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静かな廊下に咳き込む音が響く、苦しそうに蹲るアダムの傍にはノゾミが付いており心配そうに背中をさすっていた。背中に彼女の温かい手が動くのを感じながらそのまま暫くの間そうしていると症状は少し収まり喋る程度の余裕は戻って来たようだ。
「いや悪いな、何をされたかは分からんが、こんなことになるとは。」
息も絶え絶えのアダムに付き添うノゾミはその言葉に気にするなとでも言いたげに首を振る。
「おにいちゃんたちが何か作って悪戯するのはいつもの事だけど今日のは酷いみたい。おじちゃん本当にだいじょうぶ?」
悪意無くアダムを襲った謎の飛来物の効力は悪戯と言うには笑えない威力を秘めていたが、それよりも驚いたのは子供達がそれを作ったという事実だった。
(子供がこれだけの威力の道具を作り出す事が出来るのか。この鼻を刺すような刺激と痛みはまさか香辛料の類か?この世界では飲食店だけでは無く、そう裕福でもないらしい孤児院でも子供の悪戯に使える程安価な値段で流通しているのか。)
自分の居た世界では物によっては一握り程の香辛料で家が建つ事もあったのだが、こちらの世界では孤児院の子供達が悪戯に使える程流通しているらしい。
(という事はこれと同じような物を作る事も可能という事だな人間にこれ程効果的なら、動物や昆虫が変異した物が多いらしいミュータントには効果絶大なんじゃないか?安値で作れるならこれを理由にミュータント狩りの数を増やせるかもしれんな。)
依頼を受ける様になってからは毎日数体ずつ探索のついでにミュータントを倒し武器はともかくそれなりの実力はあると周りに示していたが、この辺りで稼ぐことの出来る金額はたかが知れておりまとまった金額を手に入れようとするとかなり派手に動かなければいけなかった。あまり目立ちすぎないようにしているアダムに取ってはかなり難しい条件ではあったのだが、三馬鹿と呼ばれる彼らが作った道具の効果で効率が上がったと言えればそう怪しまれずに成果を上げれるのではないかと思い付く。
「ありがとうノゾミ、おかげでだいぶ楽になったよ。」
こうしてはおれないとアダムは献身的に背中をさすり続けてくれたノゾミに礼を言うと立ち上がる。ノゾミは短く返事をすると大分元気を取り戻したアダムの様子に表情を緩める。
「ところでマサ、ヒロ、カズの三人はよくこういった物を作っているのか?」
「材料がうまくあつめれたら作るんだって。作るのはだいたいカズおにいちゃんだけど。」
「カズってのはあの眼鏡を掛けた子だな?他の二人にも役割があるのか?」
「マサおにいちゃんがまとめ役でさくせんをたてて、ヒロおにいちゃんがいちばんはじめにうごくの。」
よく三馬鹿と一括りにされている少年たちは大体まとまって行動しているように思えたがそれぞれ役割が違うらしく上手くチームとして機能しているらしい。
「なるほどな、三人とも逃げて行ってしまったんだがいつも何処に集まっているかわかるか?」
「怒ってるの?」
「いや、子供のやる事だからな。滅茶苦茶苦しかったことは間違いないが怒る事はしないさ。ただ今日使われた道具を改良して量産できないかと思ってな。」
成功すればかなりの成果が期待できそうな思い付きには彼らの協力が必要不可欠であり、まずは話をしてみない事には始まらない。
「ヒナおねえちゃんが院長先生に言ってくれたからもしかしたらもうおにいちゃん達捕まってるかもしれないよ。」
「うん?あぁそうなのか。どこに行けばいい?」
「いつもお庭で怒られてるよ。行って見る?」
ノゾミに先導されるようにして孤児院の廊下を歩き玄関付近まで来ると窓から外の様子が目に入る。あっさりと捕まっているようで三馬鹿が地面に座らされておりその前に腕を組んだタカシの姿があった。それを横目に見ながら玄関の扉前まで足を進めると開いた扉の両脇に分かれるように立ちながら外の様子を伺うアキナとヒナに出会った。近づいてくる足音に気づいたのかこちらを振り返るとパッと表情を明るくする。
「アダムさん!お体は大丈夫ですか?」
「あぁ、えらい目にはあったが何とか収まったよ。」
「オッサンも遂にあいつ等の犠牲者の仲間入りだなー」
何故か嬉しそうにしているアキナの隣で同じように外の様子を伺うと、俯いて地面を眺めている三人懇々と説教を続けているタカシの声が聞こえて来る。
「あいつ等最近調子に乗ってたからいい気味だぜ。」
「本当ね。いつものようなちょっとした悪戯程度ならまだ許せるけど今日のはやりすぎだと思うな。危なすぎるよ。」
説教の邪魔にならないように声を潜めながら話す二人は日頃から被害に遭っているようで叱られている三人の姿を見て留飲を下げているようだった。あの様子では当分解放されないだろうなと考えていると腕をちょいちょいと引っ張るようにしてノゾミが見上げてくる。どうするの?とでも言いたげな表情を浮かべているノゾミに困ったような笑みを向けるとタカシの方に歩みを進めていく。




