第35話 サナの帰郷編その4 探偵……むしろ囮なフィノちゃん、奮闘する
早朝、オレ達は行動を開始する。
「じゃあ、まずフィノ! 先行して偵察を頼む。 連絡は魔導通信端末で」
「ん……オッケー」
村の近くにある、”暗黒迷宮”がカギになりそうだ……非合法組織の連中が潜んでいる可能性もあるし、まずは偵察が大事である。
オレのドラゴン・ブレスで吹き飛ばすにしても、村人たち……サナの知り合いなどが使役されている可能性もある。 ここは慎重に行こう。
「むー、探偵役はサナちゃんのお仕事ですのに……」
サナがぷくーっとむくれている。 自分の仕事?を取られて残念なようだ。
「今回は敵が警戒してる可能性もあるからな……こないだみたいに、サナが危険な目に合うの、オレ……嫌なんだ。 サナの力は、もっと知的な事件の時に生かしてほしい……」
すっ……オレはイケメン顔を作ると、サナの頬を優しくなでた。
「はうぅぅ……リリ様、わたし……はい! 今回は我慢します!」
ふにゃふにゃと喜ぶサナをさらにムニムニしながら、じゃれつくオレ達。
「……まったく、朝からあぶのーまる。 アタシ、もう行くね」
おっと、フィノがスネているな……かわいい奴だ。
「ふ、隠密魔法をかけるから、少し待て。 フィノ、危険なことを頼んですまんな……この埋め合わせは期待してくれよ?」
「……えっち」
「フィノちゃん……次こそみんなで外で……しようね?」
サナがフィノに抱きつく……うむ、夜のトレーニングをやり過ぎたかもしれん……漂うピンクな空気に、少しオレは後悔していた……これも、瘴気の影響に違いないな!
*** ***
「ん……こちらフィノ。 ターゲットの迷宮を視認」
アタシは、”暗黒迷宮”と思われる建物が見える高台に、身をひそめていた。
アタシの視力は3.5。 スリ行為には視力が大切……長年の訓練のたまもの。
朽ちた古代の遺跡……大量の瓦礫の影に、地下迷宮への入り口があるようだ。
見張りは……5人か……結構厳重だね。
迷宮の入り口にふたり……入り口前に広がる広場を見渡せる、半壊した建物の上にひとり……ふたり。 狙撃要員かな。
後方にバックアップがひとり……身のこなしを観察するに、田舎の犯罪組織のチンピラじゃなく、プロの匂いを感じる。
アタシが所属していたスラムの零細犯罪集団のボス……ルードがたまに会っていた、公国の裏社会を支配する巨大マフィア”ヴァイナー・コミッション”の構成員……そいつに似た感じ……これは、結構デカい奴らが動いてるみたい……それに、定期的に村人……村の風俗ビルやえっちなお店で働いている従業員だ……が、ふらふらと迷宮に入っていく。
村人は、10分足らずで戻ってくるのだが、その時にはなぜか動きが機敏になり、ハイになっている……アタシ、ああいうの見たことある。
スラムでクスリをキメて、ラリっていたロクデナシどもにそっくり……あいつらすぐに体を要求してくるから、イヤ。 金ないくせに。
でも、やっぱこの光景はおかしい……”ヴァイナー・コミッション”本体が関わってるのかな……?
すちゃ……
アタシは魔法が使えないので、リリから預かった魔力検知用のマジックアイテム(メガネ型)を装着する。
暗い紫……闇の魔法力とともに、瘴気と呼ばれる魔力のよどみが、もわもわと迷宮からあふれ出ているのが見える……
アタシは、魔導通信端末のカメラを最大望遠モードにすると、記録を続けた。
「ふぅ」
アタシは一通りの偵察を終え、高台を撤収した。 いろいろ情報取れたし、リリたちに合流しよう。
……それにしてもこの衣装、布面積が少なくて結構寒いんだけど。
そう、アタシはいま、異世界の女シーフ”クノイチ”の格好をしている(というか、させられている)
サラシを巻き、大胆に肩を露出した、黒地に赤い線の入った前閉じのキモノ……東方の民族衣装?のような丈の短い上着を身に着けている。 下半身は網タイツだ。
サンダルのような履物は、地面にフィットして動きやすくはあるんだけど……なんだろう、この漂うエロスは……?
