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響き渡る遠吠えによって騒然となるミュータントの巣からは多数の生物の動く気配がする。そのいくつかは既に斜面を駆けあがって来ているようで足音が近づいて来ている様だ。並のスカベンジャーなら生存を諦めるような状態だったが、アダムは困ったように頭を掻くだけで焦った様子などは見せず目の前のミュータントと対峙していた。


(なんともタイミングの悪い事だが愚痴っていても仕方ないしまずはこの状況を何とかしないとな。この程度の数なら全て倒すのは訳無いんだが流石にそれは不味いだろうしなどうしたもんか。)


実際アダムの実力からすればこの巣を壊滅させることも容易く出来るだろうが流石にそんな事をすれば目立ちすぎると理解しており対応に頭を悩ませていたが、その間にも斜面を駆け上がる足音はどんどん近づいてきておりこれ以上悠長に考え込む時間は無い。幸い目の前のミュータントも仲間の到着を待っているようでこちらに積極的に仕掛けて来る気は無いらしく遠巻きにこちらを伺っているに過ぎない。


(目の前のこいつらを振り切りさえすれば何とか逃げ切る事も出来るかもしれないなやるだけやってみるとしよう。)


意を決したアダムが動き出しの前に力を抜くとミュータント達は諦めたとでも勘違いしたのか警戒が少し緩めた。次の瞬間アダムは驚異的な踏み込み速度で彼らとの距離を詰めるとすれ違い様に両手剣を振りぬいた。先ほど化けネズミを倒した際に見せた動きと同じような行動だったが先ほどとの違いは剣の腹の部分でミュータント達を吹き飛ばすに留めた所だろう。その思いもよらない攻撃で命を奪う事は無かったが悲鳴を上げながらゴミの山へと叩きつけられたミュータントはぐったりとのびてしまっていた。それを確認する事無く一目散に駆け出したアダムを追うようにして駆け上がって来た群れの一団は迷いなくその背中を追っていった。


陽が沈みだしたジャンクヤードの中を周囲に人の気配が無い事をいい事に驚異的な身体能力をフルに生かしてゴミ山の中を駆けまわり追っ手を撒けないかと奮闘するアダムだったが背後に迫る足音と威嚇の吠え声が聞こえて来る事から逃げ切る事は難しそうだった。


「流石にっ、少しっ、厳しいかっ」


 息を弾ませながら全力で走り続けるアダムはちらりと後ろを振り返る、まだ少し距離はあるが少なくとも十匹以上の犬のミュータントがまだ自身の後ろを追っているのを確認し、このままでは埒が明かない事を理解した。


「本当はっ、使う気何か無かったんだがっ、このまま走り続けてもっ逃げ切れそうにないんだか仕方ねえ!」


半ばやけくそ気味に声を上げたアダムは全力で動かしていた足を止めると自らを追ってきているミュータントの群れへと振り返ると腕を向ける。ついに逃げるのを諦めたらしい獲物が取る行動を気にする事無く勢いそのままに飛び掛かろうとするミュータントの群れに向けてアダムはにやりと笑みを向ける。


「こいつでも喰らってな!」


 その声が聞こえるとほぼ同時に、唸り声をあげながらこちらを向き笑っているアダムの喉笛に牙を突き立てようと飛び掛かるミュータント達に異変が起きる。すぐそばに立っていたはずのアダムの姿を見失ったのか辺りをキョロキョロと見回している者や見当違いの場所に飛び掛かりゴミ山の中に突っ込む羽目になっている者等アダムを追走していた群れ全体に混乱が広がっている。その様子を眺めながらも群れからの距離を開けるアダムは満足気な笑みを浮かべていた。


「使いたくは無かったがこれほど分かりやすく引っかかってくれるなら使った甲斐があるってもんだな。」


アダムが使った初歩的な幻惑魔法に見事に引っ掛かり混乱を極める群れの様子を少し楽し気に眺めていたがこの世界での魔法の効果がどれ程続くかも分からない為足早にその場を後にする。


(効果は絶大だったがやはりマナの消耗は格段に激しいのは間違いない。すぐさまどうこうなるって訳じゃないがやはり気楽に使う物でも無い、今日のように油断から使う事になるのは今後避けないとな。しかし気を抜いていると索敵が疎かになるのは反省点として覚えておかないとな。)


そう自分を戒めるアダムだったが、脅威となりえない存在をわざわざ索敵しながら探索するというのは意識しても難しいものではある。その上相手のマナを読み取り索敵する事が多かったアダムからすればこのマナの薄い環境では索敵効率も落ちるというのも仕方のない事ではあったが、この世界での初の探索は成果もあったがそれよりも課題が多く見つかる結果となっていた。

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