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「これが写真とか呼ばれている物だな?実際体験するとこの一瞬でこれほど精巧に撮影できるとは信じられん本当に身体には影響がないんだよな?」


 知識の上では写真と呼ばれる物が存在しているのは学んでいたが、実際に経験するのはそれとは別で、自らの身体から何かが抜け落ちたのではないかと心配そうにしているアダムだったが、従業員の女性はその不安を吹き飛ばすように豪快に笑いだした。


「人体に影響があるような物が広まる訳ないだろう?そんなこと考えてる暇があるならほら、シンディに操作方法でも教えて貰いな。」


 そう言うと従業員の女性は店の業務があるのか席を離れていった。アダムはまだ珍しい物でも見るように画面を眺めていたが、気を取り直すように少し頭を振ると隣に座るシンディの方を向く。


「じゃあ操作だけ教わっていいか?」


「しょうがないねぇ。今回だけだから感謝するんだよ。」


 楽し気に笑うと操作方法を教えるためにアダムが持つ端末の画面を覗き込んでくる。否応が無しに距離が近づきまた香水の匂いが漂って来る。


「まずここを押して、次にここ、それで最後はここで撮影画面が立ち上がるだろう?」


「あっ、ちょっ、ちょっと待ってくれ操作が早すぎる。もっとゆっくり頼む。」


 そう早い動きで操作されている訳でも無かったがアダムはこういった操作がとことん苦手なようで、非常にゆっくりとした速度で教わらなければ理解できなかった。シンディも先ほどは救世主に見えたアダムの意外な弱点を可愛く思いながら丁寧に教える。時間を掛けながら正確に操作を教えていると、覗き込むように教えているせいで自身の胸をアダムの肩や腕に押し付ける形になっている事に気づきスルリと身体を離すが、端末の操作に集中するアダムはその事実に気づいてすらいない。自分の美貌が武器になるとはっきりと理解しているシンディは興味すら持たれないという事実に軽く衝撃を受けると共に積み上げてきた自信を少し傷つけられたような気もしていた。


(この私の胸が当たってるのに見向きもしないなんて腹立たしいぐらいの集中力じゃないのさ。それにしても簡単な操作なはずだけどこれほど慎重になるなんてこの歳になるまでよっぽど機械に触れる機会が少なかったみたいだね。よっぽど僻地から来たのかしら?)


 見た目の上では三十代半ばほどに固定されているアダムの姿を不思議そうに眺めるが、変わった境遇の者はそう珍しくもないのでさほど気にする様子は無い。まさか小さな子供や老人でもすぐに使えるようになる操作を覚えるために悪戦苦闘している目の前の男が別の世界から転移してきたとは思うはずも無く精々がミュータント蔓延る僻地から流れて来て人の良い院長のいる孤児院に拾われたのだろうと考える程度だった。


(それにしても本当にいい男だねぇ。やってることは端末の初歩的な操作を覚えてるってだけなのに真剣な眼差しで弄ってるだけで絵になるんだから大したもんだよ。)


 ボーっと見とれるようにアダムの横顔を眺めているとようやく上手くできたのか端末からシャッターの下りる音が聞こえる。


「おっ?ようやく操作を覚えれたのかい?」


「あぁ、なんとかなったよ。ありがとう。」


 ほっとした様に大きく息を吐き額にうっすらと滲む汗を拭うアダムは端末を見せて来る画面にはカウンター内の様子が映っており何とか操作を覚える事が出来たようだ。心なしか先ほど危険度も分からない依頼の内容を知った時よりも疲れているように見える。その様子が可笑しくてシンディは弾けるような笑顔を浮かべアダムの背中に腕を回すとおぶさる様にしてのしかかる。


「うおっと!?突然どうしたんだ!?」


 突然背中にかかる重みと柔らかい物が当たる感覚に驚いていると耳元で楽し気な声が聞こえる。


「ほらどうやって撮影するか覚えたんだろう?折角だから一枚撮っておくれよ。」


「うっ・・・分かったやってみよう。」


 背中に当たる柔らかな物に多少意識を割かれるが慎重に操作を進め端末の画面に二人の姿が収まるようにするとそのまま撮影する。


「ほらこれでいいんだろう?」


 アダムが撮影した写真をシンディに見せる。画面にはアダムに抱き着くようにして楽し気に笑っているシンディと真面目な表情を浮かべようとしているが背中に当たる胸の感触が気になるのか少し鼻の下が伸びているアダムの姿が映っていた。集中している状態で無ければ自らの魅惑の身体を意識しているのがはっきりと分かりシンディは満足気に頷くと腕を離すとスルリと体を起こした。


「うん、よく撮れてるよ。これで操作方法はバッチリだね。この端末のマップに調査してほしい地点はマークされてるから迷う事は無いと思うけどくれぐれも慎重にね。」


「そうか?ならよかったよ。俺にとっては依頼よりも難敵かもしれないからな。」


 真剣な表情でそう言うアダムは手に持った端末を眺めている。


「その端末は依頼が終わるまでは貸し出しておくからいつか自分の端末を手に入れた時に困らないように色々使っちゃっていいからね。」


「そうなのか?それはありがたいな。」


「こんな紙束片手にジャンクヤードをうろつきたくないだろう?面倒な依頼をこなしてくれるんだからそれぐらいのサポートは当然じゃない?」


 手に取った紙束をぺしぺしと叩きながらそう言うとカウンターに鎮座している残りと一緒に纏める。


「そう言えばアダムさんこの後はどうするの?飲んでくなら私も着替えて相手してあげるけど?」


「魅力的な誘いだが、折角だし近場の調査を進めて来るよ。それが終わって時間があれば寄せて貰うさ。」


 仕事熱心なアダムの言葉に一瞬残念そうな表情を浮かべるが、すぐに明るい表情へと切り替える。


「そうかい。じゃあまた顔を見せに来てくれるのを楽しみにしてるよっ。」


「そうだな、俺も何かいい報告が出来るように頑張ってみよう。」


 背を向けて酒場から出ていくアダムの大きな背中が見えなくなるまで見送ったシンディは、夜の業務に備えての準備を始める事にした。

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