第26話 暗躍する組織とスラム少女編1 動き出す敵
「ふああ……大都会ですねぇ……」
サナが驚いているが、無理もない。
ここは、公国第3の都市、北部州の州都ベルス。
人口は50万を超える、大陸でも指折りの都市だ。
オレ達がなんでここにやってきたかというと……
*** ***
「サナの故郷ってベルスの近くなのか?」
「はい、正確には、ベルスの西に広がる、エメル大渓谷をずーっと奥まで行った先の、超辺境にあるんですが……」
10日ほど前、温泉でのささやかな事件の後、次の目的地を決めかねていた時に、サナが教えてくれた。
「サナの故郷かー……以前からちょくちょく話は聞いてるけど、どんな世紀末村か、興味あるんだよな―」
「リリ様、失礼です! そんなに世紀末じゃありませんよ! ちょーっと、他の村よりビッチとヤク中とヤンキーと犯罪者が多くて、毎日心温まる暴力事件が起きるくらいの、普通の村ですっ!」
……なんか以前よりひどくなってないか? どんな場所なんだ……
「お、おう……それで、サナはやっぱり故郷に未練があるのか?」
いくらロクでもない思い出がある場所と言っても、故郷は懐かしくなるものなんだな……オレの故郷、二千年くらい帰ってないけど、今どうなってるだろうか……おもわず、遠い目になる。
「えっ? 未練ですか? 全くこれっぽっちもないですよ? わたし、リリ様の下僕になれて、大変幸せなんです」
オレのさりげない気配りに、何を言ってるんですか、とばかりに目をぱちくりさせるサナ。
「……ただ、幼馴染で、仲の良い娘がいるので、今どうしてるかなーって思っただけです」
「ふむ……そしたら、次の目的地はそこにするか!」
「いえ、そこまでして頂かなくても……わたし達にはリリ様ファンクラブを世界に広げるという使命が……」
「……いつの間にそんな使命が出来たんだ?」
「気にしなくていーよ。 ダダの気まぐれだって」
「……はあ、リリ様がそういわれるなら……」
サナの故郷は、今のうちに色々と浄化しておいた方が、世の中の為になる気がするんだ……
*** ***
という事で、サナの故郷に向かう途中、色々と準備する為にベルスの街に寄ったというわけだ。
この街は、大きく5つの街区に分かれており、それぞれが行政、商業、学問、軍事など固有の役割を担っている。
だだ、これだけ街が大きいと、上流階級のアーバンロリを狙うのも、きっかけを作るのが難しいと思うんだよなー。
やはり、学校? 学校をターゲットにすべきか……? サナの故郷から戻ってくるまでには考えておかねばなるまい……
オレは、思案しながら街のゲートウェイである、商業区を歩く。
……おっと
ドン……
「あっ、ごめんね」
その時、人がオレとサナにぶつかってきた。
いかんな、相手に害意を感じなかったとはいえ、こうもやすやす接近を許すとは……色ボケするのも、大概にしておこう。
ぶつかってきたのは、頭からすっぽりとフードをかぶった、小柄な子供。
身体に感じた感触からすると、もしかして女の子か? かわいいといいな……
「リリ様、舌の根舌の根」
おっと、サナに突っ込まれてしまった…………んん?
その時、オレのスーパードラゴン・アイは、フードの下から素早く伸びた子供の手が、サナの財布をスるのを、見てしまった。
「へっ、そうはいくかよ、現行犯だな!」
「えっ? リリ様!?」
ぐいっ!
オレは、スリの手首をつかみ、背中側にひねり上げると、一気に地面に押し倒す!
どさっ……
ふん、相手が女の二人組だと思って油断したな! こんなの、オレにとっては争いにすらならない。
女の子の可能性もあるから、怪我しないように手加減したが、男だったら腕の一本、貰ってるぜ?
