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依頼の報告を終えたアダムが孤児院の近くまで帰って来ると、子供達の賑やかな声が聞こえてくる。タカシがアキナに訓練をつけ始めて約二週間、地道な基礎体力を向上させるためのトレーニングと、アダムと一緒に行う座学の時間を交互に行っていた。庭で行われているトレーニングの様子を見るのが子供達の中で娯楽のようになっているようで、体力の限界まで追い込まれているアキナに対して応援したり、逆に煽るような言葉を投げかけたりしている事が増えていた。
「いつもよりずいぶん賑やかだな?」
日頃は大体手の空いた子供達が見守っている事が多かったが、聞こえて来る足音の数や、声から察するに、孤児院の住人が殆ど集まっているようだった。比較的地味な基礎体力の向上を目的としたトレーニングでそれほど白熱した応援の声を上げることがあるだろうかとアダムが疑問に思いながら塀の内側へ入っていく。すると広い庭をぐるりと一周するようなコースが設けられており、そのコースをアキナとカズが走っていた。年齢にすると恐らく五歳前後差のある二人では勝負にならないのではないかと思ったが、二人が一周する頃には待ち構えていたヒロが交代して走り出した。どうやらアキナ一人に対して男子四名が代わる代わるに交代しながら相手をしているようだ。座り込んで息を整えているカズの隣では、駆け出して行ったヒロに声援を送っているヤスとマサの姿があった。走者の邪魔にならない位置にはタカシ、ヒナ、ノゾミと並ぶようにして走っている二人に声援を送っており孤児院の住人すべてが集まっていた。一人で走り続けているアキナの額には玉のような汗が浮かんでいるが、足取りはまだしっかりしており余裕を残している事が分かる。
(賑やかになるのも頷けるな、まぁ流石に四対一で勝つにはまだ早いだろうがもうしばらくは食い下がるだろう)
走っている二人の邪魔にならないように集まって応援している面々に近づいていくと、走者の二人に野太い声で声援を送っていたタカシが振り返る。
「あら、アダムちゃんじゃない早かったわね。アキナちゃん頑張ってるから貴方にはもう少し待ってもらわないといけないわね。」
「どうやらそうらしいな。これが地道な訓練を続けた成果は多少なりとも出てるようだな?」
二週間とはいえ本人の高いやる気に支えられ休憩がてらの座学の時間を除けば日中のかなりの時間を地道なトレーニングに費やしていて、訓練初日の様子から比べると見違えるほど良くはなっていた。
「勿論私が見てるんだから当然じゃな~い?ま、これぐらいで満足してたらスカベンジャーになるなんて夢のまた夢だけどね。それぐらいはアダムちゃんだって分かるでしょう?」
身を守るための装備を身に着け危険な地域を歩き回るにはまだまだ足りない物が多い事はアダムも重々承知ではあるが、タカシがアキナに課している訓練はこの年代の子供が行う物してはかなり厳しい物に思える。
「今は本人のやる気で持ちこたえていると思うが厳しい訓練を続けるだけじゃこの先上手くいかないんじゃないか?」
「その辺の事はちゃんと考えてるから安心なさいな。そのためにアダムちゃんにも参加して貰おうと思ってるんだから頑張って頂戴よ?」
「どんなことをするかは分からんが俺に手伝えることなら何でもすると約束したからなそこは任せてくれ。」
その言葉に意味深な笑みを浮かべたタカシは話を切り上げるとアキナの応援へと戻っていった。アダムはその表情の意図を掴みかねていたが結局はアキナの訓練に関する事のはずでそう無茶をすることは無いだろうと考え大人しく訓練の終わりの時を待つことにした。懸命に走り続けているアキナの姿をボーっと眺めているとアキナと目があった。コースの近くでリラックスした様子で寛ぎながら自分を眺めるアダムに何か言いたげな表情を浮かべている。
(おーおー、こっちを気にする余裕がまだあるとは元気そうだな頑張れよー。)
応援の為に笑顔で手を振ってみるが何か邪まな気配でも感じ取ったのかアキナはフイっと視線を逸らし走り続ける。その様子をおかしそうに眺めているといつの間にか隣に戻って来たタカシからドスの効いた声が聞こえて来る。
「仲がいいのは結構だがあまりちょっかいかけすぎるなよペースが乱れるだろう。」
「心外だなぁ、俺は普通に応援してるだけじゃないか。」
恐ろしいほどの棒読みで答えるアダムを見て大きなため息を吐いたタカシは頭を振ると今も走り続ける走者の二人に声援を送った。




