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「止めだけ持っていくなんていい性格してるじゃないか。ま、助かったからよしとするがな。」


 アダムが苦笑いを浮かべながら後ろを振り向くと、ボス犬は自慢げに一声吠えるとゆっくりと地に伏せる。脅威は去ったため傷ついた身体を癒す事を優先したのだろう。仲間を庇って奮戦していた彼はその身体に無数の傷を負っており痛々しい姿を晒している。そうこうしている内に戦闘の気配が無くなったのに気づいたのか横穴に退避していたのか群れの生き残りが戻ってくる。皆心配そうにボスの周りに集まっているが、アダムはその中に一頭のハウリングドックの姿を見つける。ボスよりは二回りほど小さく美しい毛並みをしたその個体が何よりも目を引いたのはそのお腹が大きく膨らんでいると言う事だった。彼女は傷つき地面に伏せるボスに寄り添うと身体を寄せ傷口を慈しむように舐めている。


(あれがこのロボットと逃げずに戦った理由って訳か。身重の妻を守るために勝ち目の薄そうな強敵と戦う事を選んだ訳か。ミュータントとはいえ美しい光景じゃないか。ミュータントの巣に関連する依頼もあるから本当は今コイツらを排除した方がいいんだろうが、こういった光景を見せらせると情が移るんだよなぁ。)


 困ったように頬を掻くと剣を収め自身が両断し機能を停止したロボットの姿を眺める。アダムより頭一つ分ほど小さいサイズだったロボットは胴体の分厚い装甲に守られていた装置もろとも両断され無残な姿を晒している。盛大に破壊してしまったとはいえ貴重な機械部品の塊である事は間違いないのでこれを持ち帰り上手く分解する事が出来ればかなりの金額になる事は間違い無いだろう。


(問題はどうやって分解、換金するかだな。当然だが俺に分解することなんて出来ないし、頼りになりそうなのはドクターだが会えるかどうかも分からない。となるとシンディに相談するべきだが、いくらミュータントの群れと共闘したと言い訳できるとはいえコレは流石にやりすぎ・・・だよな?何か上手い説明を考えておかないとな。)


 両断したロボットを弄りながら思考に意識を割いていると、後ろがにわかに慌ただしくなる、何事かと思い振り返るとボスの周りに集まったハウリングドック達が心配そうに右往左往している。遠目にはボスの様子には変わったところは見受けられず近づいて確認しようと思ったが警戒の色強いハウリングドック達に行く手を遮られる。


「待て待て待てって、敵対する意思があるならもう攻撃してるに決まってるじゃないか?その焦り具合からしてボスに何かあったんだろ?なら何とか出来るかもしれないから俺に見せて見ろって。」


 唸り声をあげる彼らに説得するように声を掛けるが群れのボスとは違い言葉が通じている様子は無かった。アダムがそれ以上近づけずにいるとボスが一鳴きする。先ほどまでの咆哮と比べるとひどく弱弱しい鳴き声だったが道を開ける様に指示したようで不承不承といった様子で配下の者達が道を開ける。刺々しい視線を浴びながら彼の元に近づくと浅い呼吸を繰り返しながらも知性を感じさせる瞳をジッとアダムの方へ向けていた。


「君の旦那の事ちょっと見せて貰うぞ。」


 ボスに寄り添い心配そうに鼻を鳴らしている彼の妻に律儀に声を掛けるとそっと彼の身体に残る傷の様子をみる。見た限りそう深い傷は無さそうに見えたが、体毛に隠れる様にして深い傷が刻まれている箇所を発見する。傷の深さからかなりの痛みを感じていそうなものだが、群れの生き残りに心配を掛けまいとしているのか気丈に振舞っているようだ。


(やはりこの個体だけはマナに対する親和性が高いようだな。それが群れのボスを担えるほどの能力を得た原因か?)


ボスの体内を巡るマナの気配を感じながらアダムは少しの逡巡の後自らの収納魔法の中からポーションの瓶を取り出した。


「さて、これは俺の知り合いが調合した回復効果のある飲み物でな。体内のマナを活性化させ傷を癒すことが出来る。恐らくはお前の傷にも効果がある・・・筈だ。まぁ信じられないだろうからまずは俺が飲んで見せよう。よくみてろよ?」


そう言うとアダムはポーションを口に含むと二割ほどを飲んで見せる。するとロボットの放った閃光によって抉れていた肩の傷跡がみるみる内に塞がっていく。浅い呼吸を繰り返しながらもその光景が信じられないとでも言いたげに目を見開くボスはアダムの手に持つポーションと傷口に交互に視線を移していた。


「効果は理解できたろ?じゃあ残りはお前にやるからグイっといってくれ。」


 安心させるように掛けられるその声に答える様に小さく吠えるとボスは瓶に入ったポーションを器用に咥えると一息で飲み干した。すると見る見るうちに身体に残された痛々しい傷口が塞がっていく。毛皮に流れ出た血液が付着していなければ誰も彼が重傷を負っていたなどと信じる事はしないだろう。傍らに付き添い心配そうに見守っていた身重の妻は喜色満面といった様子で身体を寄せて来る。不思議な飲み物で傷を癒してくれた人間の意図は分からなかったが、巣を襲っていた脅威を排除してくれた事と合わせて大きな借りが出来てしまったのは間違いないだろう。


(よしよし、効果はあったようだな。ということはこの世界の生き物にもマナは存在しているという事だ。大多数は感じ取れないほど微弱なものだがそれが分かっただけ良しとしよう。)


マナの気配が微弱なこちらの世界の生き物にポーションが効くのかどうか多少の不安はあったが問題無く効力を発揮したようでアダムもほっと胸を撫で下ろした。


「失った血液や体力までは回復しないからそこは注意しておけよ。」


 その言葉に答えるように吠えるボスに寄り添う妻という仲睦まじい様子を見せる夫婦の様子にアダムは満足そうな笑みを浮かべていた。

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