62
まだショックから立ち直っていないシンディと、どうやって声を掛けようかと迷っているドクターの間に沈黙が続いていたが、空気を変えるかのように一つ大きく手を叩くとアダムが注目を集める。
「とにかく今日ここに来た理由は解決できたんだそれで良しとしようじゃないか。」
「それもそうだね。スカベンジャーが姿を消していた理由も判明したし、依頼は終了だね。こんなすぐに解決するとは思ってなかったからまずはよかったよ。」
思った以上に早くキューブの正体は判明したが、新たな脅威が判明した事によってシンディとしては頭痛の種が変わっただけという結果になってしまった。今のジャンクタウンに暴走機械を倒せるようなスカベンジャーは居るはずもなく、何らかの対応を考えなければならない。
「ところでドクター、ジャンクヤードには大体何台ぐらいのロボットが徘徊していると思う?街の住人はその存在すら疑っていたようだが?」
「えぇ?それは流石のウチも分からんかなぁ。ジャンクヤードで動いてた機械の大部分はあの壁の内側に押し留めれてるはずやから、どっかに抜け道でもない限りはそんなに数は多くないとは思うけど、予測の域を出えへんからちょっと自信無いなー。」
「そりゃそうだよな、すまない変な事を聞いた。」
「アダムさん変な事考えてないだろうね?この件は今のジャンクタウンの戦力では手に負えないと思うから下手に動かなくていいからね。私が伝手を当たってみるから無茶しないでおくれよ。」
アダムから何やら不穏な空気を感じ取ったのか釘を刺すシンディだったが、当のアダムはそれほど気にした様子を見せてはいない。
「そんな事無いさ、今後も依頼の為にジャンクヤードに通う事になるんだ。どれぐらい危険があるか予想するのは重要だろう?」
「本当かい?一応信じるけど下手な事をしたら依頼を回さないからね?」
「壊れかけの機体と出会いでもしない限りはこちらから手を出す事はしないさ。信じてくれよ。」
アダムはそう言うがどうも言葉が軽くシンディは少し違和感を感じるが、まともな人間であればそんな無茶をするはずが無いと思い直し自分の考えすぎだと一人納得する。
「もし破壊出来て部品の一つでも拾えたら結構な金額で取引されそうやけど、そのために命落としたら意味ないやろしね。それが賢明やと思うで。」
「シンディの伝手とやらで事態が解決するまでは安全を意識して立ち回らないといけないな。どれぐらいの期間で解決できると思う?」
「私の伝手で暴走機械を倒せるようなスカベンジャーを他の街から呼び寄せて破壊してもらう事になるから、新しい問題が出てこない限り一月もかからないんじゃない?」
「解決までに時間がかかるようなら少しぐらい協力したほうがいいかと思ったが、それぐらいなら俺が無理する必要も無いだろうし大人しくしてるさ。」
「そうしておきな、ミュータントを相手にするのとはわけが違うからね。危険な事はそれに見合った装備の良い人に任せればいいのさ。」
困っている人がいれば手を差し伸べてしまう性質のアダムは、今回もシンディが本当に追い詰められているのなら、目立つことを厭わず暴走機械を倒しに行っただろう。だが、街の人間の手で解決できる見込みがあるのなら、その役目まで奪うつもりはなかった。
「ところで、なんでアダムさんはユリナちゃんの事をシンディって呼んでるん?あだ名?」
「何度も説明したけど覚えないのはアンタじゃないのさ。ユリナは本名でシンディは仕事してる時に使ってる名前なの、分かる?プライベートの時以外はシンディって呼べって言ったでしょ?」
「でもここはユリナちゃんのお店じゃないやん?なら仕事じゃ無くない?」
話の腰を折るように質問したドクターに、うんざりとした様子でシンディは話しているがドクターは不思議そうに首を傾げる。ドクター自身は他人と顔を合わせる事が殆ど無いため自分がどう呼ばれようと気にしておらず、不特定多数の者と顔を合わせ付き合う事になるシンディの気持ちは分からないようだ。
「プライベートでアンタの所に来ることはほとんど無いってんだよ!今日だって酒場のオーナーとして来てるんだよ!百歩譲って私だけの時はいいけど他に人がいる時ぐらいは気を使っておくれよ。」
ドクターの住居に人を連れて来る事などまず無いため自分の本名が漏れる事は無かったため失念していたがドクターの家に誰か連れて来るとこういった事が起こると可能性があると理解した。幸い自分が憎からず思っているアダムを連れて来た時に起こったので被害は無かったが、これが別の人物だった場合の事を考えると肝が冷える思いがしたシンディは少し強めに注意をすることにした。
「ドクターは酒場で働いているシンディを見た事はあるか?そりゃあ大変な人気でな、あれだけ人気で人とかかわるならある程度プライベートと区別するために別の名前を名乗るのは仕方ない事だと思うぞ。」
初対面のアダムにまで諭され少し神妙な面持ちで考え込み、真面目な表情を浮かべるドクターは途端にクールな表情を浮かべる麗人へと印象をガラリと変えるが、すぐにその表情は消え笑顔に変わる。
「わかった!これから他の人がいたらなるべくシンディちゃんって呼ぶようにするわ!でもそれ以外の時はこれまで通りにユリナちゃんって呼ぶで!それならいいやろ?」
「これまでのイロハを見てたらあまり期待できないけど、その言葉が聞けただけ前進したと思っとくよ。」
「お兄さんも今日ウチから聞いたシンディちゃんの本名の事は内緒にしといてな!」
「俺は元よりそのつもりだ、シンディもその方がいいだろうしな。」
その返答を聞いてほっとした表情を浮かべるドクターはこれでシンディも機嫌を直してくれるだろうと隣を見ると何故か少しつまらなさそうにしていて、予想外の反応に少し目を丸くした。




