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酒場に二階があるのは知っていたが他人が利用している所を見た事は無いし、アダム自身も足を踏み入れるのは初めてだった。個室用の部屋らしきものが並んでおり部屋の扉に番号が割り振られていた。ほとんどの部屋は空いているようで一階の喧騒が聞こえて来る事以外は静かな物だった。シンディに手渡されたカギと同じ番号が記された扉を開け個室の中に入ると想像より豪華な内装に十人ほどでも利用できそうな広々とした空間が広がっていた。
(今の俺が使うには明らかに不釣り合いな部屋だな。まぁシンディが使えと言ったんだから追い出される事は無いだろうが、食事でもと言っていたがどうやって注文すればいいんだ?)
テーブルに沿うように設置されているソファに身体を預けると深く沈み込む、柔らかな物に包まれるような感覚に思わず声を漏らしその感覚に身を任せるように力を抜いていると個室ドアがノックされる。応答すると扉を開け従業員が簡単なつまみが載った皿と酒を持ってやってくる。
「うん?俺はまだ何も頼んでないから間違いじゃないか?」
「いえ、オーナーに頼まれているので間違いありません清算も済ませてありますのでお気になさらずに。
メインの料理は後から来ますのでこちらをつまんでお待ちください。」
そう言ってにこやかな笑顔を浮かべたまま皿をアダムの前に置き部屋から出ていく従業員を見送った後、皿に手を伸ばす。世界は違えども酒の肴になるような物の味付けは似たような物で塩気の効いた物が多く、よく冷えて泡立っているエールによく似た酒が進む。
(支払いが済んでると言う事はシンディの奢りって事だろうが流石に節度はわきまえた方がいいだろうな。一気に飲み過ぎてしまったが、残りを大事にこの酒を頂くとしよう。)
ちびちびと酒を飲みつまみを摘まんでいると勢いよく扉が開く、突然の大きな音にビクリと身体を震わせアダムがそちらを見ると大皿を抱えたシンディが立っていた。
「おや?全然飲んでないじゃないか。せっかくアタシの奢りなんだからもっと飲みなよ。」
「そうは言うが身の程はわきまえているからなそこまでは羽目は外せないさ、そんなことよりドクターとやらに連絡はついたのか?」
「あぁ、一応連絡はついたから任せとくれ。明日の夕方までに顔を見せるようにだってさ、問題無かったかい?」
「問題なんてあるわけ無いだろう?時間だけはあるのがスカベンジャーだからな。」
その返答を聞きながら大皿をテーブルの上に置くと、外で待っていた従業員を呼び寄せその手に持つ複数のジョッキをテーブルの上に置かせる。一人で消化しきれなさそうな量を持ってこられた事に疑問の表情を浮かべるアダムだったが、そのまま扉を閉めて出ていく従業員とは対照的に自らの隣に座るシンディを見てこの量を何故持ってきたか理解した。
「営業時間中にオーナーがこんなところで油を売っていていいのか?客が待っているだろうに。」
「ここは私の店だよ。どこで何をしてても私に文句を言う奴なんていやしないさ。」
「そうだとしても俺には言って来る奴が居てもおかしくないと思うんだが?」
「そんな度胸がある奴がこの辺りいるならぜひ見てみたいもんだねぇ!私が直々に教育してあげるから。」
自らの大きな胸を誇示するように胸を張るシンディを本当かよと言いたげな目で見つめるアダムだったが、ここでそのやり取りをしても話が先に進まないと諦める。
「まぁいいさ、それで?ドクターの所にはどうやって行けばいいんだ?」
「それなんだけど街はずれって言っても結構距離があってね。アダムさん徒歩以外の移動手段持ってないよね?」
「その質問はするまでも無いだろう?情報端末すら手に入れてないんだぞ。」
グイっとジョッキを呷ったアダムがそう言うとシンディは笑顔を浮かべる。
「そっか、なら――明日は私とデートだね。」
「はぁ?どういうことだ?」
突然の提案に訝し気な表情を浮かべ自分を見つめるアダムの姿を見ながら笑みを深くするシンディはこの後に続く自分の言葉を待つアダムを焦らす様にジョッキに手を伸ばした。