「痛い……暴力反対」
フードから、はらりと美しい銀髪がこぼれる。
やけに冷静な声で抗議してきたのは、12~13歳くらいの少女だった。
へえ、悪くないじゃん! チャンス、到来だぜ!
*** ***
往来で騒ぎになり、公国警察が来てもめんどくさいので、オレ達はスリの少女を捕まえたまま、手近な食堂に移動した。
「警察に突き出すの? それ、困る」
相変わらず銀髪少女は、無表情のまま、ちっとも困ってない調子で抗議してくる。
よく見れば、美しい銀髪はぼさぼさであり、栄養状態は良くなさそうだ。
ただそれでも、しなやかな手足と透き通った大きな琥珀色の瞳を持つ、美少女である。
大変良い。
「むー、わたしの財布をすったくせに、態度デカいですっ!」
財布をスられたサナはプリプリしているが、都会で隙を見せるからだ。 まだまだ甘いな。
さて、こういう無表情ダウナー系は、餌付けをすると懐くのだ。
リリ様女の子攻略ページ、第2章7項に載っているから、みんな覚えとくんだぜ?
オレは、自分たちと銀髪少女分の日替わり定食を注文する。
「ん……これ、食べていいの?」
「ああ、おまえが自分の事を教えてくれたらな……!」
「んん…………ぐう」
ぱくぱく
少女は、差し出された食事に、疑いの視線をオレ達に送っていたが、空腹と、こぼれるヨダレには勝てなかったのか、ガツガツと日替わり定食をがっつきだす。
ふふ、ちょろいもんだぜ……おっと、これはリリ様が超絶カワイイ美少女だから許されること……おっさんがやると通報されるから、気を付けるように。
「ん……アタシ、フィノ。 この街のスラムに住んでる。 いっぱいお金がいるの……大変。 だから、お金ちょーだい。 ぱくぱく」
遠慮なしに食事をパクつきつつ、ずうずうしいお願いをしてくるフィノ。
なるほど、名前は教えてくれたが、詳しい自分の事情は教えないか……コイツ、ただのスラム少女じゃねーな。
先ほどのスリの手口と言い、それなりに修羅場をくぐってると見た。
「……うっ」
ちらりとサナに視線をやると、自分の幼少期を思い出したのか、同情してしまい、少女を追求できなくなっているようだ。
おもわず、優しくサナを撫でるオレ。 へへ……とヘブン状態になるサナ。
あぶのーまる……とフィノがつぶやいているが、ほっとけ! 愛人一号との絆は深いのである。
ま、大体の事情は分かったぜ……ある程度資金援助してやれば、オレのファンクラブ(意味深)に加えるのもたやすいな……ふむ
「そんなに金が要るなら、このナイトキティ、リリ様が、援助してやるぜ? オレと一夜を共にしてくれたらな! 後悔させないぜ?」
「……なんとゆーか、そのフレーズ、本当に気に入ったんですね……そして、その愛らしい姿から繰り出される、春買人のセリフ! 驚愕です」
とりあえずモーション掛けとくか……ばちーんとウィンクと共に繰り出されたオレの誘いに、フィノはしかし、拒否の意思を示す。
「……それはダメ。 もっと高く売れる相手に売るから。 食べてる定食の値段的に、キミ達あまり金持ってなさそうだし」
「ん……でもごはん、ありがとう。 またおごってね。 ばいばい」
フィノは瞬く間に定食を平らげると、失礼なことを言い、風のようにいなくなってしまった。
「……リリ様、かわいそうな子ではありましたが、すごく失礼でしたね……捕まえなくてよかったんですか?」
「ふふん、一度餌付けしたんだ……あいつはまたオレ達の前に現れるさ……ああいうクール系を落として乱れさせる……楽しみだな!」
「……だから、その愛らしい顔で、ゲスイことを言わないでください……」
うん、この街でも楽しみが出来たじゃないか!
オレは、フィノとの再会を楽しみに、今宵の宿を探すために店を出るのであった。




