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拳を顔面にお見舞いした姿勢のままアダムは動きを止めたマイケルの次の動きを注視していた。僅かに大振りになった所を狙いすまして一刺しする事は出来たが自らの腕に残る感覚からこの一撃が彼にダメージを与える事に成功しているとは思えずこのまま戦闘続行になる可能性もゼロでは無い。そうなると現在の状況を考えると勝ち目は薄そうだが諦める気は更々無い、次にマイケルがどういった行動を取っても対処しようと構えていたが彼は野太い笑い声をあげ始めた。
「拳とはいえ俺に一撃与えて見せるとは中々やるじゃないか!この訓練は新兵お前の勝ちだ!」
「本当にいいのか?このまま戦い続けていたら俺が負ける可能性が高いと思うんだが?」
マイケルの様子にこれ以上の戦闘継続は無いだろうと判断して警戒を解いた。今出せる渾身の力を持って叩きつけた拳からは痛みを感じるがそれ程の力で殴りつけたにも関わらず平然としているマイケルにはダメージらしいダメージは見受けられない。
「これはあくまで訓練だからな。勝利条件を満たした方が勝者である事に間違いは無いぞ。」
「一矢報いる事は出来たがアンタに大したダメージは無いように見えるしとてもじゃ無いが有効的な一撃とは言えんと思うが?」
あのまま戦闘を続行していたら武器を手放していたアダムが勝つ可能性は限りなく低い物だっただろう。それでも勝利条件を満たしていると言うマイケルに勝ちを譲られているのではないかとアダムは少し不満に思っていた。
「先ほどの一撃は十分な有効打だと言える威力だったぞ。この空間を司っている俺はの判断に納得がいかないのか?それなら勝利条件を変えていつでも掛かってくるといい。と言いたい所だがそろそろ時間の様だ。俺はいつでもここでお前の挑戦を待っているから再戦したければいつでも来るといい。」
さっさと切り上げようとするかのようなそのマイケルの態度にアダムはすぐさま再戦を申し込もうとしたがその前にまた辺りが明るくなり始める。次第に目も開けていられないようになってしまいそのまま光の奔流に飲み込まれていく事になってしまった。
「うっ・・・。ここは・・・?」
光の奔流が収まりアダムが目をあけるとそこはドクターの家の一室で訓練が始まる前と何ら変わりのない光景が広がっていた。困惑しながらも装着していた装置を外しているとマイケルに叩き込んだ際に痛めていた拳に痛みが残っていない事に気づく。その事に不思議に思い良く確認していると不意にその手が掴まれる。
「いやー!アダムさん凄い戦いだったねぇ!私ビックリしちまったよ。何で骨董品みたいな武器を使ってるのかと思ってたけどあれだけ動ければ扱えるもんなんだねぇ。」
アダムとしてはとても納得のいく内容の戦いでは無かったが、シンディにとってはそうでも無かったようで興奮した様子で手を握り勢いよく振り回してくる。
「シンディさっきの戦いを見ていたのか?あの場には居なかっただろう?」
あの場には間違いなくマイケルの気配しか感じられなかったため、その戦いを観戦していたような口ぶりのシンディに向けて怪訝な表情を浮かべるアダムだったが彼女は部屋の中に置かれたモニターの一つを指差す。
「訓練が始まる前にドクターが言っていただろう?訓練の様子はあのモニターでずっと見られるように設定されてたんだよ。だから最初から最後までアダムさんの勇姿は私がバッチリ見て応援してあげてたのさ。」
シンディが指差したモニターには既に何も映っておらずいったいどのようにして訓練の様子が映されていたのかは予想する事は出来ない。
「色んな事が起きすぎて忘れていたがそういえばそんな事も言っていたような気がするな。」
「まぁ初めてこのプログラムを実行する時は驚くのは当然だから安心しな。しかもドクターが手を加えて色々弄ってたから大変だったろう?特に最後の戦いなんて私は驚きっぱなしで手に汗握って応援しちゃったんだから。」
興奮冷めやらぬ様子のシンディはまだ少し頬を紅潮させていた。そこまでして自分の応援をしてくれていたという事実にアダムには少し照れくさくも思ったが、それ以上にあの空間にマナが存在していなかったおかげで人の枠組みを大きく超えた戦いを見せずに済んだことにひっそりと安堵もしていた。
「応援されているとは思っていなかったからかなり情けない戦いになってしまって申し訳ないな。あれ以外の手が思いつかなかったんだ。」
「ずっと耐え続けての最後の一撃には私も思わず声が出たんだからそんな事気にする必要はないよ。あれは明らかにドクターのプログラム弄ったせいだからあの娘が帰ってきたら文句の一つでもぶつけてやるんだね。」
「本来の訓練とはそんなに違っていたのか?」
「全くの別物だよ?スカベンジャー相手だから入れたのかもしれないけど私が実験台になった時は最後の戦いなんて無かったしスコアもあんなに高く設定されてなかったからね?」
「そうなのか?体力測定自体が初体験だったから新鮮で面白かったんだがドクターは何故そんな事をしたんだろうか?」
アダムの疑問の声に少し考え込む素振りを見せたシンディだったが直ぐに分からないとでも言いたげに首を竦めて見せる。
「さぁね。あの娘の考えてる事は私みたいな凡人には想像できないよ。何か意図があったのかもしれないし単純に思い付いたからやってみただけって可能性もあるから難しく考えても無駄さ。」
勇者としての長い生の間に何人もの天才と呼ばれる者と接してきた経験から彼、又は彼女らの突拍子もない様に見える行動にも意味がある事をアダムは理解していたが、それを予想するにはあまりにもドクター本人の情報が足りていなかった。
「それもそうだな、何か考えがあったのなら本人がいずれ教えてくれるかもしれないし、今回貴重な経験が出来ただけ良しとするか。」
その返答に満足したのかシンディは二度三度と深く頷いている。
「それが一番だよ。時間的にそろそろあの娘が戻って来るかも知れないし今話した内容も気づいていない振りしてな。下手に刺激すると厄介な事になりかねないからね。」




