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〘⇄♡〙「ああ」
しばらく後。
ローゼと少しの間、ベッドで時を共にした。
ローゼはより多くを求めてきたが断った。
今日も今日だった。どんな理由があるにせよ。ローゼはゆっくりと体を休めるべきだろう。
だがこれはローゼを悲しませてしまっただろうか。病み上がりのローゼの体を思うと、正しかったと思うのは変わらない。
両手を枕代わりにし、窓から外を眺める。
窓から見える大小2つの月は、森のベッドから見える景色と変わらない。
しかし妙なのは……このカウチの柄だ。
色といい、描かれている絵といい、どうも落ち着かない。
ローゼの両親が昔、商人から買ったのだろうか? それともローゼが好きで買ったのか。
今日軽く見て思ったが、商人の売っている品はどれも不思議な物ばかりだった。
生きていない木の馬など、一体誰が何の為に買うのだろうか。
ウェアウルフの彫刻もあった。
理解は出来るが、態々作るほどの物なのだろうか。
作る方も作る方だが、あれを買う方も買う方だ。
変な絵も沢山あった。中には風景を切り抜いたような驚くべき物もあったが、基本は種族が書いた落書きのような物ばかりだった。
それを行き交う多くの種族達が立ち止まり、顎に手を置いては注意深く見ていた。
注意深く見ていた者たちも、俺同様疑問に思っていたのだろうか。こんなものが、と。
それにしても吸血鬼が集落を襲ったというのに、カイスターの住人達の多くが何事もなく過ごしている。
同族を殺されても、何も感じないのだろうか。
神がこの地を平気で見捨てるように、種族も似たようなものなのだろうか。
「ん?」
眩しい……。
目を開けると、白夜の月明かりが差し込んでいた。
起き上がり、部屋を眺める。
いつもと違う風景は新鮮だな。
ローゼはまだ寝ているんだろうか。
ベッドへ行くとローゼはいなかった。
「ローゼ?」
昨日は見てなかった奥の部屋の方から音が聞こえてくる。
川? 水の音か?
仕切りを開けると白い煙が立ち込めている。
「ローゼ、いるのか?」
「ああ、おはよう」
奥の布のような仕切りから顔だけ出すローゼ。
「体を洗ってるのか?」
「そうよ。お湯……あったかい水が出るの」
「ほお、便利だな。もうすぐ出るから、あなたも使ってみて」
「ああ」
周囲を見回していると、赤い石が目に止まった。
ローゼが裸で出てくる。
「そこの青い布取っ手くれる?」
ローゼに手渡す。
「ありがとう」
「この小さな赤い石で水が温まっているのか?」
「そうよ」
「これなら知っている。森の地下で見た事がある」
「森で!? 本当に?」
「ああ、熱い緑の水があちこちに貯まっていて、側の穴から白い煙が上がっているんだ。その周辺に沢山落ちている」
「わお〜」
髪を布で拭いているローゼが手を止め、俺を呆然と見ている。
「どうしたんだ?」
「その石って、買うと結構良い値段するんだよね」
「あ~なるほどな。だが無理だ」
長椅子に座る。
ローゼが体に布を巻き、棒の先に入れ物がついたやつで水をすくい、歪な形をした石に掛けた。
すると一気に部屋が暑くなった。
「どうして~?」
ローゼが隣に座る。
「今のはなんだ?」
「これ? ロウリュっていって、汗を流して体を綺麗にするの」
「ほお、ふむ、変わってるな」
「それでどうして無理なの?」
俺もローゼの真似をしてロウリュをする。
「森にはそれぞれテリトリーがあって、さっき言った地下はラヴェジャーの縄張りなんだ」
「ラヴェジャーって怖いの?」
「この家ぐらいの大きさをした蠍だ」
「こわ……戦った事ある?」
「いいや、お互いに戦う理由がないからな。関わらないようにし合ってた」
「なんだか平和的ね」
「そうだな。だが実際は怪我を避けたいだけだ」
「危険なのには変わりないのね」
「お金が必要なのか?」
「ええ、カイスターを出たくて貯めているんだけど、これが中々貯まらなくて」
「カイスターを出るのか? どこへ行くんだ?」
「北の山脈を越えた先にアイアセンっていう国があるの。そこに行きたいと思ってて。スコルも良かったら、一緒に行かない?」
「もちろんだ」
「ンフフ、良かった」
「だがなぜここじゃ駄目なんだ?」
「暫く前から吸血鬼達の出現する場所を探っていたの。そしたらどんどん西に進んでいて、この前はラタエが……次は恐らくここだから」
「アイアセンは安全なのか?」
「道中は危険だけど、その分、アイアセンは安全なの」
「山脈にはドラゴンがいると聞いたが」
「ええ、ドラゴン以外にも沢山危険な魔物が多いの。だからこそ吸血鬼達もアイアセンには簡単に手を出せない」
「だがいいのか? この家は……」
「もちろん大切だけど、いつまでも過去に囚われていたら辛いだけだから。それに死んでしまったら何の意味もないじゃない?」
できれば吸血鬼を食い止めたいが、ローゼの側にもいてあげたい。
そもそも全ての吸血鬼を俺一人で止められるとは思えない。
「そうだな。俺もアイアセンに行く準備を始めるよ」
「さてと、私は起食の用意をしてくるから、ゆっくり体を流してて」
「分かった」
ローゼの料理は旨い。
楽しみだ。




