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 地下へ降りると、その先には奥まで続く長い廊下が広がっていた。地上部分だけを見ればこじんまりとした建物だったが、地下には想像以上に広い空間が作られているようだ。


 廊下の両脇には小部屋が幾つも並んでおり、部屋ごとに用途が分けられているらしい。中を覗けば、液体に満たされたガラス製の大きな筒の中にミュータントや生き物の一部が浮かべられている部屋もあれば、壁に血痕のような跡が残る部屋もあった。


 内部の様子はどれも異なっていたが、共通して言えるのは一様に不気味な雰囲気を醸し出しているという事だった。


(研究者ってのは世界や技術レベルが違ってもやってることは似たようなもんなんだな。)


 魔法技術と科学技術という根本的な違いはあれど、元の世界でも善悪問わず様々な研究が行われている所を調査に訪れ、モノによっては世に不幸をまき散らす前に破壊して回っていた経験上こうした研究が行われている施設は見慣れていた。一般的な人が目にすると目を背けたくなるような物も飾られていてそういった物から距離を取るように、シンディは足早に進んでいく。


 長い廊下を歩きようやく一番奥の部屋へとたどり着くとシンディが勢いよく扉を開けそのまま挨拶もせずにずかずかと中へと足を踏み入れる。室内は広々としているが生活用品などは一切無いようで、棚や机の上には研究機材や生き物の標本らしきものが散乱していた。 部屋の中央付近に置かれた一際大きな机に腰掛け、端末を凄まじい勢いで操作している女性の姿があった。黒い長髪を背中に流し、切れ長の瞳を端末に向けたまま、指先だけを機械的に動かしている。その姿勢は微動だにせず、呼吸すら意識の外に追いやっているかのようだった。その様子を見たシンディは小さくため息をつくと近くの机に腰掛ける。


「さっき通信した時に分かっていたけどあの状態だと何してもこっちには気づかないだろうからここ落ち着くまで少し待とうじゃないか。」


 隣の席をポンポンと叩きアピールするシンディと向かいの席に座ると彼女は少し不満そうな表情を浮かべたが、アダムはドクターの方を眺めながら気づいていない振りをした。


「ドクターってのは随分若かったんだな。本当にそんなに優秀なのか?」


国にここまでの事をさせているなら実績ある壮年の研究者が出迎えてくれるものかと思っていたアダムは若干の肩透かしを食らった気もしていた。


「ここまでされるような人間には見えないって?あれでも首都にあるこの国の最高学府を飛び級で卒業した神童って奴でね。国の連中が言うには未解明だった戦前の技術を幾つも現代に復活させたらしいよ。私より幾つか年下のはずだから二十歳をこえたぐらいだってのに凄いだろう?実際あらゆる分野に精通してるからこういう時には頼りにはなるけど万事この有様だからねぇ。周りの人間が尻拭いさせられるって訳。」


凄まじい集中力で作業しているドクターには二人が話す声も聞こえていないようであまりの気づかれなさに逆に心配になって来る有様だった。


「成程なだから変わり者って事か、その若さでそれだけの成果を上げてるから国もこれ程手厚く支援してるのか合点がいったよ。しかしそのドクターと数歳違いってことはシンディは大体にじゅっ」


「それ以上は口に出すんじゃないよ。」


 素早い動きでアダムの頬を手でつかむと言葉を止めたシンディはニッコリと笑みを浮かべているが得体の知れない威圧感を纏っていた。その有無を言わせない様子に首を何度か縦に振る。それに納得した様に頬を開放されたアダムは痛む頬をさする。


「そう言うアダムさんは幾つなのさ?」


「自分は言わないのに人にはきk・・・いやなんでも無い、俺の歳なんて聞いて意味があるのかは分からんが大体35ぐらいだと思うぞ。」


 不用意な発言をギロリと視線で潰された少し考えながらもアダムが答える。多少言い回しに引っかかりを覚えるが、物心ついた頃には既に親が居ない孤児など珍しくも無い世の中では正確な自分の年齢を把握していない者も多いためシンディもさほど気にする事も無かった。女神の加護によりアダムは人としての寿命は超越しており、実際の所はその十倍程度は生きているかも知れなかったが、当の本人は百を幾つか越える辺りで老いることの無い自分に嫌気がさして年齢を数えるのを止めてしまっていた。そのため実年齢は分からないがアダムは自分の事を良く知らない人に年齢を聞かれた場合は大体老化が止まった辺りの年齢を答える事にしていた。


「へぇ~そうなんだ。35ぐらいか~」


 一人納得するように明るい表情で頷いているシンディを不思議そうに眺めるアダムだったが、その真意を探る前に室内に大きな音が響く音のした方を二人が向くとドクターが作業を終えたようで立ち上がり大きく伸びをしていた。白衣を身に纏い姿勢よく立つ姿は凛としており、均整の取れた身体つきと涼し気な表情も相まって、少し冷淡な印象を受ける。気づかぬ内に部屋の中に入り込んでいた二人の姿に気づくと視線を向ける。何を言わずに眉間にしわを寄せじっと冷たい目を向けられる事に少し居心地の悪さを感じ始めた頃ドクターは何かを思い出したかのように手を叩くと胸ポケットに入った眼鏡を取り出すと装着すると声を上げる。


「なんや誰かと思ったらユリナちゃんやん男連れで今日はどないしたん?」


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