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“自称”勇者と道連れの旅  作者: 針狸


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41.聖都フォートレス2/スナッチ

 ここは鉄格子の中。俺の自慢の鎧と武器は、牢屋に入る時に取り上げられてしまった。ルートリアとヤークの剣も一緒に持っていかれた。俺たちは丸腰で牢屋に入れられた、というわけだ。


「これ、すぐ出られるのか?」

「クラリス次第だろうな」


 今回の俺たちは、ルートリアが勇者を騙ったわけではなく、クラリスを奴隷として連れていたために捕まった様子だった。クラリスの旅の目的がここフォートレスだとは知っていたが、その内容は妹に会いに来たという程度にしか聞いていない。偉そうな爺さんからクラリス様なんて呼ばれるようなもっと偉いやつだなんてひとつも知らなかった。

 誰だって話したくないことはあるだろうから詳しくは聞かなかったけど、こんなことになるなら聞いておけばよかった。


「とはいえ、クラリスに頼らない可能性も考えておかないとな」


 ヤークはドライだなあ。そうは言うけど、ここは大きな神殿の中、脱出しようにも武器防具は取られて丸腰だ。俺は魔法は使えないし、鎧がなくたってルートリアほど素早くはなれない。ただひたすらに逃げるっていうのはどうしたって無理だろう。

 そしてそのルートリアはさっきから黙りこくっている。

 

「……元々、クラリスもリリムも最後まで連れていけたかわかったもんじゃなかったろ」


 俺の言葉にゆっくりと振り向いたルートリアの目は揺れていた。俺たちは奴隷として2人を買った。奴隷という立場のせいで非道に思えるが、やっていることは本物の勇者サマと一緒で、金で仲間を雇っただけだ。じゃあ何が違うのかっていうと、金以外は何も与えてやれないことだ。

 地位だの名誉だの、つらく苦しい旅に見合う報酬がない。

 だから旅の目的を持っている俺たちと、金で買われた2人では、旅の温度に微妙な差があった。戦ってもらわないと買った意味がないとはいえ、本人たちの希望もあって戦闘には立たせていた。しかし、なるべく2人がつらい目に合わないように振る舞う必要があった。これからまだ旅は過酷になる。守りきれず、2人がもっと苦しい場面になれば離脱は避けられないのではないか、と。

 つらい時、苦しい時、悲しい時、目標は支えにもなる。


「それでも……」


 ルートリアは何かを言いかけて黙った。

 ルートリアは明確に2人を気に入っていた。俺だってそうだ。おそらくルートリアはまだ覚悟がなかったんだろう。普段腕輪をつけていた場所を何度も見ていた。

 やるせない気持ちでルートリアの横顔を眺めていると、部屋の扉が重い音を立てて開いた。数人の護衛を伴った小柄の老人がゆっくりと歩み寄ってきた。俺たちをここへ連れてきた老人とは違い、小さくとも筋肉がありひと目でドワーフだとわかる。

 老人は牢をひとつひとつ丁寧に見回り始めた。目が悪いのか、牢の中の人を一人ずつ目を細めて確認している。俺たちの他にも捕まっていたやつらが、突然騒ぎはじめた。


「ちょっとあんた! バルを返しなさいよ!」

「そうよ! うちの勇者に変なことしてたら許さないんだから!」


 ……勇者ぁ?

 思わず牢の外を覗こうとするが、壁があって姿は見えない。女の声ばかりで、前に会ったマリンベルの勇者の仲間ではないようだ。ということは、もう一つの国から出てきた勇者か、そいつもまた偽物か。


「悪いようにはしとらんよ。勇者だというから、特別にもてなしておるだけじゃ」


 特別にもてなしている、ね。仲間を牢屋に入れておいて、その上での特別って一体何をされているんだか。同じことを考えたのか、ルートリアとヤークの顔も呆れている。老人は俺たちの牢の前にくると、ルートリアを見て首を傾げた。


