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「ここで訓練しないって事はいつものトレーニングじゃないの?」
訓練を開始して以来ひたすらこの庭の中で身体を動かし続けていたが、ここに来て場所を変えるという事に疑問投げかけるが、タカシはその質問に答える事無く後に続くように告げるとタカシは孤児院の裏手の方へ進んで行く。残された二人はお互いに顔を見合わせるとその後を追っていった。
ぐるりと裏手の方まで回るとタカシは足を止めると足元の大きな鉄製の扉に鍵を差し込み扉を開く。あまり使われていなかったのか軋む音を響かせながら扉が開いていく、すると中からひんやりと冷たい空気が流れ出て来た。中を覗き込むと暗がりの中に地下へと繋がる階段が見える。
「この孤児院にこんなところがあったんだな。」
「ここ近寄っただけでも滅茶苦茶怒られる開かずの扉だったんだよ。皆場所は知ってるけど入ったことはないんだ。」
ボソボソと地下へとつながる扉の事を話していると、ほら行くわよとタカシが声を掛け地下への階段を下りていく。外からの明かりを頼りにゆっくりと進んで行くと階段を下りた先にもう一つ扉が見え、その脇についていたスイッチをタカシが押すと照明が灯った。扉を開けて入った先には広々とした空間が広がっており数多くの銃や弾薬が収められている部屋とその部屋から確認できるようにガラスで仕切られるようにしてシューティングレンジが作られていた。
「すげー!中はこんな風になってたんだ!?院長なんで教えてくれなかったの?これならずっと銃の練習できるじゃん!」
部屋の中を動きまわっているアキナは地下に広がる秘密の練習場に興奮を抑えられない様だった。
「言える訳無いでしょう?ここに置いてあるのはワタシが現役の頃に使っていた倉庫兼訓練場よ。置いてある銃から弾倉は外してあるけど小さな子供達が触れるには危ない物だってあるんだから。」
そう言いながらゴソゴソと棚を漁り二つの銃と装備を取り出し、机の上に並べて見せる。ごろつき達が持っていた物や官営店で主に取り扱われていた銃に比べると小ぶりでかわいらしい見た目のそれを見てアキナは目を輝かせた。
「えーっ!?院長本当にこれ使っていいの!?」
「アキナちゃんも頑張ってるしこれはご褒美みたいなものよ。ただある程度扱えるようになるまでは危ないから絶対にこの訓練場の外には持ち出させないし私が居ない時にはここへは入らせないからね。」
「そんな事言われなくても分かってるって!そんな事より早く教えてよ!」
余程嬉しいのか上機嫌のアキナは落ち着きなく銃を眺め動き回っている。
「仕方ないわねぇ。じゃあアダムちゃんもその銃を取って付いてらっしゃい。あ、それと銃を撃つときはその耳当てもつけるのを忘れないでね。耳、やられちゃうわよ?」
まさか自分の分も用意されるとは思っていなかったアダムは机に並ぶ自分用に用意された装備一式を眺める。
「アキナだけじゃなくて俺もか?銃に関する知識は殆ど無いしどう扱えばいいかもわからんぞ?」
「それなら大丈夫よ手取り足取り腰取り教えてあげるから。」
この二週間程の間に多少この世界の事を調べて少しは知識を得たがまだまだ不足しているアダムが少し不安そうな様子を見せるが、タカシはニタリと笑みを浮かべると舌なめずりをしながらにじり寄って来る。その様子に身の危険を感じたアダムは少し後ずさりをして少しずつ距離を開ける。
「あら?怖がらせちゃったかしら?冗談よ!ほらアキナちゃん嬉しいのは分かるけど遊んでないでさっさと行くわよ~」
タカシに先導されるようにして射撃場の中へ移動する。簡単に区切られた射撃位置と人型の的が奥の方に並んでいるのが見える。的の塗装は剥げて金属が見えておりかなり使い込まれている事が伺える。別々のレーンに入るように指示されて待っているとタカシが現れる。
「アダムちゃんは銃を触るのも初めてでしょう?まず私が使って見るからよく見ていて頂戴ね。まずここにマガジンを装填して、次に安全装置を外すでしょう?これで撃てるようになるから後はこのトリガーを引くと銃口から弾が発射されるの。簡単でしょう?」
流れるような動作で解説をするとそのまま的の方へ身体を向け銃を構えて見せる。標的を狙う姿は堂に入っており鋭い視線からは完全に母親としての顔は姿を消し獰猛な父親としての表情を覗かせていた。
