7
〘⇄〙「……俺は残る」
「ほお。どうしてだ?」
「俺はこの世界が好きだ。滅んでほしくない!」
「そう言うと思っていた。いいかスケル」
「スコルだ」
「スコル、お前は我のことを軽薄で欺瞞的、冷酷な神だと思っていることだろう」
「いや……別にそこまでは」
「だがドゥルノヴァリアは既に吸血鬼たちの手に落ち、掌握されている」
「信じられません。たった数日で帝国が吸血鬼に負けるだなんて」
「最近の出来事ではない。いいか人間、吸血鬼たちの恐ろしいところは、既存の種族を感染させ、眷属として取り込むところだ。気付いた時には、ブア〜っとな。まあ我が種族には関係のない話だが。なあスデル」
最早わざととしか思えない。
「だから奴らは俺を狙っていたのか?」
ソラヌスが黄金の骨を口に入れ、砕かずに飲み込んだ。
「そうかもな。さて、我はそろそろ行く」
〘⇄〙
「待ってくれ。あなたには取るに足らない世界でも、俺には故郷なんだ。この世界を救いたい。どうすればいいか教えて欲しい」
「簡単だ。奴ら吸血鬼を皆殺しにしろ」
「あなたには出来ても、それは……俺に無理だ」
「いいかスコル。この世界は吸血鬼達の避暑所のようになっている。殺しても殺しても際限がないんだ。連中は次から次へと湧いて出てくる」
「吸血鬼達を元から全て殲滅することはできないんですか?」
「面白いな。不可能ではないだろうが、やっても何の得にもならん」
ローゼが一歩前に出る。
「この世界に吸血鬼が入って来られないようにすることはできないんですか?」
「黙れ小娘!」
「…………」
ローゼが萎縮している。
「冗〜談だ〜♪ 他種族を誂うのは楽しい♪」
「あんたは神だ。冗談に聞こえない」
「我がウェアウルフを愛するのは、我が種族という理由だけではない。お前のように強いからだ。神を前にしても、まるでたじろがない。そこが好きだ。それに比べ人間は、はぁん! 貧弱すぎる。媚を売るやつも多いしな。ローゼとやら、好奇心は結構だが、これ以上お前の低俗な質問に答える気は毛頭ない。もし他の神と話す機会があれば、これからはよく考えて言葉を選ぶことだ。まあ人間と頑張れよ。スコル」
〘⇄〙「あんたが行ってしまったら、俺の力はどうなる? 奪っていくのか?」
「安心しろ。偽りばかりの大衆書物ではなく、これは現実だ。神は態々そんな細かいことは気にしない。寧ろ信徒を増やせば、更にお前に力を与えよう。おっと、忘れるところだった。さきの報酬として、お前に獣の力を授けよう。怪我の治癒が早まるだろう。ではベタな別れの挨拶としよう。スコル、我はお前を常に見守っているぞ。……たぶんな」
そう言い終えるとソラヌスは、宙に浮いていた黄金の渦と共に消えてしまった。
いなくなると急激に不安にかられた。
だがソラヌスから授かった獣の力を奥底に感じる。
「スコル、本当に行かなくてよかったの?」
「いつかは行けるさ。だがここにはいま俺が必要だ。それに俺にとって初めての友人は君だ。死なせたくはない」
「スコル、ありがとう」
腕を優しく掴んでくるローゼ。
ローゼの目を見て頷く。
数歩歩く。
「ただどうすればいいか、分からない」
「西にカイスターという小さな国があるの。そこならあなたも恐れられることはない。だから協力し合えるかも」
「そこの種族たちはウェアウルフに会ったことがないのか?」
「いいえ、ウェアウルフを恐れていないの」
「強い味方になりそうだな。俺は殺される心配をしなきゃいけないのか」
「そうじゃないわ。スコル。理解があると言っているのよ」
「本当か!?」
「ええ!」
「信じられないな。実際にその目で見たのか? それともただ聞いただけか?」
「私はその国から来たの。カイスターは私の故郷なの」
「そうだったのか。なぜカイスターの人達はウェアウルフに理解があるんだ?」
「私はあなたに会うまでは半信半疑だったけど、さっきの羊皮紙に書かれていたような事を、本気で信じている人が多いの」
「不思議だな」
「カイスターだけじゃないのよ。みんな古代の事を神秘的に捉えるのは、ごく普通の事なの」
「世俗に疎いと発見が多いな」
「それはそれで楽しいんじゃない」ローゼの笑みは癒される。
「じゃあ君の故郷へ行こう」
地下を出て、教会の出口へと向かう。
「案内役がいて良かったでしょ」
「最高の案内役だな」
「ンフフ♪」




