第27話 暗躍する組織とスラム少女編2 多重下請構造の悲劇と、少女の決意
公国某所
公国最大の非合法組織である、”ヴァイナー・コミッション”の拠点の一つ。
地方支部のボスであるルチアーニは、最近現れた”障害”への対処に、頭を痛めていた。
彼ら”ルチアーニ・マフィア”は、もともと地域のマフィアであったが、帝国……現在の公国が10年前のクーデターにより帝政となった。昨年宰相が失脚し、公国に戻っている……に反発した貴族連合が資金提供を行い、全国的な犯罪組織となった。
貴族連合が目的を達成した現在でも、貴族連合内の勢力争いの影響もあり、資金提供は続いている。
ルチアーニにとっては、そのような上流階級の勢力争いなど、どうでもよい事であり、目下の懸念は自分の支配地域における問題点への対処だった。
ルチアーニの組織は、もともと公国北部で魔導麻薬の生成と販売を行っていた。
組織を拡大する中で、”ヴァイナー・コミッション”の主力産業である、奴隷販売や売春宿の運営にも進出したのであるが、そっち系の奴らは、卑劣で小汚い連中が多く、華麗に犯罪を行うルチアーニの美学に反するのだが、大きな組織の一員となった現在、文句を言うことは許されない。
話がそれてしまったが、数か月前より、ルチアーニの組織が行う非合法活動を邪魔する存在がいるのだ。
まず、ルーヴィン村の娼婦調達組織の壊滅……省コストでうまく回っており、今後の成長が期待されたが、あっさりと潰されてしまった。
次に、リーベで進めていた、ヨーゼフ家の乗っ取り……こちら、10年以上の準備期間をかけ、あと少しで……という所で、たくらみがバレ、阻止されてしまった。
この2つの案件で被った損失は、数千万公国マルクに及ぶ。
ルチアーニの組織にとっては、そこまで大きな損失ではないが、障害の芽は早めに摘んでおくべきだ……どうやら、凄腕の冒険者で、女の二人組らしいが……情報によれば、ふたりは情愛を結んでいるらしい。
なら、対処するのは簡単だ。 ルチアーニは、魔導通信端末を取り出すと、配下の組織に対処を命じるのだった。
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「ふあああっ……ねみぃ」
ベルスに滞在して数日。 高級ホテルに滞在してるオレ達は、ダラダラしていた。
「ふふ、久しぶりに何もせず、のんびりしてますもんね」
「失礼な! クール系無表情ロリを攻略する為に戦略を練っているのだ!」
そう、銀髪ダウナー美少女であるフィノを落とすため、オレは色々と頑張っているのだ。
あの後、何度か会い、そのたびに飯をおごっているのだが、フィノの奴、なかなか心を許してくれない。 意外に頑なな奴だ。
だが、あの手この手で攻略する楽しみ、これは最高のゲームと言えるのではないだろうか!
「と、いうことで! 今日はこのリリちゃん・ノーズを使って、フィノのアジトを突き止めようと思う!」
「サナも、今日は自由行動でいいぞ! 夕方また落ち合おう」
「はい、承知しました、リリ様。 わたしもせっかくなので、服を買いに行こうと思います」
「萌えるやつで!」
「ふふっ、萌えるやつですね」
オレは、準備を整えると、フィノを尾行する為に外出した。
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”ルチアーニ・マフィア”の下請け組織、ポンコ興業のボスは困っていた。
上から降りてきた今回の依頼、”女二人組の冒険者を始末しろ”が、大変めんどくさそうなのである。
標的の特徴や滞在場所の情報は的確で、それはいいのだが、”Aクラス冒険者”というのが困る。
そのクラスの冒険者を暗殺しようと思ったら、Sクラスの暗殺者を雇う必要があるではないか……それは、”ルチアーニ・マフィア”から支給された経費では難しい……
現場を知らない経理部長め! 上位組織の発注担当を呪ってみても、動き出した案件は止まらない……もうめんどくさい。外注に頼もう。
どうせ、無理な案件なんだ……失敗しても知ったことか! ポンコ興業のボスは中間マージンを取ったうえで、孫請け組織に丸投げすることにした。
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「くそったれ……何だこのめんどくせぇ仕事は……」
スラムの零細犯罪組織のボス、ルード・ゴッティは困り果てていた。
彼は、ベルス3番街のスラムで、ささやかな犯罪組織を運営している。
スリの元締め、風俗店の経営などを地道に続け、ようやく上位組織に対する存在感を出せてきたところだ。
そんな折、上位組織から丸投げされた今回の案件が、”Cクラス冒険者の暗殺”である。
現在、ベルス3番街の高級ホテルに滞在していて、女二人組、そこそこの腕の魔導士だと、依頼指示書に書かれている。
表舞台から消せば、殺すなり売り払うなりしてOKと言われているが……
「なんだこの安い依頼料は! 子供のお使いじゃねーんだぞ!」
多重下請け構造の悲劇。 依頼が複数の組織を経由することで、通常の暗殺案件の半額近くまで下がっている。
……ちなみに、暗殺対象のクラス表記が下がっているのは、見積もりを下げさせるための修正である。 費用を抑えなきゃいけないから、しかたないね。
実績作りのためには受けるしかないのだが……写真を見る限り、ターゲットはなかなかの美少女だ。 俺の店に放り込み、損失補填をさせるしかないか……
やけにせせこましい計算をしながら、ルードは実行役の選定に頭を悩ませていた。
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「ママ、体調は大丈夫? いい食べ物が手に入ったよ」
「けほっ……いつもありがとうね、フィノ。 今日は体が楽だわ」
「ん……それはなにより」
ここは、スラムの片隅。 小汚い、いまにも崩れそうなアパートの2階。 そこにフィノは、母親と二人で住んでいた。
彼女の母親は体が弱く、効果の高い薬や、魔導治療を受けさせるには、とてもお金が足りない……というか、ふたりで食べていくだけで精いっぱいだ。
フィノは、食堂の小間使いや、旅行者からのスリで生計を立てていたが、スリ行為はこのあたりのボスであるルードに、みかじめ料を払う必要があり、思ったような稼ぎにならない。
やはり、この身体を売って、まとまったお金を作るしかない……なるべく高く売るためには、一番需要の高いタイミングで、それも金持ち相手に……そのためには、栄養が足りなくとも、お肌の手入れは大切である。
フィノは、計算高くも冷静な少女だった。
こんこん……こんこんこん
その時、部屋のドアがノックされる……これは、ルードの組織で使っている符丁だ。
フィノは母親に食事を渡し、ベッドに寝かせると、符丁に返事を返し、廊下に出る。
「……なに?」
廊下に出ると、待っていたのはメッセンジャーの少年。
「へっ……ルードさんより”シゴト”の依頼だ……なんか危ない案件らしいけど、稼ぎよさそうだから、成功したら俺にも飯おごってくれよ」
「やだ」
「ちっ、この銀髪女……ケチなこって」
舌打ちし、建物を出ていく少年を無視し、フィノは依頼書に目を走らせる。
「Dクラス冒険者二人組の始末……誘拐担当が相方を拉致……街の地下迷宮に誘い込み、実行役のアタシが始末……雑な計画だね」
Dクラス冒険者……ひそかにこういうシゴトもあるかも、と鍛えてきたが……これなら対処できる範囲だろうか。
危険はある……が、報酬の1万公国マルクは魅力的である。 フィノの平均月収の1年分……これなら、母親に魔導治療を受けさせることが可能かもしれない。
自分の身体が高く売れるまで、母親の体調が持つ保証もないのだ……フィノはこの依頼に賭ける覚悟を固めていた。




