15
「よし、それではこの品々は少し色を付けて6000クレジットで買取ましょう、それと今日何か欲しい物があればお代の方は少し勉強させていただきますよ。」
「色付けてくれるのは嬉しいけど、この店に置いてある商品なんて高すぎてアタシ達に手を出せる訳ないだろ!他に何か無いのかよ?」
この状況を利用して更に何かを引き出そうとするアキナに纏わりつかれる店員の男は少し考えこんでいたが何か思いついたのかポンと手を叩き合わせる。
「後こちらでご協力させて頂くことがあるとすれば口座開設の手続きのお手伝いになるんですが作成なさいますか?手数料ぐらいでしたらこの閑古鳥の鳴いている店の未来のお客様の為に当店で負担させて頂きますよ?」
アダムは口座という物がどういう物なのか良く分からないがあまりに上手い話に何か裏があるのではないかと少し疑っているがそれを問う前に目を輝かせたアキナがその話に飛びついた。
「それいいじゃん!これから必要になるかもしれないしオッサンの分と二人分作って貰おうよ!」
その言葉にニッコリと笑みを浮かべた店員の男は即座に手続きの準備を始める。
「承りました。それでは口座を作ってから使い方を教えさせていただくついでにこちらのクレジットの方は支払わせていただきます。作成には少しお時間頂きますので、商品でもご覧になりながらお待ちください。」
そう言われ店内を散策しだす二人は展示されている銃器や戦闘用のスーツなどその他様々な品を見て回るその値段は安くとも1万クレジットを軽く超えており、アキナの言う通りとても手が出せるような値段では無かった。
「確かにアキナの言う通り高額な品ばかりのようだな。ここの商品を買おうと思えば今日の儲けをすべて使う事になるんだな。俺には良く分からんが1万クレジットあればどんなことが出来るんだ?」
アダムのその問いかけにアキナは腕組みをして少し考え込むような素振りを見せる。
「うーん、両親と子供の四人家族なら、少し節約して一ヶ月ってとこかな」
「……そうかそんなものか。」
アダムは展示ケース越しに並ぶ装備を見つめたまま、小さく息を吐いた。今日手にした金額を思えば、ここに並ぶ品々がいかに遠い存在かは理解できる。
「そう考えるとさ」
不意に、アキナが軽い調子で言った。
「オッサン、あの時ずいぶん安い命賭けてたよね」
「…安い命?」
「だってさ。あれだけ撃たれて、普通なら死んでてもおかしくないのに」
アキナは不思議そうにアダムの方を見上げる。
「なんで平気だったの?身体、何かしてるわけじゃないんでしょ?」
その言葉にドキリとしたアダムは少し考え込むと、視線を逸らしたまま答えた。
「身体を弄った覚えはない。少なくとも俺の記憶にはな」
「……じゃあ?」
「昔から他人よりは頑丈だったってだけさ。痛いものは痛いしあの時だって平気そうに見えたかもしれんが我慢してただけさ。」
その言い方に、アキナは一瞬だけ首を傾げる。
「ふーん……まあ、嘘ついてる感じではないけどさ」
アキナは肩をすくめると、笑顔を見せるといつもの調子に戻る。
「ま、命の恩人がちょっと頑丈なだけなら安いもんだよ。 正体が化け物でしたー、とか言われるよりマシだし」
「それはどういう意味だ」
「深い意味はないって。やせ我慢でも今は助けてくれるオッサンで十分だって」
「あの時は状況が分からなかったが人助けするならなるべく恰好良く助けた方がいいだろ?だから我慢してたのさ。」
多少おどける様に話しながらもアダムはアキナの様子を注意深く見守っている。自らの実力の片鱗を目撃している彼女がその力に恐れを抱くような事があれば最悪の場合戦利品の売却で得たクレジットの取り分を受け取って別の街へ移動する事も考えていたが、その心配は杞憂だったのかアキナの態度に特に変わった所は見られない。
「内情聞いちゃうとちょっと残念だけどまぁ、実際恰好よかったよ。でも他の人の前で余計な被弾は避けた方がいいんじゃない?大都市なら身体改造してるって言い張れば誤魔化せるかもしれないけどジャンクタウンじゃあ流石に怪しまれると思うよ?」
「あの時は俺も突然の事に驚いていたからな今後はその辺りは気を付けるが、まだ探索に出てすらいないんだから気にしすぎても仕方ないんじゃないか?それに今の所俺は知り合いもいないしアキナ以外と探索に出るつもりも無いから問題は無いだろう?」
「ほんとにぃ~?じゃあ何かあっても一緒に探索に出て誤魔化せるようにアタシは頑張って鍛えて貰うからその言葉忘れないでよ?約束だよ。」
まだ子供と言える年齢の少女に庇われると言うのは少し情けなくも思えるが、自らの身から出た錆びなのでアダムは甘んじて受け入れる事にする。
「あぁ、約束だ。だがあんまり根を詰めすぎるなよ訓練中にケガをしたら元も子も無いからな。」
アダムの言葉にアキナは快活そうな笑みを浮かべると返事を残して店内の見学へと戻っていった。アダムも何か興味のある物が見つからないかと並べられた商品を見ていくが今の彼にはどれも高額な商品だという事以外はよく分からない物ばかりだったが、店の片隅に見覚えのある商品が並ぶ一角を発見する。
(接近戦用の装備を扱ってる売り場みたいだが、精々護身用のナイフ程度しか扱っていないようだな。やはり剣や槍といった正統派の近接武器は廃れてしまったのか?)
アダムが良く知る武器の類であれば大部分の物を扱う事が出来るのでナイフも扱えない訳でも無いが射程が物足りない気もする。値段自体は他の売り場の商品に比べると安く設定されているがそれでもおいそれと手が出せる金額では無くアダムの口から小さく呻き声が漏れた。それとほぼ同時にいつの間にか近づいて来ていたアキナから声がかかる。
「オッサンの力じゃ使えるかも知れないけどどっちにしても気軽に買える金額じゃ無いしそんな物見たって仕方なくない?ほらあっちで違う物みようぜ~。」
アダムの背にもたれ掛かるようにして体重を掛けて来るアキナは他の売り場に連れて行こうとしているが、当の本人はこの場から動く気は無かった。
「流石にもう少しリーチはあったが俺はこういった武器で戦うことが多くてな、元々使ってた武器は持って来れなかったし使えそうな物を探しているんだ。」
とは言うものの少ない売り場に置かれている商品にはアダムが求める物は置いておらず人気の無さが伺える。纏わりついて来るアキナに対処しながらも少しでもマシな物を探していると背後から声が掛けられる。
「こんな所にいらしたんですね。口座開設の為の準備が出来ましたのでこちらへどうぞ。」
店員の男の案内に従いカウンターの前に出された椅子へ腰掛けると小さな金属片のような物が二人の前に差し出された。
「これは・・・?」
差し出された金属片を手に持ち困惑した表情を浮かべる二人に対して店員の男はにこやかに指示を出す。
「そのまま少しの間手のひらの上に乗せておいて貰えればすぐに済みますよ。」
意味は良く分からないが言われた通りに手のひらの上に金属片を乗せそれを眺めていると突然トゲが刺さったような僅かな痛みが走る、それと同時に金属片が手のひらにめり込むように沈んでいき最後は体内に完全に入っていった。
隣ではアキナがひゃあ!と悲鳴を上げておりおそらく同じ現象が彼女にも起きている事が理解できた。驚きに言葉を失う二人を楽しそうに見つめる店員の男は、戦前の技術に初めて触れる人が見せる新鮮な反応を楽しそうに眺めていた。




