第31話 暗躍する組織とスラム少女編6(解決編) 新たな愛人を地平に刻め
モブ男こと、スミスとアルフは焦っていた。
先ほど、衣装屋の奴が送ってきた情報によると、ターゲットは店の直下に穴をあけ、迷宮に降りた様子。 地図が無くては、そこからどんなに急いでも1時間はかかるはず、その隙に更なるトラップを仕掛ける予定だったが……
「うおおおおお! 邪魔だあああ!」
ドゴォ!
先ほどから、女の絶叫と、おそらく迷宮の壁を破壊する音が、こちらに向かって直線的に近づいてくるのだ!
なんてデタラメな奴だ……だが、人質がいるこのエリアの、最後の壁をぶち抜くときには、わずかな隙ができるはずだ。
そこを、アイツが襲えば……
「おい! ターゲットが来たぞ! 仕事しろクソガキ! くっ、なんて速いんだ!?」
最悪、アイツが戦っている隙に逃げよう……モブ男達は、情けないことを考えていた。
*** ***
ふむ、ここだな。
オレは、サナが捕まっていると思われるエリアの隣まで来ていた。
精神を集中し、壁の向こうの気配を探る。
……正面に二人、側面に一人……オレの襲撃に備えているか? だが、どちらも雑魚だ……脅威ではない。
サナは……隙を見て逃げ出したのか? 左方向に移動している……。
好都合だ……まずは、正面からぶっ飛ばす!!
フィイイイイィィン……!
オレは、ドラゴン・ブレスのエネルギーを円柱状に成形すると、一気に正面の壁にたたきつけた!
*** ***
「「はいっ……?」」
モブ男こと、スミスとアルフは呆然としていた。
ターゲットは最後の壁を、ハンマーか何かで、慎重に崩しにかかるものだと思っていた。
動きが鈍った所を、あのガキが襲撃、おいしい所をオレ達が頂く……そう計画していたのに。
壁を溶かして入ってくるとか、聞いてないぞ……
フィイイイイィィン……!
モブ男達が最期に見たのは、黄金に輝く閃光と、そこに浮かび上がる少女のシルエットだった。
……ああ、さっき”下”までヤッておくんだった……
モブ男達の意識は、そこで途切れた。
*** ***
ゲス男達の姿が閃光に消えていく……リリって、こんなに強いの……?
とてもアタシじゃかなわない……でも、今はこちらに気づいていない様子……このタイミングで、ナイフに塗った毒で麻痺させれば……!
アタシは、恐怖に震える膝に、気合を入れると、隠れていた物陰から飛び出した! リリは、まだ気付いていない……もらった!
カキン……
「えっ」
アタシ的に、必殺のタイミングで放たれたナイフは、あっさりと弾かれた……
グルル……
リリの犬歯が揺れ、黄金に輝く瞳が、アタシを捉える……伝説のドラゴンに睨まれたように、体が硬直する。
大きく開いたリリの口元に、輝く光球が出現した……ああ、しくっちゃったなぁ……やっぱ、ご飯くれた人を裏切っちゃいけないなあ……ママ、ゴメン。
アタシが覚悟を決めた、その瞬間……!
「ダメですっ! リリ様!」
その場に飛び出してきたのは、逃げたはずのサナだった。
*** ***
壁ごと、目の前の敵を消滅させたオレは、ゆっくりと部屋に入る……サナは、見える範囲にはいないか? おそらく隣の部屋に逃げているんだろう……
カキン……
その時、オレの肌にナイフが当たった……ああ、そうだ……もう一人いやがったな……こんなナイフでオレの皮膚を傷つけようなんぞ、甘めぇんだよ!
いま、楽にしてやる……!
オレが、ドラゴンアーツを発動させた瞬間!
「ダメですっ! リリ様!」
ガキイイィィン!
