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妙に艶めかしい吐息を漏らしながらジョッキを傾けるシンディの様子を横目で見ながら大皿に手を伸ばすアダムは彼女が口を開くのを待っていた。幸せそうな声を上げながら軽くなったジョッキを机に戻したシンディはつまみを摘まんでいるアダムを見上げるようにして口を開いた。
「デートって言っても難しく考える必要は無いさ、歩きでドクターの所まで行くのは時間が掛かるし私が車を出してあげようかと思ってね。一応約束は取り付けたから大丈夫だとは思うけど、いきなり気が変わって会いたくないって言い出しかねないんだよ。そん時に私が居ないと面倒だろう?」
「そういう事か、しかしいいのか?車ってのはこの辺りだと貴重品だろう?」
アダムがこの二週間ほどで学んだ知識の一つに、馬や騎乗用に慣らされた魔物よりも早く移動できる機械仕掛けの乗り物の存在があった。便利な代物ではあるが、維持や整備に手間がかかるらしく、大都市近郊では今も使われているものの、ジャンクタウンのような田舎ではほとんど見かけないという。だが、この街の重要人物であるシンディは、その例外に当たるらしい。
「私の息抜き兼アフターケアみたいなもんだから気にしないでよ。勿論本当にデートがしたければ言ってくれれば付き合ってあげるよ。」
「ならその好意に甘えさせてもらうが、デートについては正式に断らせて貰うぞ。依頼を優先したいしな。」
「依頼人がいいって言ってるんだから遠慮する必要なんてないってのに真面目だねぇ?自慢じゃないけど私とデートなんて早々出来るもんじゃないよ。」
彼女の言葉通りシンディに群がっている男達は十や二十という数では聞かずその男たちがこの話を聞けば、デートの誘いを断ったアダムは正気では無いと思う事だろう。しかしそうは言いながらもシンディは満足そうな表情をしており自身とデートするより焦げ付いた依頼を優先してくれる事を嬉しく思っているようだ。
「まぁ貴重な車まで出してもらうんだ、早めに依頼をこなして依頼人に答えたいと思うのは当然だろう。それで?俺は明日どうすればいいんだ?」
「そうだねぇ。一旦私の家にでも顔出して貰おうかな?場所を登録するから貸し出した端末を出しとくれよ。」
「そんなに簡単に自宅を教えてしまっていいのか?」
シンディは端末を渡すのを躊躇うアダムからひったくるように端末を奪うとさっさと登録すると、アダムの手に握らせた。
「私が誰にでも自宅の場所を教えるような女だと思うかい?ちゃんと人は見て教えてるさ。」
「会って間もない俺に教える時点であまり信用できないんだが。」
「そう思うのは当然だけど私が自宅の場所を教える程その力を認めたスカベンジャーはアダムさん入れても五人もいやしないよ。まぁこの街のスカベンジャーの殆どは私が認めて教える前に別の街へ行くかくたばっちまう事が多いからね。アダムさんも無理はしないようにするんだよ。」
先ほどまで楽し気に笑みを浮かべていたがジャンクタウンの現状を思い出したのか少し沈んだ表情を覗かせるシンディを見て藪蛇だったかと少し後悔するアダムは気付けのようにジョッキに残った酒を飲み干し机に並べられたジョッキを二つ手に取る。
「その心配は俺には無用ってもんだ。これからバリバリ受け手のいない依頼をこなしていってやるからそう沈んだ顔をするのはよすんだな。折角の美人が台無しだろう?アンタのファンが泣いて羨むような酒の席なんだから楽しく飲もうじゃないか。」
二っと明るい笑顔を浮かべてジョッキを差し出してくるアダムからジョッキを受け取るそれをグイっと呷った。
「この私とした事がそんな心配されるとはヤキが回ったもんだよ。よしっ!じゃあアダムさんをたっぷりもてなしてあげるから覚悟しな!嫌って程楽しませてあげるからっ。」
シンディは沈んだ表情を打ち消すと見惚れるような笑みを浮かべ、アダムにも酒を飲むように勧める。最初は完全な奢りであまり飲み食いするのも悪いかと思い遠慮する気であったが、自分でも楽しもうと言った手前、あまり手を付けないのは不味いかと思い飲み食いを始める。そうしてみると冷静に考えれば山奥での生活が長かったため絶世の美女と言えると女性と一対一で飲食を共にするのは数十年ぶりで気分も乗ってくる。シンディも釣られてペースも上がり程よく酔いの回った二人はその後も楽しそうに宴会を続けた。
本来は静かなはずのフロアに、楽しげな男女の笑い声が響いている。空になった皿とジョッキがいつの間にか増えており、追加の酒を抱えた従業員が何度も階段を上ってきては、苦笑交じりにそれを置いていった。一階にいるシンディ目当ての男たちは戻ってくる様子が無い事に落胆した様子を見せるが、帰る事はせずにそのまま振られてしまった仲間達と共にシンディの姿が見られない悲しみを忘れるために痛飲を重ね、結局、店内にはいつもと変わらぬ賑やかさが響いていた。ただ二階では、その喧騒から切り離されたように、二人だけの時間が続いていた。




