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ミュータント達の追っ手を振り切り、アダムがジャンクタウンへ戻った頃には、すでに陽は落ちかけていた。だがこの時間なら、酒場に寄って依頼の報酬を受け取ってから戻っても、アキナとの約束に大きく遅れることはないだろう。そう判断し、アダムはそのまま酒場へ向かった。
通りを進むにつれ、同じ方向へ歩くスカベンジャーの姿が目立ち始める。やがて彼らは吸い込まれるように酒場へ入っていった。人の流れに乗ってアダムが酒場の中に足を踏み入れるとまだ宵の口だというのに、店内はすでに喧騒に満ちていた。むせ返るような酒の匂いと、荒っぽい笑い声。アダムは昼間と同じくカウンターへ向かうが、そこには人だかりができていた。
(……様子が違うな)
手続きをしてくれた年配の従業員の姿はなく、代わりに男たちが一方向へ群がっている。どうやら依頼報告ではなく、別の目的らしい。少し人だかりの様子を見て、アダムはその理由を察することが出来た。彼らの視線の先にいる女――この酒場のオーナーが目的なのだ。つまりこの人の群れはおとなしく待っていても解消されることは無い。
「すまない。汎用依頼の報告をしたい。通してもらえないか」
突然かけられた無粋な声の主に不満げに振り返った男たちは、目線の先にいる金髪碧眼の大男を見て言葉を失い、黙って道を開けた。
「はいはい、仕事の時間だよ。散った散った」
そう言って腕を振る女は、二十代半ばほど。ドレスに包まれてはいるがその豊かな曲線を隠す気のない体つきは、酒場という空間において一種の暴力的な存在感を放っていた。
「助かったよ、お兄さん。毎晩こんな調子でね」
艶やかに笑うその姿はこの喧騒と人だかりを生み出すのも納得できる魅力を秘めていた。
「私はシンディ。この店のオーナーさ」
「俺はアダムという訳あって孤児院で厄介になっている。今後世話になることになると思うがよろしく頼む。」
溢れんばかりのシンディの魅力にも分かりやすい反応を見せないアダムは依頼の報告を済ませ、バックパックから化けネズミの尻尾を差し出すと、彼女は手慣れた動きで処理を進める。
「三匹で百五十クレジット。
…初利用で、しかもミュータント相手?大したもんだよまったく後ろの奴らにも見習ってほしいもんだねぇ。有望株にはサービスしておくよ」
彼女はわざとらしいほど距離を詰め、硬貨を一枚ずつアダムの手に置く。最後には両手で包み込むように握り、悪戯っぽくウインクした。
「今後とも御贔屓に、ね?」
そのサービスを一目見ようと背後からの覗き込んでくる気配を感じた次の瞬間、氷が飛び、男の悲鳴が上がる。
「盗み見は有料だよ!さぁ、皆に一杯振る舞いな!」
その威勢のいい声につられるようにしてたちまち酒場はさらに騒がしくなる。
「せっかくだしアダムさんも一杯どうだい? あいつのおごりさ」
差し出されたグラスを一瞬受け取ろうかと思ったアダムだったがふと心配そうなアキナの顔が脳裏によぎる。
「いや、残念だが待たせてる人がいるんでな」
苦笑いを浮かべながらそう答えると、シンディは肩をすくめて笑った。
「そっか。じゃあ次は、ちゃんと時間がある時にね」
酒場のオーナーの艶やかな笑顔と喧騒に背を向け、アダムは熱気あふれる酒場を後にした。背中越しに投げかけられる視線と笑い声を感じながら。




