 黒板に書かれる文字。


 


 全部、昨日までと同じだ。


 


「湊、おはよ」


 


 声をかけてきたのは、陽菜ひなだった。


 


「おはよ」


 


 席に座る。

 鞄を置く。


 


 いつも通りの動作。


 


 ……のはずだった。


 


「ね、今日一緒に帰ろ」


 


 不意に、そんなことを言われる。


 


「別にいいけど」


 


 今までも一緒に帰ることはあった。

 けれど、こんなふうに向こうからはっきり誘ってくることは、あまりなかった気がする。


 


「ほんと?じゃあ約束ね」


 


 少しだけ距離が近い。


 声も、どこか柔らかい。


 


 ――近い。


 


 そう感じてから、ほんの一瞬だけ間が空いた。


 


「……どうした?」


「なにが?」


 


 首を傾げる仕草。

 いつもと同じ顔。


 


「いや、別に」


 


 気のせいかもしれない。


 


 そう思って、視線を外す。


 


 けれど――


 


 その日一日、陽菜は妙に湊の近くにいた。


 


 休み時間も、昼休みも。

 理由をつけては話しかけてくる。


 


 距離が、ほんの少しだけ近い。


 


 触れるか触れないかの、微妙な距離。


 


「ねえ湊」


「ん?」


「放課後、寄り道してかない?」


 


 昨日までは、こんなことはなかった。


 


 ――いや。


 


 なかった、はずだ。


 


「いいけど」


 


 気づけば、そう答えていた。


 


 断る理由も、特にない。


 


 ただ――


 


 どこか、落ち着かない。


 


 何かが、少しずつ変わっている。


 


 それが何なのかは、まだわからない。


 


 けれど確かに、


 


 昨日を境に、何かが動き始めていた。


 


 静かに。

 気づかれないように。

 でも、確実に。

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