第36話 サナの帰郷編その5(解決編) リリ、豪快な村人たちに屈する。そして動き出す黒幕
バアァ……
オレ達は、”暗黒迷宮”内に設置されていた、瘴気を垂れ流す像と、闇の魔力の増幅装置を破壊した。 これで、村人たちも正気に戻るはずだ。
……そういえば、えっちな店や魔導麻薬バーで働いていた村人たちはどうなるんだ……もしかして、今回の騒動の黒幕である、”ルチアーニ・マフィア”の構成員に消されたりするのでは……特に女の子が! まずい、そこまで考えてなかった!
「サナ、フィノ、村に戻ろう! 大混乱が起きてるかもしれん!」
「? 確かに、正気に戻った人たちは混乱するかもしれませんが……ティフノ村ですし……大丈夫じゃないですか? ああでも、マフィアの構成員の方たちが心配ですね」
慌てるオレに対し、サナは落ち着き払っている……どういう事だろうか?
とりあえず、オレ達は村に戻ることにした。
*** ***
予想通り、ティフナ村は大混乱に陥っていた。 オレの予想と違う形でだが……
村の奥にある、巨大な石造りの風俗ビルが炎上している。
逃げ惑っているのは、”ルチアーニ・マフィア”の構成員で、追いかけているのはティフナ村の村人たちだ。
「「……はい?」」
思わずぽかんとするオレとフィノ。
普通逆じゃねーの?
「なにしてくれんのさ! この黒服たち! ワタシらの技は、こんなに安くねーんだよ!」
どかっ!
春を売るお宿で働いてるクソビッチさん(推定)の投げたテーブルが、マフィアの構成員をなぎ倒す。
「くぉら! この外道ども! オレ達はクスリに手を出さないことが誇りだったんだよ! それを、お前たちは!」
べきっ!
村で特殊稼業を営むおじさん(推定)の、丸太のような腕から繰り出されるラリアットが、マフィアの構成員をなぎ倒す。
「さすが、誇り高きティフナ村の人たちですっ! 卑劣な犯罪は許しませんね!」
サナは感激で目を潤ませているが、今暴れてる人たちの稼業も相当アレじゃないんですかね……?
……30分後、マフィアの構成員は一人残らず制圧され、村の広場に転がされていた。
「……えーと、お疲れ様です。 瘴気をまき散らして、皆さんを操っていた”ルチアーニ・マフィア”の装置はぶっ壊しておきましたので、ご確認をお願いします」
思わず丁寧な口調になるオレ。
「おお、アンタ達が! おかげで目が覚めていい気分だよ、がっはっは!」
豪快に笑う、特殊稼業を営むおじさん(推定)。
タタッ……
「サナ! 昨日はごめんね! せっかく再会できたのに、私おかしくなってた」
オレが反応に困っていると、村人たちの群れから、一人の少女が走り出てきた。 確か、昨日魔導チェンソーで襲い掛かってきたサナの友達の……ユリアとか言ったか。
「ユリア! 正気に戻ったのね! わたしも、会いたかった……元気そうねっ!」
……ふたりが抱き合おうとした瞬間、ユリアはふところから果物ナイフを抜くと、サナに向けて切りつける。
ぱしっ!
その行動を読んでいたのか、ナイフの攻撃を簡単にさばくサナ。
「!! この間合いで……ふふ、サナ、成長したのね……うれしいわ」
「えへへ、わたしも今や、最強リリ様の下僕兼愛人のSクラス魔導士ですよ? いつまでも、あなたに刺されるわたしじゃないの」
うふふ、とえらく殺伐とした友情を育んでいるサナとユリアはスルーするとして、これで一件落着なんだろうか?
「ん……リリ、アタシ的には、この村は地図から消しておいた方がいいと思うんだけど」
正気同感だが、サナの故郷ごと吹っ飛ばすわけにはいくまい……見なかったことにするのが大人だろう。
……ん? そういえば、サナが奴隷商人に売られた理由って……
「おい、さっき、そこのおじさんが、”クスリに手を出さないことが誇り”って言ってたよね」
「サナが奴隷商人に売り飛ばされた理由、”村長と公国警察の駐在が、ひそかに魔導麻薬の材料となる花を栽培してるのを、偶然目撃したから”って聞いたんだけど、どういう事?」
「「あっ」」
ふと気になったことを指摘すると、油断していたのか、村長と駐在と思わしき二人の男が声をあげる。
「おい、村長……あんだけの魔導麻薬の材料、どこから調達したのかと思っていたら……まさかアンタ」
「ち、地産地消じゃよ」
「!! おいみんな、ぶちのめせぇ!!」
村人たちの逆鱗に触れたのか、村長と駐在はボコボコにされ、あっさりと退治されたのだった。
*** ***
「もう行っちゃうのね、サナ」
「うん、わたし、リリ様ファンクラブを世界に広げるという大事な使命があるから……また会いに来るね」
サナとユリアが、別れを惜しんでいるが、オレは早くこの村から立ち去りたくてたまらなかった。
「……リリが何もせずに帰るとか、めずらしいね」
そう言うな……やっぱ純粋なロリちゃんをあの手この手で落とすのがイイ……玄人の皆さん怖い。
オレは敗北感を胸に、ティフナ村を後にするのだった。
リリちゃんファンクラブ ゲットならず! 初の敗戦である。
*** ***
ヴァイナー公国、公都某所。
豪華な調度品で飾られた部屋の中で、ふたりの怪しい男が密談をしていた。
ひとりは公国貴族連合の盟主、オットー。
もうひとりは”ヴァイナー・コミッション”のボス、マランツ。
世界最大の国力を持つヴァイナー公国、その表と裏を牛耳る男達でもある。
「ふん、ティフナも潰されたか……”ルチアーニ・マフィア”も案外大したことは無いな、マランツ」
ぎしり、と高級そうな椅子と机が音を立てる。 声色からは、嘲笑の気配が感じられる。
「これは盟主、異なことを……所詮”ルチアーニ・マフィア”は、地方上がりの連中……とはいえ、ガキ冒険者ごときにしてやられるとは……遺憾ながら、対処が甘かったと言わざるを得ません」
成金貴族風情が……思わずイラついたマランツは、葉巻の香りで気分を落ち着けながら、釈明する。
「いまだ、大したことない脅威とはいえ、妙な噂もある」
「妙な噂ですか……いったいそれは」
この私さえ知らない情報を持っているのか? 思わず身を乗り出すマランツ。
「その冒険者の一人……リリとかいう女だが、ドラゴン・アーツを使ったと言われている」
「まさか! そのようなイレギュラーが何人もいるはずが」
アイツじゃあるまいし……マランツは”ヴァイナー・コミッション”最大の秘密兵器の事を思い出す。
「まあ、出所不明の噂だ。 どちらにしろ、我らにたてつく奴は、始末するだけだ」
「御意……」
オットーの奴は、単なるうわさと思っているようだが、火のないところに煙は立たないのだ。
早急に対処を考えるべきだな……冷酷なマフィアのボスの顔になり、マランツは思考の海に沈んでいった。
サナの帰郷編、終了です!
次は少しお気楽なお話になります。




