第34話 サナの帰郷編その3 セ○クス&バイオレンスな村を調査しよう
ティフナ村の内部も、なかなかに凄いモノだった。
人口は5千人ほどだろうか?
巨大な渓谷を抜けた先、雪深い山脈と、深い森に囲まれたわずかな平地に、小さくも手入れの行き届いた家々が立ち並んでいる。
豊かな雪解け水と、肥えた土地、脂の乗ったイワナとニジマス、食べ応えのあるキノコとレタスが名産の、穏やかな村……のはずだ。 スペック上は。
それなのに……それなのに!
村の中央広場に設置された転移ポートに、欲望で肌をテカテカさせたおっさん達が次々に到着する。
群がる娼婦たちと交渉し、立ち並ぶ宿屋に消えていく。
村の奥には、巨大な石造りのビルが鎮座し、ありとあらゆる風俗店や、魔導麻薬バーが絶賛営業中。
村の路地では、酔っ払いやヤク中どもが喧嘩を繰り広げ、屋根の上ではアオ○ンにふける輩もいる。
それとは別に、ホスト狂いの上流階級の娘たちが向かう先は、イケメンぞろいのホストバー。 普通の店では20公国マルクで買えるシャンパンが、1000公国マルク以上の値段で回し飲みされる。
客たちは楽しむというより、トランス状態だ……狂乱の宴で、巨額の金が動く。
人間の欲望をギュッと凝縮したような、最低の光景がそこにはあった。
いかん、これはいかん! そういうお店は、オレも好きだが、女の子との駆け引きやトーク、割り切ったプロレス的な遊びが楽しいのである!
男も女も目が濁っている……それに、このわずかに漂うモヤは……魔導麻薬……いや、瘴気か?
「……なんですか、コレ……わたしが売られた半年前は、刺すか刺されるかという緊張感はありつつも、お客もビッチの皆さんも”ほのぼの”と楽しんでいました……ですが、今のこれはっ」
いや、刺すか刺されるかの緊張感てなんだよ……この村の”ほのぼの”基準っていったい……
思わずオレがサナにツッコもうとした瞬間……
「! サナ、危ない!」
物陰から放たれる殺気を感じたフィノが、サナを抱えて飛びのく!
一瞬前までサナが立っていた地面に、高速回転する魔導チェンソーの刃が深々と突き刺さった。
「うお、あぶねー……」
思わず呆れるオレ……つーか、魔導チェンソーなんてどこで買ったんだよ……公国重工の最新モデルじゃねーか。
チェンソーを振るってきたのは、サナより少し年上か……癖のあるオレンジの髪をサイドテールにまとめた獣人族の少女。
大人の身長ほどあるチェンソーを地面から引き抜き、ニタリと壮絶な笑みを浮かべる。 かわいいけど、表情が怖すぎる……
「って、ユリア! どうしたっていうのっ!?」
知り合いか? サナが獣人女を見て叫ぶ。
「ふふふふふ、久しぶりね、サナ……あなたがいなくなってから私、ものすごーく苦労したのよぉ……ねえ、聞いてよぉ」
くっ……まずい! どう見てもまともじゃない! 魔導麻薬と瘴気の毒にあてられているのか?
「サナ、いったんここは逃げるぞ! ラリった連中が集まってきやがった。 フィノ、頼む!」
「ん、ラジャー」
ぼふっ……カッ!
フィノは、バックから手投げ式の魔導閃光弾(暴徒鎮圧、攪乱用)を取り出すと、地面にたたきつけた。
防御陣を展開し、魔導閃光弾の光を軽減すると、目がくらみ、もがく群衆の間を抜け、オレ達は村の郊外に撤退した。
*** ***
……30分後、オレ達は村の郊外に建つ、1軒の粗末な小屋の中に避難していた。
「……ユリア……どうして……明るいあなたとは、楽しくナイフで刺し合った仲なのに……チェンソーを使うなんて、大ケガしてしまいますっ!」
変わり果てた友人の姿に、サナはショックを受けているようだ……ん? ナイフ? ナイフってなんだ……聞き捨てならないセリフがあった気がするぞ……?
「サナ、ばいおれんす……」
「え? 辺境の村なら、それくらいのじゃれ合い、普通じゃないですか? わたしの回復魔法は、そんな遊びの中で磨かれた物なんです」
お、おう。 さすがSランクプリーストを生んだ村の環境だな!
こういうのも、異文化コミュニケーションというのだろう! オレは、自身の精神安定のために、華麗にスルーすることにした。
「そういえば、この小屋、古いけどちゃんと整頓されているな……あと、どことなくサナの匂いがするか?」
「! さすがですね、リリ様。 この小屋、以前わたしが住んでいた場所なんです」
「なるほど、だからか……いちおう、隠密魔法と防御魔法をかけておいたから、ここは安全なはずだ」
サナが帰郷したことは知られているので、なにかしらの襲撃があるかもしれない。 拠点を決めて、防御を固めておく方が安全なはずだ。
「ひとまず、村が世紀末覇者も真っ青な感じで荒れている原因を知りたい……村に漂う魔導麻薬と、瘴気……どう見ても異常だ」
「その件ですが、リリ様。 ティフナ村の近くには、通称”暗黒迷宮”という、古代の遺跡がありまして、以前から少しずつ瘴気が漏れてるんです」
「その瘴気がほんの少し、村人たちのバイオレンス性に影響してるんじゃないかと、調査した賢者様はおっしゃってました」
「もしかして、迷宮の状態がおかしくなってるのかも?」
ふむ、サナが重要な情報を教えてくれた……調べる必要があるかもしれない。
「ただ、村の奥にあった欲望満載のビルだ……あんなの以前あったか?」
「い、いえ……えっちな宿は前からありましたが、あくまでお小遣い稼ぎレベル。 あんなに巨大な施設はありませんでした」
なるほど……そうなると……成金貴族が提供した転移ポート、急に悪化した治安……転移以外での到達難易度の上昇……匂うな。
「リリ様、まさか……なにかしらの非合法組織が関わっていると?」
「そうだな、状況的にあり得るだろう……この国の犯罪組織……マフィアたちは、貴族たちとつながってるというしな」
「くっ……わたしの故郷を犯す、悪党たち……許せません! サナ、出動します!」
サナは、素早くいつもの丸眼鏡とベレー帽を身に着けると、ふんすと気合を入れる!
「……サナ、もしかして迷探偵コーナンドリルの真似? ごめん、正直似てない」
「辛辣な評価!?」
ばっさりと切り捨てるフィノに、のけぞるサナ。 ふふ、少し元気が出てきたようだ。
「よし、探偵出動は明日にして、今日はここで休むか」
「あ、でもわたし、ここでは一人暮らしだったので、寝具がひとり分しか……」
「心配するな、サナ。 オレがひとっ走りベルスで買ってきてやる。 転移ポートの登録も済んだしな」
「この家には大切な思い出も色々あるんだろう? もうここに住むことは無いかもだが、せっかくだから素材魔法で補強して、リフォームしてやろう!」
「リリ様……ふふ、本当にありがとうございます! お願いします!」
ぱっと輝くような笑顔を浮かべたサナに満足すると、オレはベルスの街に転移し、3人分の新しい寝具と、かわいいカーテン、クッションなどを大人買いし、サナの家をきれいに飾り付けた後、3人で仲良く眠りについたのだった。




