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整備された道路を走り始めてから数分もしない内に廃墟の中に明らかに人の手によって瓦礫が撤去された区画に到着する。荒れ放題だった荒野に突如として現れた空白地帯にはぽつんと一軒の建物が建てられていた。
「まぁ見たらわかるだろうけどあれがドクターの家だよ。」
「この区画はドクターの住居の為だけに手入れされてるのか?」
たった一人の住居を建てるためにそこまでするのかと言いたげな様子のアダムは先程まで気分が悪かった事も忘れたようにじっとドクターの家を見つめている。初めて見る四角い箱状の建物の屋上や外壁にはジャンクタウンでは見た事の無い用途不明の装置が多数取り付けられていた。
「そうだよ。引っ越して来る前に国が指定した業者が入って瓦礫を撤去してドクターの指示した通りの家を建てたのさ。一人でも不自由なく暮らせるように色々用意までさせたんだってさ。スケールの大きな話だろう?」
「確かにこれは俺の想像を遥かに上回って来たな。逆にここまで優遇されているドクターとやらに会うのが楽しみになって来たぞ。」
ドクターの住居の敷地内に車を止めると二人は降車する。建物の立派さだけではシンディの家の方が勝っていたが道の設備にアダムが気を取られている間にシンディは車両後部の収納スペースからバックパックを取り出しアダムに渡そうとするがビクリともしない。中に入っている正体不明の箱状の物体は二つ合わせるとかなりの重さに達していて、力仕事とは無縁のシンディがいくら引っ張っても根を張ってしまったかのように動かす事は出来なかった。
「重たっ!アダムさん昨日からこんな物持ったまま歩き回ってたのかい!?」
驚いたように声を上げるシンディの声に気づいたアダムは彼女に駆け寄ると、何も入っていないかのようにひょいっとバックパックを手に取ると軽々と背中に背負って見せる。いくら体格に優れているとは言え、自分が持とうとした際に感じた重量感を感じさせないその動きに驚いたようにシンディは目を見開いた。
「アダムさんあんた凄い力持ちだねぇ。懐事情から察するに身体機能拡張してるってわけじゃ無いんだろう?」
「うん?それが何かは分からんが俺は生身の人間だぞ?まぁかなり鍛えているのは間違いないがな。」
自らの力を誇示するように力こぶを作って見せるアダムの腕の筋肉は見事に発達しており、服の上からでもはっきりとわかる程隆起していた。
「はー、こりゃ大したもんだねぇ。見事なもんだよ。」
感心したように腕の筋肉に触れるシンディは、これほど見事に鍛えているなら軽々とあのバックパックを持つのも不思議では無いかと納得する。アダムが最初にこの世界を訪れた時に出会ったごろつき三人を引きずる姿をシンディが目撃していれば流石に怪しんだかもしれないが、この程度であれば納得させれるだけの肉体的説得力はアダムは持ち合わせていた。
「それで?この建物は何処から入ればいいんだ?」
「えっ?あぁ。悪いねこっちだよっ」
ぺたぺたと夢中になって自らの腕の筋肉を触っているシンディに声を掛けると、ピタリと動きを止め腕を離し、我に返ったようで急ぎ足で先に進んで行った。ドクター宅の入り口には立て看板が掲げられており正面入り口と記されていて一応診療所として体裁を整えているようだが、こんな場所にまで通って来る患者がいるとは思えなかった。それを示すように金属製のシャッターが下ろされており中の様子を伺い知ることは出来なかった。
「開いて無いみたいだな?」
「おっかしいねぇ?開けとくように昨日ちゃんと伝えたはずなんだけど・・・」
声を掛けたりシャッターをノックしてみても中からの応答は無い。それどころか人がいる気配もしない為アダムが少し不安に思い辺りを見回すが特に異常は見られない。
「しょうがないね。ちょっと連絡してみるから待っててよ。」
少し離れた場所で情報端末を使って連絡を取るシンディだったがドクターには中々繋がらないようで何度か操作をやり直しているようだった。少し眉間に皺が寄っている事から苛立ちを募らせている事は分かるが、アダムにはどうすることも出来ないので見守る事しかでき出来ずにいた。その後も何度かトライした後にようやく繋がったのかシンディの声が聞こえて来る。
「・・・もしもし、聞こえてるかい?昨日アタシが連絡した時に頼んだことを覚えてるかい?」
苛立ちを紛らわせるかのように足でリズムを刻みながらドクターと話をしていたが、徐々に語気が強くなっていく。話している内容から察するにドクターは約束は忘れてはいないと主張しているようで言い合いは激しさを増していった。
「と・に・か・く!アンタが約束を忘れたのはもういいから!さっさと入り口を開けなっ!」
吐き捨てるように通話を終了したシンディはドスドスと足音を出しながら戻ってくる。それと同時にシャッターが動き出し上がっていく。
「アダムさん待たせちゃって悪いね。あれこれ言い訳するもんだから時間くっちまったよ。」
「まぁ俺は気にしてないさ、むしろあんたがついて来てくれていなかったらここで引き返す事になっていただろうからな。」
おどけたように首をすくめるアダムはゆっくりと上がっていくシャッターの下を潜り中の様子を伺う。屋内は薄暗く明かりは灯されていなかった。
「ちっ、どうせなら明かりも着けりゃいいのに気の利かない奴だね。」
「このまま進んで大丈夫なのか?それともドクターを待った方がいいか?」
「どうせ自分の研究室から出てこないだろうからさっさと行こうじゃないか。」
まだ苛立ちは収まらないのか悪態をつきながらシンディは薄暗い中をズンズン進んで行く。足元に気を付けながらアダムもその後に続いていく。建物に入ってすぐの辺りはやはり診療スペースのようで使われた形跡は無いが医療器具のような物が置かれている小部屋等も見られたがシンディは目もくれずに奥へと進んで行く。
「ここの構造を良く分かっているようだが、よく来るのか?」
「私はこの辺りの顔役を任されてるからね。国の連中からの連絡をドクターが無視すれば私を通して連絡を取る必要があるんだよ。だから非常に不本意ながらここに通って来る事が多くなるって訳さ。」
苦い表情を浮かべながら一枚の扉の前に立つと扉に着いた装置にシンディは手をかざした。すると重そうな扉がゆっくりと開いていく。扉の先は地下へ降りる階段のようで唯一そこだけは明かりが灯されていた。
「ここを下りるのか?」
「そうさ、地下は研究スペースだからちょっとショッキングな物が飾られてるかもしれないけど気にしたら負けだよ。」
不穏な言葉を残して階段を下りていくシンディに、嫌な予感がよぎるが覚悟を決めるとその後に続いて階段を下りていく。




