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残高の確認を終えて小部屋から戻ってきたが店員の姿は無くまだ戻っては来ていない様だった。先ほどまで座っていた席に腰を下ろすと大人しく戻ってくるのを待つことにする。
(口座に入金されていた約6000クレジット余りが俺の全財産になる訳か、それなりに稼いでいるとは思うがここの商品を買おうとするにはまだまだ足りないな。だがこれ以上のペースだと流石に目立つだろうからな。マサ、ヒロ、カズの三人組に頼んだものが出来るまでは今はこのぐらいのペースにしておくしかないか。)
酒場に出入りする時間が早いために同業者にはあまり認知はされていないが、シンディをはじめ酒場の従業員には既に異常なペースで依頼をこなしているアダムの名前は広まりつつあるが、当の本人はジャンクヤードの探索がてら気楽に依頼をこなしているだけで今のペースがおかしなものだとは微塵も思っていなかった。
(今日見た感じあまり高額な商品となると戦前の技術とやらで訳の分からない機能が盛り込まれている事が多いんだろう。そう考えると20000クレジット前後の商品を買えばそう苦労することは少ないだろうか?)
情報を整理しながら店内を見て回っていると砥石を発見したのか店員の男が帰ってくる。倉庫の中を探すのに随分苦労したようでいたるところに付いた埃を叩き落としながらカウンターまで戻ってくると砥石を差し出してくる。
「いつ仕入れた物かも分かりませんがこちらが唯一保管されていた砥石になります。需要が無さ過ぎて値段のつけようがないので100クレジット程でお譲りしますよ。」
「俺にとってはありがたい事だがそんなに適当に決めてしまっていいのか?」
「えぇ構いませんよ下手をすればこの店が出来た当初からこの店に保管されていたかもしれない品ですからね。引き取っていただけるだけで十分ですよ。」
「なら有難く頂戴しておくよ。」
財布から取り出したクレジットで支払うと砥石をバックパックに詰め席を立つ。
「今日は世話になったな、次はちゃんと売り上げに貢献できる時に寄せて貰うよ。」
「いえいえお客様の役に立てたのなら幸いです。どうせ暇している事が多いので世間話程度のご来店でも歓迎しますよ。」
売り上げに繋がらない世間話程度でも構わないと言う所に日頃どれ程暇しているかが伺える。流石にそれは悪いと断りと入れると気にする必要は無いという声を背に受けながら店を後にする。食事をとらずに孤児院を出たアダムは空腹感を感じており酒場でシンディを待つ間に遅めの昼食を摂ろうと考えながら通りを歩く。
酒場に向かって通りを歩いている間すれ違う人々の様子を改めて観察してみたが職業や性別に関わらず情報端末を持つ者は見当たらなかった。店員の男が入門編と言っていた端末ですらこの辺りの住民にとっては高級品であることは間違いないようだ。
(やはりこの辺りの稼ぎでは情報端末を手に入れるのは中々難しいようだな。俺も酒場以外の場所で端末が使われているのも見た事無いしな。そんな羽振りのいい顔役から受けられるという依頼が割のいい物だといいが。)
少し期待に胸を膨らませながら酒場の扉を開くとランチタイムから少し外れた時間に訪れた事もあり店内は少し閑散としており、働く従業員の数も少ないように見えるがカウンターにはいつものおばちゃんの姿があった。
「あらアダムさん珍しく来るのが遅かったわね。今日は来ないのかと思ってたわよ。」
いつもは遅くとも昼頃には依頼を受けに顔を出しているためそう言われるのも仕方ないかと思いながらもアダムはカウンターに腰掛ける。
「シンディが俺に用があると昨日言っていただろう?だから遅めに来ようと思ってな。昼飯もまだなんだが注文してもいいか?」
「今は人出が少ない時間帯だから少し時間が掛かるかもしれないけどいいのかい?」
「変な時間に来たのは俺だからな別にそんなのは構わんさ。それじゃあ日替わりを頼むよ、シンディが来るまでのんびりするつもりだから急がず作ってくれ。」
「分かったよ。なら少し待ってるんだよ。」
アダムは店員の女性を見送るといつもより空席の目立つ店内を見渡しながら料理が完成するのを待つことにした。




