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第38話 公国を襲う天災編その2 緊急対策会議

 

「よし、学院特Aクラスで緊急対策会議を行う。 各人、忌憚のない意見を出してくれ」


 カッカッ……


 メガネをかけ、白衣まで着たザ・研究者ないでたちのイレーネ先生が、黒板に”巨大隕石緊急対策会議”とチョークで大書きする。


 オレ達は、イレーネ先生の研究室に移動し、有史以来最大の危機だと思われる巨大隕石への対策会議を開いていた。



「隕石の直径……300メートル……大きいのか小さいのか分からないです……」


 イレーネ先生が配布した資料に並ぶ数字に、サナが目をぐるぐる回している。


 それはそうだろう、オレだってよくわからない……人間どころか、ドラゴン族の中にも巨大隕石の落下に対処した者はいないだろう。


「推定質量五千万トン……大気中のエーテル粒子による減速を考慮したとしても……公国北部州は軽く吹っ飛ぶね」


「さらに、衝突の際に舞い上がったチリが太陽の光を遮り、衝撃波がエーテル粒子に影響……数十年は満足に魔導も使えなくなり、農業生産にも壊滅的な打撃が発生するという予測が立っている」


 それは……世界的にとんでもない影響が出るぞ……


「はあ、数字が大きすぎて現実味がありませんわ……先生、このような天変地異を前に、わたくしたち人間にできることがあるのですか?」


「で、でもでも……リリちゃんの”ブワアアアァァ”を使えばっ?」


 ハンナの言う”ブワアアアァァ”とは、オレのドラゴン・ブレスの事だ。 確かに、全力のドラコン・ブレスは、小さめの山なら吹き飛ばすほどの威力を持つ……直径300メートルくらいの大きさならもしかして……というのはあるな。


 ただ……


「ハンナ、オレのドラゴンブレスの射程は、せいぜい数キロ……飛行魔法の限界上昇高度である2万メートルまで上がったところで、誤差だな」


「先生、そんな至近距離で迎撃したところで、破片で大変なことになるんじゃないですか?」

 オレの指摘に、先生はそうなんだよね、とかぶりを振る。


「その対策はウチらも考えたんだ……ただ、きれいさっぱり蒸発させたならともかく、砕く程度では発生した大量の破片が、公国だけでなく世界全土に降り注ぐ……舞い上がるチリの量はマシになるかもしれないけど、やっぱり大被害は免れないね」


 うーん、オレの翼でも、成層圏以上はエーテル粒子の密度の関係から上昇するのは難しい……オレ達の対策会議は、しょっぱなから煮詰まっていた。



「ん……アタシ、頭悪いからよくわかんないけど、リリの転移魔法は使えないの? その隕石までばびゅーんと転移して、壊しちゃえば?」


 こういう時は、魔導の素人の意見が参考になることもある……フィノの意見も悪くはないのだが。


「うーん、我々人間の転移魔法では難しいね……転移ポートがないと正確な転移は不可能。 適当に発動させると、どこに飛んでいくか分からないよ」


「リリ、キミの転移魔法はどうだい?」


 ……ちなみに、ここにいるメンツはオレがドラゴンから転生したことを知っている……ドラゴン族の上位魔法に期待という事だろうが……


「……残念ながら難しいな……おおよその座標は指定できるが、その隕石は直径300メートルと小さく、しかも高速移動している……大きな湖で泳ぎ回るメダカに、岸から石を投げ当てるようなモノ……奇跡がダース単位で必要だね」


「よくわかんないけど、無理という事だけはわかった。 ……残念」


「それは、万策尽きた時の最後の手段だね……成功率は万に一つもないけど……まずは他の方策を考えよう」


 おお、また会議が振出しに戻ってしまった。



「……そういえば先生、メルゼブルク高等技術学校で研究しているという、アレは使えませんか? 魔導ロケットとか言う……実験中の新しい飛行技術がありましたよね」


 名家の出身として、顔だけは広いクリスがふと思い出したように提案する。


 高等技術学校……なるほど、さすが学園都市。 いろんな学校があるものである……ドラゴンには学校は縁が無かったので、感心してしまう……かわいいロリはいるかな?


「ああ、あれか……理論は良いけど、魔力をバカ食いするからなあ……人間の魔導士だと数十人が束になっても……」


「…………そうか、人間じゃない魔導士か……」


 ぞくっ!


 思わず寒気を覚えるオレ……先生の目が妖しく光り、オレとサナを見る……この目は、唯一の敗北を喫した夜、オレを舐めるように見つめたあの目!


 危険だ、危険だぞ!


「…………もしかして、先生……人間をはるかに超越する魔力量を持つオレと、魔力回復魔法を使えるサナを使おうと考えてませんよね……?」


「ふ……さすがにリリ君は優秀だね……詳細なプランはまだだが、ウチは使えるプランだと思う……大丈夫だ、心配いらないよ」


 絶対にウソだ! 大人がこのシチュエーションで言う”大丈夫”には何の保証もないのである! ヘタしたらオレもサナも星界の藻屑にされてしまう!


 オレはさらなる抗議を先生に叩きつけようとしたのだが……


 すっ……と先生はタイツに包まれた脚を妖艶に組み替えると、愛らしい声でこう告げた。


「ふふ、いいのかい? 良家の子女が多い魔法学院(ウチ)と違って、メルゼブルク高等技術学校は平民階級や他国からも生徒が集まっている……女子のバリエも豊富だ……キミの幅広い好みに合うと思うがね」


「ただでさえ魔法学院でキミはSクラス魔導士として畏怖の対象だ……だが、ウチが手を回せば、高等技術学校では皆のアイドルとして売り出すことも可能……その先はわかるね?」


 ……はっ! 魔法学院でトップを貼るSクラス魔導士リリ様……庶民上がりのワタシには高根の花だけど、できれば一目お会いしたい……えっ!? 魔法学院との共同研究ですって!?


 しかもリリ様もいらっしゃる! ああ、なんて凛々しくもかわいらしい……もうこの身をささげてもいい……×200


 素晴らしいじゃないか……楽園はこんな近くにあったんだ!


「はいっ! オレ、やります!」


「……ああ、リリ様……ちょろい。 むしろ先生が恐ろしいです……」


 この時オレの脳みそは色ボケしていて、とんでもない依頼を承諾したことにまだ気づいていなかった。


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