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「これで設定はOKや。」
ほどなくして声が聞こえ、視界をちらついていた文字がすっと消えた。ようやく視界がクリアになり、アダムが周囲を見回す。その視界の端でドクターが椅子の脇の機械を操作し始めていた。
「ほな、起動するで。シンディちゃんはそっちのモニター見てたら測定の様子は見れるようにしてるから見とってくれたらいいしー。」
「ちょっと待て、起動するって俺はどうしたらいいんだ?」
「起動したらプログラムの指示に従ってれば測定終了まで進んで行くからそんなに心配せんでも大丈夫やで、終わるころには兄さんの持って来たロボットの分解も終わってるやろうから頑張ってやー。」
焦ったような表情を浮かべるアダムに対してケラケラと笑いながら装置を起動したドクターを止めようと手を伸ばそうとするが、突然視界が明るくなり眩しさに目を瞑る。女神に転移させられる時にも似た状況に驚きを隠せずにいたがその光はすぐに収まったようだった。恐る恐るといった様子で目を開くとアダムの周囲の状況は一変していた。
「どうなってるんだこれは・・・。」
先ほどまで小部屋で椅子に座り頭にはヘルメット状の装置を付けていたはずだが、いつの間にか何もないだだっ広い空間に一人取り残されている。何故か自分の服装も変わっており同じ部屋にいたはずの二人の姿も見えなかった。本当に転移魔法でも使われてしまったのだろうかとアダムが考えているとその背中に声が掛けられる。
「おい、新兵ボーっとするな!訓練を始めるからさっさと位置につけ!」
気配すら無かったその野太い声に驚いて振り向くとそこには大柄な男が一人立っていた。アダムと見比べても遜色ない鍛えられた肉体をしており、その見た目から世界は違えど軍属の人間が漂わせる独特の気配を感じるが、突然現れたその男に多少警戒したような視線を向ける。
「なんだその顔は納得できないのか?俺は貴様のような新兵の訓練を星の数ほど受け持って来た。訓練教官のマイケルだ!俺を呼ぶときは教官か軍曹と呼ぶように!まずは体力測定から始めていく、さっさと所定の位置につけ!」
マイケルと名乗った男が地面を指すとその地点が淡く光を放ちマークされる。いよいよ現実かどうかも怪しくなって来たがここでアダムはドクターが言っていた事をふと思い出した。
(どうやらこの男がドクターの言っていたプログラム?とかいう奴か?もしそうなら良く分からんが指示に従っていけばいいんだろうか。)
アダムに取っては理解の及ぶ範囲を超えていたが、とにかく流れに身を任せる様に光る地面の上に立つと横に立つ男が喋り出す。
「よし、位置についたな。それでは始めていくぞ。」
「あーそれで教官?俺は何をすればいいんだ?」
「まずは貴様の基礎体力を測定していく!種目は簡単な物が多いが手を抜かずに全力で取り組むように!まずは短距離走から始めていくぞただ走るだけだ。お前のような新兵でも分かりやすい種目だろう?もし他の新兵共のスコアが気になるならそこのスイッチを押してみろ。」
マイケルがそう言うと何も無かったスタート地点の空間に突然土台とスイッチが現れる恐る恐るアダムが押すと視界に他の挑戦者の成績が浮かび上がってきた。シンディやドクターも挑戦したのか彼女らの名前もちらほら並んでいたがどれも平凡な記録で図抜けて高いスコアは全て訓練教官マイケルの物のようだった。
(この教官の記録がこの世界でどの程度のスコアなのかは分からんがここまで抜けているとなるとかなり難しい記録なんだろうな俺がどの程度の記録を出せるかは分からんが簡単に越えれそうなら上手い事セーブしないといけないか?まぁまずはやってみてから考えるか。)
アダムがスコアを眺めながら方針を決めるとマイケルの方をちらりと見る。
「そろそろ準備はいいか?ただゴールまで走り抜ければいいだけの単純な種目だ貴様の能力を示してみろ。」
「了解した。教官それでは始めてくれ。」
アダムがそう言うと離れた所に見えるゴール地点が淡く光を放つと視界にカウントが表示される。徐々に減っていくそのカウントが0になったと同時に勢いよく足を踏み出した、良く分からない場所に飛ばされたが、身体自体は現実と同じような感覚で動くようでグングンと速度を上げるとゴール地点を通過する。すると、視線の高さに自身の成績が表示される。先ほど見た成績と比べると教官のマイケルに次いで二番手のスコアではあったがその差は大きく開いている。
(教官とその他の記録の差がデカすぎる気がするが、何か意味があるのか?他の人の目標にするとしても意味が無いような気がするが?)
スコアの隔たりにアダムが疑問の表情を浮かべるがその背中に野太い声が掛けられる。
「新兵!中々の成績を残したようだな!俺には遠く及ばんがやるじゃあないか、努力を怠らなければ記録も向上するだろうから気を抜くんじゃないぞ!次の種目のスタート地点はあそこだ、準備が出来たら移動するように。」
またしても気配を掴ませず背後に現れたマイケルに、アダムは一瞬だけ身構えた。だがその振る舞いには、敵意よりも役割のようなものを感じ始めていた。
(神々の分け身や試練の使者やそれに似た存在は、これまでにも何度も見てきた。恐らく彼も似たような存在…か?)
様々な超常的な存在と顔を合わせてきた経験がアダムの頭の片隅をよぎる。この教官もまた、この空間で測定を受ける者を導くための存在そんな予感が、次第に確信へと変わっていった。それを裏付けるように指示された地点へとたどり着くとそこには当然のように仁王立ちしているマイケルの姿があった。
「準備できたようだな新兵!さっさと次の訓練を始めるぞ!」