「お主かの。呪われておるのは」

「そうらしいね」


 既に捕まっているからか、ルートリアは老人の問いに素直に頷いた。俺はルートリアがこの街の門番にそう言われていたことをすっかり忘れていた。やっぱり、ルートリアがノルト神殿で魔力過剰とやらで倒れたのが原因だろうか。3人はルートリアを心配していたが、身体的には普段通りだった。俺は魔力がどうとかは何もわからないが、ルートリア自身が元気そうにしていたからそれを信じていた。


「自覚なさそうじゃの、どれ」


 老人はジャラジャラと細長い鉱石のついた束を取り出すと、数本ずつルートリアの手に触れさせた。違うのう違うのうと呟く声を聞いていたが、ついにはどれも光らなかった。ヤーク先生が耳打ちしてくれたが、あれは呪いを調べるものらしい。漏れ出る魔力に反応してうんぬんかんぬん。俺に説明されてもわからないんだが、今は話を聞いてやれるのは俺しかいない。それにルートリアの身体のことなら理解できなくても聞いておきたかった。


「でも弾いたんじゃよなあ、抵抗した感じの弾き方じゃなかったと言っておったしのう」


 この老人は、俺たちを調べた門番から話を聞いて来てくれたってことか。ちょっと親切すぎる兄ちゃんだったな。ありがたいっちゃありがたいんだが、あの兄ちゃんがおせっかいでなければ俺たちは今頃この牢屋にはいなかったかもしれない。複雑な気持ちだ。


「いやまさか、ないとは思うんじゃが……」


 老人は呟きながら、懐からまた別の鉱石を取り出した。それは見たことがある色だった。深い蒼色の鉱石が、ルートリアの手に触れて光りだす。その色はルートリアの瞳の色、勇者の紋章と同じ色だった。

 驚いた老人は目を見開いてルートリアの顔を見た。

 

「……お主は何者じゃ? いや、いい、答えんでいい……」


 騙ろうと口を開いたルートリアを、先に制して頷く老人。俺は勇者を騙っていることがバレたのかと身構えたが、そもそも俺たちは自分たちで紋章を持っているとは言っていない。ただ相手の持っている紋章が光っているだけだ。何の罪を言われても言いがかりだと文句を言うしかない。

 俺の緊張をよそに、老人はむしろ相好を崩した。


「うむ、そうじゃな。お主には、先に捕らえた勇者と同じ待遇をしておこう」


 老人は傍に控えていた衛兵に指示すると、俺たちの牢屋の扉を開いた。今脱走するか、ルートリアに目配せをしたが、ルートリアは首を横に振った。勘違いした老人が俺に笑いかける。


「ファハハ、悪いようにはせんから安心せい。お主らも、3食出るよう計らっておる。ちょっと狭いが今しばらく我慢しておくれ」


 なら、いつかは出れるのか。まあそりゃそうだ、俺たちは何も悪いことをしていない。

 ルートリアは牢屋から出されたが、手錠のせいか少しよろけたようだ。開けてくれた衛兵に支えてもらったから転倒まではしなかった。


(あ、やったな)


 ルートリアたちが部屋から出る前に、俺の身体を目掛けて何かが飛んできた。見つからないように、音が立たないように、サッと受け取りしまい込む。

 見なくてもわかる。鍵だ。


「……お前たち」

「何も言うな」


 角度的に見えたのだろう、ヤークが呆れている。ルートリアも手錠がある状態でよくやるぜ。衛兵から鍵をスって俺の方へ託したのだ。

 老人は俺たちがいつか出れるような言い方をしていたが、それがいつかはわからない。それにどうせ口ではなんとでも言える。俺たちが反抗しないようにそう言ったのかもしれない。

 向こうで騒いでいた自称勇者の女たちには聞こえないように、ヤークとひそひそと話し合う。

 

「使うのか?」

「いや、でもこれでいつでもここを出ることができる。余裕ができたな」

「内部の状況次第か。わかりやすく混乱でもあれば、というところだな。ふむ、であれば今我々ができることは、大人しく待つことか」


 それでいい。とはいえ、俺たち2人じゃ暇だな。ヤーク先生の魔法授業は俺にはわからない。それに話を続けて他の牢屋にいるやつに変に話を聞かれても嫌だ。ヤークと目を合わせて頷きあう。この狭い牢屋の中で俺たちができること、それは。


 身体を鍛えることだ!!

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