隠密行動をする偵察員が、こんなえっちな格好をしてていいのだろうか?
思わずポーズを取っちゃうアタシ……ちょっとドキドキする。
この後アタシは、リリがこの衣装を異世界の”成人向けこみっく”なる邪悪な聖典から、適当にインスパイアされて作ったものであることを知り、リリを意味深に締め上げることになるのだった。
*** ***
戻ってきたフィノの報告を聞く。
なぜかフィノはオレが作った素晴らしいクノイチ衣装に文句を言ってきたが、華麗にスルーする。
その衣装がもっと気に入るよう、今夜はかわいがってやる……主に耳を!
おっと、話がそれたな……なるほど、やはり”ヴァイナー・コミッション”の奴らが関わっていたか。
先日のベルスの街でのサナ誘拐事件……犯人である零細犯罪組織のボス、ルードを吹き飛ばした後、いろんな資料を調べたのだが、奴の組織は”ヴァイナー・コミッション”のひ孫請けであり、上位組織である”ルチアーニ・マフィア”がオレ達の暗殺を仕組んだことが判明した……そのため、今後も襲撃があるかと警戒していたが、まさかこんな辺境でも悪事を働いていたとはな。
おそらく、”暗黒迷宮”から漏れてくる瘴気を利用し、公国中央から目の届かないこの辺境で、大々的な資金調達をしているというのが真相だろう。
まったく、ろくでもない奴らである……いつかぶっ潰さねばならんな……!
記録映像を見る限り、B~Aランクの警備が5人……正直、俺の脅威ではないが、ティフノ村の為にも、根こそぎ吹き飛ばすのではなく、迷宮の調査をしておきたい。
そうだな……この手で行くか!
オレは即座に敵の無力化プランを組み上げると、サナ、フィノとともに、準備を始めた。
*** ***
ここに配属されて半年……支払いは悪くないが、正直退屈な仕事だ……まあ、裏稼業の世界で、安定している点は結構だが。
”ルチアーニ・マフィア”に雇われた、”暗黒迷宮”の警備Aは必死にあくびをかみ殺していた。
ここはベルスの街から10日はかかる超辺境。 しかも、組織の魔導士が設置した罠により、到達難易度は上がっていると聞く。
唯一の交通手段である転移ポートも、組織があっせんする買売春ツアー参加者のみに使わせている。
この迷宮から漏れる闇の瘴気に、魔導麻薬を混ぜることで、村人たちの攻撃性と性欲を肥大化させ、そういうこと以外は考えさせないようにしている。
この状況で、敵襲がある事は考えづらいのだが、ここの運営主体、”ルチアーニ・マフィア”が、親組織である”ヴァイナー・コミッション”に運営費の請求を行う際に、経費として載せる為に俺達を置いているのだろう……無駄金だとは思うが、雇われ人としては知ったことではない……早く交代の時間は来ないか……今日はNo1の娘を予約できたんだ……!
警備Aはムラムラしていた。
現在の時刻は夕方5時。
ムフフなお店が一斉に営業を開始するので、”暗黒迷宮”の周りには警備の連中しかいない。 ここが好機だ!
オレは、待機してるフィノに合図を送る。
「…………」
アタシ、裏稼業から足を洗って、ママも助かり、友達もできた。 人生順風満帆なはずなんだけど……なんでこんな事をしてるの?