オレのドラゴンアーツをブロックしたのは、サナの防御陣だった。
「その子はフィノちゃんです! リリ様、彼女には事情があるみたいです! 助けてあげましょうっ!」
…………はっ!? トランス状態になっていたオレは、リリの声を聞いて我に返る。
サナ! よかった、ケガはないようだ……そしてなんだその恰好は……悪くないが、足クサ剛毛痴女な下僕とか、ちょっと……
「なななっ!? 感動の再会シーンなのに、何いきなりディスってるんですか! この衣装は仕方なかったんですっ!」
「……って、そうじゃなくて、この子がフィノちゃんですっ」
…………フィノっ!? コイツが……? さっき吹き飛ばさなくてよかった……
いきなり、いつもの漫才を始めたオレ達を、尻もちをついたフィノが、ぽかんと見上げている。 ふむ、こんな表情は珍しいな……かわいい。
「フィノちゃん、なんか事情があるらしくって……もしかしたら、わたしの回復魔法が役に立つかも」
「ああ、それならもう把握している。 フィノ、お前の母親は、呼吸器系の流行り病にかかってるな? 安心しろ……サナの治癒魔法なら、一発だぞ」
「……う、うん……そうだけど……リリ、なんでアタシの家族構成を把握してるの……?」
まあそれは、たゆまぬ努力というヤツだ。
「そんなことより、オレと一夜を共にしてくれたら、お前の母親、バッチリ治療してやるぜ? お前の雇い主より、いい条件じゃねーか?」
チャンスと見たオレは、ばちーんとウィンクすると、フィノに提案する。
「……うん、了解……なんでもするよ……あ、でも、報酬はママを治してからね」
こくこく、とあっさり了承するフィノ。
「えっ!? カルい!?」
サナが驚いているが、これにて一件落着だ! 早速フィノの家に行こうか!
……おっと、その前に……落とし前をつける必要があったな。
*** ***
スラムの零細犯罪組織のボス、ルードは、組織の事務所でイライラしていた。
フィノとスミス達に依頼した、女冒険者の始末……経過報告も、完了報告も何もない。
だから、街のチンピラを使うのはイヤなのだ……報連相もできないポンコツが多い。
さらに、ルードが経営する”表”の衣装屋が破壊されたとの連絡があった……おそらく、ターゲットたちの仕業だ……
もし、始末に失敗していたら、ここに復讐に来るかもしれない……いったん隠れるべきか……しかし、それではボスとしての信頼が無くなる……
……おごっ……ドサッ……
ルードが逡巡していると、部屋の外から鈍い悲鳴と、なにかが倒れるような音が聞こえた。
「なんだ? 誰か来たのか?」
警備は何をしてやがる……ルードが毒づきながら椅子から立ち上がった瞬間……!
バコォ!
入り口のドアが吹き飛び、もうもうと埃が舞う中、黄色い女を先頭に、3人の女が入ってくる。
「な、貴様は……ターゲットの女冒険者と……フィノ!? 裏切りやがったのか!」
「ま、もともとイヤな”シゴト”だったし? よりいい報酬があるなら、乗り換えるよね」
「くっ……このクソガキ!」
ぶっ殺してやる! ルードは引き出しから魔導銃を取り出すと、フィノに向けて引き金を引いた……
「……え?」
ごとり……
引き金を引いたはずの右手は、肘から先が吹き飛び、床に落ちていた。
「……ルード・ゴッティだな? お前を、殺しに来たぜ……」
拳を返り血で真っ赤に染めた、金髪女が壮絶に微笑む……ルードの直感が語っていた……こいつはやばい奴だと。
「いやぁ、気を付けなよぉ……ガス漏れの不始末で、この建物が吹き飛ぶらしいぞ……事故ってことにしといてやるから、安心しな♪」
金髪女の手のひらから、爆炎魔法の炎が噴き出す。
「ま、まて! 金で解決しよう! 100万出すぞ、まずは落ち着け……!」
「そんなものは、いらねー。 オレの女に手を出した時点で、お前の人生は終わってたんだよ。 じゃあな、バイバイ」
次の瞬間、雑居ビルの5階が大爆発を起こし、ルードとその手下を、きれいさっぱり吹き飛ばした。
*** ***
ふう、怒りのあまりカッコつけちまったぜ……リリちゃん冷酷モードはどうだっただろうか?
