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部屋を出て行ったドクターはさほど時間をあけずに帰って来た。その手には普段アダムが使っている硬貨とは違い無造作にまとめられた紙幣の束が握られていた。
「アダムさんが口座持ってるどうか知らんかったし一応現物あれば余計な心配せんでええかなって思って持ってきてんけどいらんかった?」
ジャンクタウンの住人にとってはこれだけの金額を貯めようとするのは至難の業と言える大金だが国の支援の下研究しているドクターにとってはそう感慨深いものでは無いのか紙幣の束をひらひらと見せびらかすように動かしている。
「流石にこの金額を現金で持ち歩くってのは色々不安だな。現金で受け取るのは一万クレジット程にして残りは振り込んでもらっても構わないか?」
「あーそういうことも考えなあかんのかごめんごめん。そしたらこれだけ渡して残りは送金しとくでー。」
そう言ってアダムに何枚かの紙幣を差し出したドクターは何やら虚空に向けて腕を動かす。するとアダムの目の前に透明な画面のような物が浮かび上がりそこには何処かで見たような数字の羅列が浮かび上がっている。官営店で体験した情報端末による拡張された視界と同じような現象に面を食らっているとその数字に五万という数が加算された。
「あい、これで間違い無く送金したで。ちゃんと見える様にしたし確認できたやろ?」
「あ、あぁ。今の文字の羅列がそうならちゃんと確認できたがどうやったんだ?情報端末を使ってやったのか?」
そのような操作を行う事が出来そうな物を身に着けている様子が無いドクターがいかなる方法を用いて自分にその情報を見せたのか分からずに疑問を口にしたアダムだったが彼女は意味深な笑みを浮かべるだけだった。
「何を勿体付けてるのか知らないけどこの娘は国から支給された高性能小型端末を自分で拡張して使ってるからそれもその端末の機能で間違い無いよ。」
「拡張?そんな事まで出来るのか?」
「並の端末なら出来る人間は多いだろうけど戦前の技術も使われているような高性能な品を改造できるのはほんの一握りの技術者だけだろうね。」
言外に自身の優秀さが認められたのが嬉しいのかドクターは笑みを深くするとふんぞり返るようにして胸を張る。
「凄いやろ?アダムさんも端末弄って欲しくなったらいつでも持ってきてくれていいで?」
「この金で情報端末は手に入れる気ではあるんだが、正直拡張が必要なほど情報端末を使いこなす自信は無いな。」
「そうなん?じゃあ端末買ったら検査の時に持ってきてーや。色々使い方教えてあげるで。」
「そりゃ有難いが本当にいいのか?」
「暇つぶしみたいなもんやし別に構へんで。ウチが教えたら誰でもある程度は使いこなせるようになるし安心してや。」
自信に満ち溢れたドクターの様子はこの世界の進んだ技術や機械に対する苦手意識が強いアダムであっても任せて見てもいいのではないかと思わせる程だった。
「ならその時が来たら頼らせて貰うからな?かなり出来の悪い生徒になると思うが覚悟しておいてくれよ?」
非常に後ろ向きな言葉を堂々と話すアダムの事をおかしそうに見つめながらもドクターはしっかりと頷いて見せた。
「じゃあ話も纏まった事だし私たちはそろそろ帰るとしようか。」
「あいよー。じゃあアダムさん時間がある時にでも忘れずに検査しにきてやー。」
「武器を無くした以上俺は探索に出る事も出来んからな。検査にはいくらでも協力出来るがどうすればいい?」
「アダムさんも色々装備整えたりするやろ?それが済んでからシンディちゃんにウチの連絡先聞いて連絡してきてくれたらええんちゃう?」
「分かった。シンディには車を出して貰ったり色々迷惑かけてしまったがそれもようやくマシになりそうだな。」
ドクターとの連絡手段が無いアダムはどうしてもシンディを間に立てて連絡を取らねばならずここまで頼る羽目になってしまっていたが情報端末を入手すればそれも何とか出来るようになるだろう。
「迷惑だなんて思っちゃいないよ。それにドクターと二人きりにして妙な実験の被害に遭われるよりマシだからね。直接連絡を取れるようになったとしても一応検査に行くときは私にも連絡しとくれよ。手が空いていたら監視しに来てあげるから。」
「心配性やなぁ。そんなにウチは信用無い?」
「無いね。」
バッサリと切って落とされたドクターが不満げな声を上げているのを見てまた話が脱線する気配を感じ取ったアダムはすぐに口を開いた。
「まぁ俺の手元に物は無いし検査だってどんなことをするかも分からないんだ。その事を今はなしていても仕方ないだろう?」
「確かにそれもそうだね。日頃の行いがあるとはいえ私も疑いすぎたよ。」
それ程までに疑われる日頃の行いというのが少し気になったがそれを突いて藪蛇になるのを恐れたアダムは出掛かった言葉をグッと飲み込んだ。
「じゃあドクター今日も色々と世話になって済まなかったな。数日中には連絡出来るようにするから待っていてくれ。」
「楽しみにしてるから忘れんといてやー。」
まだ若干不満そうな声色ではあったがドクターもこれ以上引き留める気は無いのか二人の事を見送っている。彼女の視線を感じながらも二人は部屋を出ると帰路へと着いた。