思わず自問自答しながら、アタシは警備の男達から見える高台の上に姿を現す。
うう、恥ずかしい……アタシがいま着ているのは、先ほどのクノイチ衣装を更にきわどくしたもの。
裾の丈はさらに短くなり、ほとんど下着が丸見え……しかも下着は白にしろとか……へんたい。
ご丁寧に、ピンクの照明まで当てられる(リリのしわざだ)
「おお、イイな! もっと、エッチなポーズで! かもん!」
「……ボーイッシュなフィノちゃんがあんな格好を……なんでしょうねリリ様、この背徳感……この後わたしたちに降りかかるアクシデント……哀れフィノちゃんは屈強な男達の手に……」
通話モードにした魔導通信端末から、ふたりの好き勝手な言葉が聞こえる。
むっ……これはアタシの尊厳問題……今夜はスリで鍛えたこの指先テク(意味深)で目にモノを見せてやる……
ひそかに決意していると、警備の男達が気付いたみたい。
オレとサナは、物陰に潜んでフィノのストリップ……もとい囮作戦を観察していた。
「……ん? なんだあれ、女か?」
警備Bがフィノに気づき、声をあげる。
「……なんか、ストリップしてるみたいっすね……店の営業ですかね?」
「ふん、俺達の給料日が昨日だったことを知ってるようだな……熱心なことだ」
「あのコスプレ、そそるなー……あー、でもガキかぁ……ガキは趣味じゃねーんだよなぁ」
好き勝手なことを言う警備C、D、E。 むむ、見た目に反してまともなことを言ってやがる……やはりサナにやらせるべきだったか?
オレが人選ミスを危惧していると……
「なにを言うか! あの扇情的な衣装と、スレンダーなボディのギャップがいいんだろうが! それにあのボーイッシュな髪型……大変良い!」
「おい、早く彼女から割引券と予約券をもらうぞ!」
あ、ロリコンがいた。 よりによって隊長っぽい奴である。 全員の注意がフィノに向いたのを確認し、オレはサナと二人で魔法を発動させる。
サナの魔力回復魔法と、オレの闇魔法を掛け合わせた高度な術式だ。
フアアァ……
薄い膜のようなフィールドが広がり、警備の男達を包む。
「ん? なんだ……魔導麻薬との混合瘴気が……強くなっている?」
警備Eが気付いたようだが、遅いな!
この魔法は、空気中に漂うエーテル粒子に干渉し、特定の魔力を増幅する。
瘴気も闇の魔力の一種なので……
「くっ、瘴気を相殺する指輪の効果が追い付かない!?」
パリィーン
うむ、説明セリフお疲れ。 男達を瘴気から守っていたマジックアイテムが砕け散り、増幅された瘴気と魔導麻薬の霧が、奴らを包む!
「いっきゅうううううううううぅぅぅぅ!?」
聞くに耐えない絶頂の悲鳴が聞こえ、霧が晴れたときには、のーみそ焼き切れ、アヘ顔を晒してぴくぴく痙攣する男達が転がっていた。
「ふう、男のイキ声はきたねーな! SAN値が削られたぜ……」
「うう、夢に出そうです……」
「……耳をレ○プされた……もうお嫁にいけない」
敵を無力化したが、代償は大きかったぜ……
げしっ!
未だに痙攣する男達を、オレは地面にあけた穴にポイ捨てする。 運が良ければ10日後くらいに正気に戻るだろう……慈悲深いリリちゃんであった。
「さて、迷宮を調べるぞ……とはいっても、規模的にすぐわかるだろーけどな」
オレ達は、”暗黒迷宮”の中に足を踏み入れた。
ほどなく、目的のブツを発見する。
迷宮内の祭壇?のような場所に、古代の悪魔崇拝の名残だろうか? ねりねりと瘴気を垂れ流す、醜悪な像が鎮座している。 そして、目の前に魔力の増幅装置が置かれている。
これが、村人たちをおかしくしてたに違いない。
こーいうもんは、ぶっ壊すに限る!
放たれたドラゴン・ブレスが、すべてをきれいさっぱり吹き飛ばした。
バアァ……
浄化の光が、迷宮と村を覆っていった。