ちなみに、血のりを拳に付けたのは演出である。 いつもは魔法できれいに吹き飛ばすのだが、ああいう場面では脅しも大切だよね。
「リリ様、あんなに怒ってくださって……サナ、サナ、感激です(てれてれ)」
サナが顔を真っ赤にして引っ付いてくるが、今日は許してやろう! 今夜は寝かさないぜ☆
「や、やっぱりあぶのーまる……」
意外にうぶなフィノが、顔を真っ赤にしていた。
*** ***
オレ達はフィノのアパートに移動すると、さっそく母親の病気をサナの治癒魔法で治す。
涙を流して抱き合うフィノと母親……いい光景だぜ。
さてと……このあとフィノと一夜を過ごすとしてだ……今後の事を考えると、サナのボディガードも必要だな……。
オレが単独行動することもあるだろうし……よし、決めた!
「おいフィノ、報酬としてこの後お前を頂く(直球)が、追加依頼もしたいんだが」
「ん、なに? アタシ、高いよ?」
にこにこしながら、ずうずうしいことを言うフィノ。
「オレがお前を鍛えてやるから、サナのボディガードになれ。 報酬は……そうだな……50万と、母親の働き先でどうだ?」
「え……安い…………って、50じゃなくて、50万!?」
目を剥いて驚きの声をあげるフィノ。
50万公国マルクとは、贅沢しなければ10年以上遊んで暮らせる金額だ。
「そのかわり、お前は全部、オレのものな……ああ、心配すんな。 リリちゃんホワイトだから」
「平常時は週休二日……母親の元へは転移魔法で送迎してやる」
「それに、母親の働き先だが、ユー二の温泉宿……オレ達がスポンサーとなっている宿屋があるんだが、そこで働けばいい」
おお! なんてホワイトな職場なんだ! ユー二の宿、客が増えて忙しいと言っていたからな……元気になったフィノの母親なら、適材だろう。
「えっ……マジ? そんな好条件で? なんか裏とかあるんじゃ?」
半信半疑なのか、疑いの視線を送ってくるフィノ。 ふん、甘いな。
「……オレの依頼は甘くねーぞ。 まず、フィノは愛人2号だから、オレ達の行き先の下見、偵察はお前がやる。 オレが呼んだら、すぐ来ること」
「オレがサナとサシで楽しみたいときは、空気を読んで席を外すこと……ボディガードだからな……東方の”シノビ”のようなものだ」
「だが、サナのボディーガードはしっかり務めてもらうぞ。 ミスするごとにお仕置き(意味深)だ」
「……マジで? ま、でも今のクソみたいな生活より全然マシだけど」
強がるフィノ。 ふふふ……まだあるぞ……戦慄するがいい。
「それと、今のフィノは全然レベルが足りない。 素質は良いモノがあるから、そうだな……いまからみっちり2週間、夜のトレーニングに励んでもらうぜ?」
「ああ、心配ない。 気持ちいいから……ここにいるサナだって……短い期間でレベルBからSになったんだ……フィノならできるよ」
すっ……オレは音もなくフィノの肩を抱くと、顔を近づけ、フィノの瞳をのぞき込む……ぽっ、と赤くなるフィノ。
「つーことで、今から第一回な。 サナ、よろしく!」
「……まさか、フィノちゃんのお母さんも一緒にですか? いよいよ、いよいよな性癖ですねリリ様……承知しました♪」
あきれ顔から一転、パッと笑顔でノリノリになったサナが、フィノと母親をベッドに押し倒す。
「えっ、えっ……私もなんですかー!?」
「ちょ、待ってリリ、サナ、アタシ、心の準備が……」
ボロアパートの一室に、2人の悲鳴(意味深)が響き渡った……
結果、2週間の導入研修により、フィノちゃんはレベルDからレベルAになりました。
リリ様ファンクラブ(ゴールド) 10→12人
リリ様ファンクラブ(ブロンズ) 321→321人
サナちゃんファンクラブ(ゴールド) 1→2人




