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促されるようにしてに座席に着くと車内を見回す。内部は思いの外広かったがアダムの体格からすると少し窮屈さを感じる。収まりの良い態勢をとろうと身を縮めるようにして座席の上でもぞもぞと身体をよじる。そうしている内に隣のドアが開きするりと身体を滑り込ませてきたシンディは窮屈そうな様子のアダムを見てクスクスと笑う。
「アダムさん大きいから窮屈そうだねぇ。少し待ってなよ。」
運転席に座ったシンディが車内にあるコンソールを操作すると突然座席が動き出す。アダムが驚きの声を上げている間に座席の位置が変わり多少窮屈さが軽減された。
「これも機械の制御って奴なのか?」
「そうそう。搭乗者の体格に合わせて自動的に調整してくれるんだけどアダムさんにはそれでも少し窮屈かもしれないね。」
「それ以外は快適なもんだしこの程度で不満を漏らしてたら罰が当たるってもんだ。」
これまでアダムが移動に使ってきた馬や騎乗用の魔物と比べても車の座席の乗り心地には雲泥の差がつけられていた。それは王侯貴族からの依頼の際に乗車する最高級の馬車にも勝るとも劣らない物で多少窮屈なぐらいでアダムが不満に思うはずも無かった。
「そうかい?じゃあ少し我慢しとくれよ。発進の前にそこについてるベルトをこうやって身体に通すんだよ。かなり揺れると思うから固定していないと危ないからね。」
丁寧に教えてくれるその動きを真似するようにして装着して身体を固定すると隣を見る、シンディの身体を通るベルトは彼女の胸元の深い谷間に埋もれるようにして一部良く見えなかったが、付け方は間違ってはいないだろう。
「オッケーじゃあ発進するよ。そんなに速度は出さないから安心しなよ。」
緊張した様子が続くアダムを安心させるように笑いかけるとエンジンを掛ける。ゆっくりと進みだす車と共にガレージのシャッターがひとりでに上がると視界が開けていく。そのまま敷地内をゆっくりと進んで行き自動で開閉する門を通って道へ出る。
「乗り心地はどうだい?街中はまだ昔の整備された道路が残ってるから揺れも少ないけど荒野に出たらこうはいかないから今のうちに覚悟しておくんだね。」
シンディの言う通りジャンクタウン内は道路の舗装が残っている所も多く地面から伝わる振動も少なく快適な物だったが、車がジャンクタウンの外へと出て数分もしないうちにその状況は一変する事になる。大昔の戦争で破壊された跡を色濃く残す荒野には舗装された道路の残骸が残るだけで車は荒れた大地の上を直接走る事になる。街中を走っていた時と速度に変わりは無かったが身体に伝わる振動は激しさを増していく。アダムは元居た世界では大半の場合は馬や騎乗用の魔物の背に乗り移動していた事もありそういった振動や揺れにも強い方ではあったが、激しい二日酔いを解毒魔法によって誤魔化している状態ではこれが長く続くのは好ましいとは言えなかった。
「随分揺れるがドクターとやらの家に着くまでずっとこんな感じか?」
「残念だけどそうだね。もしかして車酔い?ドクターの家まではまだしばらくかかるんだけど大丈夫そう?」
「どちらかといえば昨日の酒が原因だろうな。とはいえまだしばらくは問題無いが、長時間このままだとちょっと厳しいかもな。こんな事なら昨日飲み過ぎなければよかったか?」
記憶の一部を無くすほど痛飲した事を後悔するような呟きにシンディはバツの悪そうな表情を浮かべる。
「それは私が楽しくなって飲ませ過ぎたのが悪いんだよね。こうなる事は予想できたのにアダムさんには申し訳ない事をしちゃったよ。」
「いや、気にすることは無いぞ。あまり記憶に残ってないが酒を飲み続けたのは俺の意思だしな。久しぶりの宴会が楽しくて飲み過ぎた俺の責任だ。」
昨晩の宴会が始まってすぐのころは翌日の事を考えて酒量を控えようとも考えていたはずだが、数多くの親衛隊が出来るような美女であるシンディを独り占めにして飲む酒が不味い訳も無くついつい杯を重ねる結果となった。それ以降は断片的な記憶しか残っていないが、これまでの自分自身の経験からアルコールに茹った頭で最悪解毒魔法の世話になればいいだろうと短絡的な考えをしていたのだろうと予想がつく。世界が異なる事で効力が落ちているであろう事すら頭に無かった昨晩の自分を内心で詰りながらも意識を紛らわせようと車窓から流れていく景色を眺めている。
「そう言って貰えると私も少し気が楽になるよ。一応なるべく揺れの少ないルートを選んで通るけど何処も似たようなもんだから期待はしないでね。」
ちらりと隣のアダムに視線をやると憂いを帯びた眼差しで彼は遠くを眺めており何でも無い日常であるならば非常に絵になる姿だったが、現在はそれが酔いと戦おうという姿だと分かるシンディは
静かにアクセルを踏み込んだ。
倒壊した廃墟や風化した瓦礫といった変わり映えのしない景色の中砂埃を上げて走る車の車内で激しく揺れる振動との戦いを続けていたアダムの限界が近づき無詠唱での解毒魔法を唱えるかと考え始めた頃、激しく揺れていた車内も落ち着きを取り戻していく。時間にすればそう大した時間では無いだろうが永遠とも感じられた時間が終わった事にアダムは安堵の息を漏らした。
「ここまで来たら安心だね。ドクターの家にはたまに国とのやり取りがあるようでその時の為に最低限整備されてるんだよ。ここを整備するならジャンクタウンまで道路を伸ばしてくれりゃあいいのにね。」
「一つの街より一個人の方が優先されてるって言うのか?そりゃまた随分な話だと思うがそんな優秀な人物が何でこんな辺鄙な所に住んでるんだ?」
「元は首都にある研究所で働いてたらしいけど思ったより面白く無かったんだとさ。それでここに越して来たって言ってたけどそれも本当かどうか怪しいもんだよ。だけどまぁ国からの支援が途切れて無いようだから無茶苦茶しても許される立場だったんだろうね。」
「恵まれた環境を捨ててこの辺りに越して来たのかそれは確かに変わってるかもな。」
この国の首都がどの程度発展しているのかアダムには想像もつかなかったが、ジャンクタウンより遥かに恵まれた環境なのは間違い無いだろう。それを捨てて復興の手が及んでいないような田舎に越してくるというのは確かに正気の沙汰とは思えないが、過去何度もそういった奇行を繰り返す天才と謳われる癖の強い人材達と交流してきた経験からドクターと呼ばれる人物もそういった手合いなんだろうと予感がしていた。




