第30話 暗躍する組織とスラム少女編5 サナちゃん大ピンチ! 意外な助け舟
「……んっ……」
身体にまとわりつく、汚泥のような眠りから、わたしは目を覚まします。
なにか、ろくでもない夢を見ていた気がしますが、思い出せません。
「……あいたた……ここは?」
壁に灯された弱々しいランプの光が、辺りを頼りなく照らしています。
地面は石畳ですが、僅かに漂う下水の臭い……おそらく、街の地下の下水道の中でしょうか。
「……あつっ……これじゃ、動けない」
ご丁寧に、手枷、足枷、首輪まで使って、拘束されています。
なんという事でしょう……サナちゃん、ヒロインらしく、悪の組織に捕まってしまったようです。
気を付けていたのに、うかつでした…………ですがっ、これをきっかけに、さらに二人の愛が盛り上がること間違いなし!
わたしとリリ様の間では、多少の困難もスパイスにしかならないのです!!
「……おっ、こいつ、目覚めたのか。 わりーなお嬢ちゃん、アンタはターゲットをおびき出すための囮になってもらう」
わたしを誘拐した犯人でしょうか。 二人組の男が現れました。
いつも出てくるおっさんではなく、そこそこ若いです。 まあ、きょーみありませんが。
……って、リリ様をおびき出すための囮? この人たち、なんて身の程知らずなんでしょう……人生終わりましたね。 ご安全に!
「おい、スミス……コイツなんて格好してやがるんだ……ガキのくせに巨乳だし、痴女か?」
……え? あああぁ、いけません! さっきのお店の試着室で直接拉致されたせいで、いまだに”○貞を殺すセーター、胸I字バランスバージョン”を着たままでした!
奴らの言葉に、何一つ反論できません……
「へっ、悪くないじゃねーかアルフ……どうせコイツ、ルードさんの店に沈むんだろ? ちょっとばかしムラムラしてきたし、一発使わせてもらうか」
げ……えちえちサナちゃんに興奮したのか、モブBが、わたしに近づいてきます!
くっ……すでにリリ様その他と百戦錬磨なサナちゃんとはいえ、まだわたしは清らか?な処女なのです。
こんな奴に捧げるつもりはありませんが……困りました……手足を縛られているので、動けません……
「うげ、確かにエロイけどよ……獣人はパス。 臭いし……」
なななっ! モブAめ! なんて失礼なことを! コイツは後でチリ確定です。
……って、怒ってる場合ではありません! 興奮に目をぎらつかせたモブBの手が、わたしの身体に……
「……まって。 人質に手出しすることは、アタシが許さない」
「……えっ?」
絶体絶命ピンチなわたしを助けてくれたのは、最近わたし達に昼ご飯をたかっている、フィノちゃんでした。
「フィノちゃん……なんでこんな所に……?」
思わぬ人物の登場に、呆然とするわたし……フィノちゃんが、こんな悪事に手を染めているなんて……
「ごめん、サナ。 アタシ、ママのためにお金がいるの」
「でも、アナタに酷いことはさせないから」
フィノちゃんは、わたしをかばうように、男達の前に立ちます。
「ばーじん奪っちゃったら、商品価値下がるよ。 ルードさん、怒るんじゃない? もしどうしてもと言うなら、アタシを使って」
「おいおい、その貧相な身体で…………でもまあ、おまえの言う通りかもな。 しゃーない、お前で我慢してやるわ」
「”下”はダメ。 これは高く売るから。 ”上”ならいいよ。 50からね」
「……金取るのかよ」
「とーぜんでしょ」
はわわわ! アダルティな言葉とともに、わたしをかばったフィノちゃんは、男達と別の部屋に消えていきました。
いけません! R-18です! あんなかわいい女の子が、こんなひどい目に合うなんて、間違ってます!
この事件が解決したら、絶対助けます!
わたしがひそかに決意していると、フィノちゃんと、すっきりした顔の男達が戻ってきました。
かわいそうに、乱暴にされたのか、口の端が切れ、僅かに血がにじんでいます。
しかも、男達の体液が髪に……ひどいです。
男達は、見張ってろと言い残すと、外に出て行ってしまいました。
「フィノちゃん、なんで……」
わたしは、酷い顔になってるフィノちゃんに、思わず手を伸ばそうとします。
「……ごめん、これはアタシの自己満足。 ちっぽけな罪滅ぼし」
「恨むなら恨んで。 アタシ、これからリリとサナに酷いことをしちゃうから」
「でもっ! なんでそこまで……うう、せめてその傷、治療させて」
パアァ……
わたしは、手足を縛られていても使える、初級回復魔法をフィノちゃんに掛けます。
「……え、これは……回復魔法? サナ、プリーストだったの……?」
「……もしかして、これならアタシの……」
フィノちゃんが何か言いかけたとき、外から男達の大声がしました。
「おい! ターゲットが来たぞ! 仕事しろクソガキ! くっ、なんて速いんだ!?」
フィノちゃんは、はっとすると、腰に差したナイフを抜きます。
毒が塗ってあるのか、怪しく光るナイフ。
「ごめん、アタシ行かなきゃ」
「……コレ、慌てたアタシが落としたという事にしていいから」
フィノちゃんは、”シゴト”の顔になり、わたしのそばに一本のカギを置くと、部屋を飛び出して行ってしまいました。
いけません! おそらく今、リリ様は怒り狂ってるはずです。 あのまま行けば、不幸なことになります。
なんとか、しないと!
わたしはフィノちゃんが置いていった鍵で手枷、足枷を外すと、フィノちゃんを追いかけました。
*** ***
タッ……
店の床を、ドラゴンアーツで一気にくり抜き、オレは地下迷宮に降り立つ。
古代に作られた物らしく、石壁の装飾は凝って作られており、見渡す限り、複雑な迷宮が広がっている。
だが、今はそんなことはどうでもいい! サナは、どこだ?
……ドラゴン・ノーズと、ドラゴン・イヤーを全開にすると、下水に交じって、わずかにサナの匂いと声を感じた。
「ここから、南東におよそ500メートル……普通に歩いていくと、1時間はかかるか……だが!」
オレは、壁の素材がしっかりしていることを確認すると、ドラゴンの力を解放する!
目は金色に輝き、輝く尻尾、光の羽根が出現する。
まとったオーラを拳に集中、迷宮全体を崩壊させないように、慎重に出力を調整すると、オレは思いっきり壁をぶん殴った。
バコン!!
半円形に、半径2メートルほどの大穴が開く。
オレは、迷宮の最短距離を突っ切って進む。
「待ってろよ、サナ!」