「じゃあお手本として少し撃ってみるからよ~く見ておいてね?」
そう言うとゆっくりと狙う場所を告げながら射撃を始める、頭、両腕、両足、胸と狙う場所を告げながら射撃していくと宣言通りの部位に発射された銃弾が発砲音と共に着弾し何かが弾けるようなくぐもった音が耳当て越しにも聞こえ衝撃を伝えてくる。
「最初はこれぐらいの速度でいいからしっかり狙ったところに当てれるようになりましょうね。慣れたらこういう風に出来るようになるから。」
そう言うと目にも止まらぬ速さで射撃を始める。狙っている部位は先ほどの通りだったが、あっという間に弾を撃ち尽くすとマガジンを交換し射撃を続けた。交換したマガジンに入ってた弾も外すことなく撃ち切るとリロードを済ませアダムに銃を差し出してくる。
「お手本はこれぐらいでいいかしら?最初の内はまず的を捉える所から始めましょうね。分からない事があれば気軽に聞いてくれればいいわ。」
差し出された銃を受けとるが、ごろつき達が使っていた銃に比べると小さく貧弱そうに見える。その拳銃で行われたタカシの素早く正確な射撃は弾をばら撒くだけだったごろつき達とは違い経験と技術によって裏打ちされており、一中一夜で身に着く物では無さそうで先日酒場で聞いた噂通りタカシが高い実力を未だ持っている事が伺い知れた。
「ね~院長!自慢はいいから早く弾くれよ!アタシも銃撃ちたいー!」
隣のレーンに入り準備を終えたアキナが待ちくたびれたのか声を上げる。
「うるさいわねっ!静かにしてなさいっ!アダムちゃんごめんなさいね、先にうるさいあの子に軽く教えてから戻ってくるから少し待っていてね。撃って見たければそのマガジンに入ってる弾は撃ち切っちゃっても大丈夫よん」
ヒラヒラと手を振ると隣のレーンで待つアキナの方へとタカシは向かっていった。少しするとアキナとやり取りする声が聞こえてくる。そのやり取りを耳に入れながら先ほどの手本を参考に準備をして、ゆっくりと的を狙ってトリガーを引いてみる、手に衝撃を残して発射された弾丸は的に当たる事は無く見当違いの方向へ飛んで行った。
(見様見真似ではこんなもんか、最初から当たるとは思っていないが思ったより反動があって狙った所にうまく飛ばなかったな。)
反動がある事が分かっていればそれを抑える事は出来るが弓などとは違う狙いの付け方に苦労しながらもアダムはゆっくりと確実に射撃を続けていく。隣のレーンでも使い方を教わったのかアキナが射撃を開始したようだが反動にてこずっているような声が聞こえて来る。しかしアダムに比べると射撃の感覚は短く精度もいいようで標的に命中とまではいかないが近い所に着弾している様だ。それに釣られるようにして射撃を続けてみるが中々上手くいかず四苦八苦してると背後から声がかかる。
「初めての射撃は上手くいっていないようねぇ?難しいかしら?」
「山で狩りをするときに弓矢なら使った事はあるがそれとはまた感覚が違って中々やり辛いもんだなこれは何かアドバイスはあるだろうか?」
「アダムちゃんは剣もそうだけど随分原始的な武器が得意なのねぇ。とりあえず構えてみなさいな。」
促され構えなおしてみると後ろからタカシが抱き着くようにして構えを修正してくる。その指示に従ってみると確かに余分に入っていた力が抜け楽に構える事が出来るようになった。
「アドバイスは分かるが近すぎじゃないか?」
「そうかしら?別に取って食おうってんじゃないんだから大丈夫よ。ほら力を抜いてリラックスよ、ほらここを目安にして目標を狙うと随分やりやすくなるでしょう?」
「…本当か?」
答えないままニヤリと笑ったタカシは本当に必要かどうかは分からないが非常に密着した状態で教えてくれるその吐息が掛かる程の距離で出される指示に従って構えてみると確かに視点の置き所が分かり、的がはっきりと見え狙いがつけやすくなったように感じた。
「確かに少し標的を見やすくはなったな。」
「そうでしょう?さっきと比べると随分良くなったからそのまま暫く撃ってみるといいわ。その間にワタシは予備の弾薬を取ってくるからここにある分は気にせず撃っちゃいなさい。」
そう言うとマガジンを幾つかレーンのカウンター上に置くと先ほどの部屋へタカシは戻っていった。その背中に向けて礼を言うと次のマガジンを装填し教わった通りに射撃姿勢を取り発砲すると命中とまではいかなかったが標的を掠めるようにして弾丸が飛んでいった。




