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風呂上がりに食堂から持ってきた飲み物を片手に自室へと戻ってきたアダムはベットに腰を下ろすと図書室から持ってきた本を手に取る。アダムの世界で見かける本よりしっかりと装丁され紙の質もかなり上等に見え、元の世界にに持ち帰ることが出来たら美術品としてかなりの額で取引されそうな物だが、こちらの世界では無造作に捨て置かれるほどの存在でしかないようだ。
(こういう細かい物でも技術の差ってのはわかるもんだな、まぁ今の俺に重要なのは中身なんだが。)
表紙には様々なミュータントらしき絵が描かれており、表題にはミュータント図鑑とある事から、既に出会った化けネズミや犬のミュータントの生態や習性を知る事も出来るし、これから出会うであろう他のミュータントについても知ることができれば今後間違いなく役立つだろうと考えていた。目次から化けネズミの項目を探し出し、示されたページを開いてみる。アダムの目には途轍も無く精巧な絵にしか映らなかったが、実際の所は絵ではなく写真が印刷されていた。それに加えて生態や注意点など様々な事が記されていた。
(元々は至って普通のネズミが戦前の社会で排出された汚染された物を食べ続けて少しずつ変異を重ねていき、最終戦争で使用された兵器によって更に高度の汚染が広がった事によって今の姿まで変異したって事か。攻撃手段は異常発達した歯によるかみつき、突進等々、交戦によって傷を負ってしまうと感染病にかかる可能性が有り、食欲旺盛で繁殖力も高いため人の居住地の近辺で見かけた場合は駆除を推奨か、完全に害獣って訳だな。)
今日発見したミュータントの巣には数十匹はくだらない数のミュータントが生息しており、ジャンクヤードの広大な土地の中には他にもミュータントの巣が数多く存在しているのだろうと予想できる。他の巣も化けネズミとミュータント犬の組み合わせなのかそれとも全く違う組み合わせなのかは分からないが、今日見た限りではミュータント犬に従うような形で固まって動いているようだった。
(ネズミの方は知能はそう高くは無いみたいだな。なら犬の方がネズミ達を従えてるって事か?)
そう思い、ミュータント犬の情報が記されたページを開いてみる。まず目につくのはネズミに比べると載せられている写真の数が多く、映っている犬の姿も複数の種類に分かれているという事だ。ジャンクヤードでアダムが遭遇した犬の姿もあった。
(正式名称はハウリングドックね。まぁ犬としか呼ばんだろうが覚えておこう。元は軍で飼育されていた軍用犬が最終戦争中のゴタゴタで脱走し野生に帰り、ネズミと同じように汚染物質により変異したと、元々が改良された軍用犬だったために知能、戦闘力共に高く、吠え声を上げて他のミュータントと協力する姿が多く見られ、拳銃程度の武装では戦うのは危険。更に変異が進んだ個体は筋力の発達の他ESP能力等特殊な能力を身に着けている場合が多いので見かけた場合は速やかに討伐チームを編成する事か。ESP能力ってのは分からんが魔法みたいな物か?つまり魔力のようなものを持つ強力な個体もいるかもしれないって訳か…このデカい奴がそうか?)
何頭かの写真の内明らかに他の犬よりも二回りほど大きな犬の写真が載せられている。撮影者を睨みつけるように映っているその姿は迫力に溢れており、発達した筋肉と鋭い牙そして何よりも、先ほど見かけた犬達にあった額の瘤のようなものは角と言っていい程に鋭く尖っていて明確な差として現れていた。
(…絵だってのに凄い迫力だな、これを書いた画家は大したもんだ。あれだけ統率が取れた群れがあるということはジャンクヤードにもこれに近しいヤツが存在していてもおかしくはない・・・か?用心しておくに越したことは無いが、当面の問題はこの世界での索敵がイマイチ上手く出来ない可能性があるという事だな。)
写真に対して見当違いな感想を抱いているが、対象のマナの気配を探って索敵する事の多いアダムからすればこの世界での索敵は中々難しい物がある。というのも自然界のマナ自体が少ないのもあるがこの世界で生きる人やミュータントといった生き物が持つマナも微弱な物でその気配を探るにはかなり集中力が必要になって来る。大した脅威でもない存在をそれほど集中して索敵するのは効率的とも思えなかった。アダム一人で探索に出るならば索敵に気を使わなくてもどうとでもなるだろうが、いずれアキナと共に探索に出る事になるであろう事を考えるとこの問題を後回しにするのも不味い気がしている。
(あれこれ考えなければいけないってのも随分久しぶりだな。山奥で隠棲してるだけじゃこうはいかないか、女神様の思い付きで始まった新生活だが出来る事から手を付けていく事にしよう。)
アキナの訓練が終わるまでには解決しなければならない様々問題に頭を悩ませながらも、この世界の情報を一つでも多く得ようと図鑑を読み進めて行く。それからしばらくの間、ページをめくる音と時折聞こえるため息の音だけが室内に響いていた。




