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“自称”勇者と道連れの旅  作者: 針狸
逃亡生活編

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29/62

29.魔法と命1

 乾燥が進み、あまり口を開いていると砂埃が舌に張り付いてくる。ひどいときは喉に張りつき咳き込む。


「ひでぇ地域」

「勇者も通ればいいのに」

「厳しい環境に身を置く……のが本来だけど過保護だよな」


 マリンベルの勇者を避けつつルートをあまり外れないように移動しようとすると、並行移動になる。そうなれば私たちの通るルートはなかなかに過酷だった。道というよりは平坦な砂地をもくもくと歩いてきた。


「今の村を越えると歓楽街」

「そこは勇者ルートだろ。マリンベルのと遭遇しちゃうんじゃないか?」

「最大限警戒するしかない。その先は雪山か海を選択しないといけないからそこで休憩しとかないと生死に関わると思う」

「今度はリリムとクラリスだけじゃなくて全員顔を変えるか?」


 だらりだらりと会話しながら村を出る。もう一度戻ってくるけれど、これから行くのは薄暗い洞窟だ。非常に小さな村で自警団も居らず、狩人が小さな魔物を狩る程度の強さしか持たない。強い魔物が出れば、誰かが走って一番近い街に助けを求めに行く。ただ、今の時期は乾燥が特に強く農作物もたくさん取れないらしく依頼するお金もないのだとか。


「最近もう設定考えるのが面倒で武者修行で全てを押し通しているよな」

「金での報酬はまあ魔物の素材を売って手に入る分で事足りるし、何か強くなれそうな報酬を探しておいて、とは村の人に言ってあるけど」

「俺たちは飯と服で贅沢しないからな」

「服はもう少し贅沢したほうがいいと思うけど」

「おぉ……リリムが贅沢したがっている」

「わ、私じゃなくて……、君たちの装備が不安すぎるんだよ」


 言われて自分の服を見る。鎖帷子を仕込んでいるとはいえ、スナッチのような斧で切られればひとたまりもないだろう。私の強さは素早さだ。スナッチとクラリスにヤーク。この3人が筋力で押し切れる腕をしているせいで素早い動物への攻撃が遅れる。私が速さを補っていることでバランスは取れているのだけれど、万が一当たったときのことを考えているんだろうか。


「リリムももうちょっと分厚いほうがいいかな」

「私は後衛だから別に……」

「この間コウモリ系の魔物を弓で直接殴ったのを見たときはお腹を抱えて笑いました」

「忘れて?」


 守ってはみせるけど、一人でも強くなってもらおうと思うと打たれ強くなってもらうために鎧も要るかな?

 近寄ってきたコウモリに混乱して矢ではなく弓で叩き落していたので弓に刃でもつけてもらうほうがいいかもしれない。


「ヤークは魔法耐性が強い布地なんだよね」

「うむ。ただ魔法耐性の強い板金だってあるからな。そう思うとスナッチのようなプレートアーマーが一番安全な気もする」

「出たよ重装最強説」

「はっはっはっ! 敬え敬え!」

「攻撃が当たらないと意味がないけどな」


 軽いアーマーもあるらしいけれど、それはさすがに手が出ない。それはもうお高いのだ。整備するにも魔法部分にお金がかかるし、費用を考えるととてもじゃないけれど運用できない。たまたまお宝のように手に入れられたら売ってラッキーぐらいの代物だ。いや、待てよ? アクセサリを作ったというなら魔法の維持はお金を払わなくてもヤークができるのでは?


「ヤーク先生って魔法装備の整備もできる?」

「可能ではある。時間はかかるし面倒だがな」


 よし、見つけたら売らずに取っておこう。


「物理耐性の魔法が付与された自然に魔法耐性のある軽い布地があれば私としては一番いいんだけどな。さて、今日の獲物はどちらが効くのか」

「村の話では大きな魔物だって言っていたな」


 獣かゴーレムか。悪魔系のものはまだこの辺りでは出ないだろう。魔王に近ければ近いほど、魔物は強くなっていく。村はなくなり強固な街だけしか休憩できるポイントがない。休めるうちに戦わなくては。あれ、言ってることおかしいな?


「次の角に5匹の、4足歩行の足音」


 リリムの静かな声に全員武器を構える。リリムと私がクラリスを確認した。クラリスの視線はリリムじゃなくて私に向いた。了解、矢じゃなくて単身飛び込んで奇襲をかける。

 角でぶつかる瞬間に高く跳びあがり、上から一体の胴体を剣で地面に縫い付ける。残りの4体が慌ててこちらへ襲いかかってくるのをリリムの矢で牽制。それからやっと到着したスナッチがひきつけて暴れる。後はヤークと私でトドメを刺す。


「怪我はないな?」

「問題なし」

「ウルフ程度の噛み付きじゃびくともしないぜ!」

「鎧のおかげだね」

「その鎧を着こなせる俺が凄いんだ」

「はいはい」


 隣の芝生はなんとやら。私には羨ましいパワーだけれど、稀にスナッチが私の素早さを羨んでいることを知っている。


「それにしてもリリムの耳は4足歩行の獣を越えたか」

「地獄耳を極めたなあ」

「凄い地獄耳だ」

「ひ、人聞きの悪い言い方をしないでよ! どうして君たちはそう私のやることなすこと悪い風に言い直すかな……」


 実際、凄いものである。元々素質のあった風魔法と水魔法はヤークの手引きでぐんぐん成長し、今はきちんと矢を構えると同時に風魔法を発動できる。そして良すぎる耳に対して日常的に風魔法を駆使していたからか、遮音だけではなく集音にも特化するようになった。必要な音だけを聴いて、後は和らげる。旅の始めは耳の良さから人と話すだけで眉間に皺を寄せることもあったけれど最近はずっと穏やかになった。魔物との戦闘においてはかなりの確率で先制を取れるので優位に立てる。


「もう落ち込まないよね」

「?」


 みんなと会って嬉しいことばかりだ。笑いかけても誰も驚かなくなった。


「欲しい素材は剥ぎ取ったけど、後は他の魔物を寄せ付けてしまうから燃やしていいか」

「頼むよ」


 あの戦い以降、ヤークは剣を扱うことを嫌がらなくなった。古馴染みに負けたことではなく、一人だけ気を失ったことが後悔なのだと言う。


「いいなあ……、やっぱりヤークが好きだなあ」

「突然口説くな気持ちが悪い。言っておくけどこの魔物は食べる部分なんてないからな」


 別に食べたかったわけじゃないよ……。彼女の妙なこだわりが、私の気を良い場所に引っ張ってくれる。結局のところヤークは誰と一緒に居ても変わらないのだ。なにせ彼女は自分自身を高めることにしか興味がない。悪く言えば彼女自身を除いて平等だ。平等であるがゆえに面倒見が良く、優しくはない。だからこそとにかく生きるため楽しむため周りを守ろうとするクラリスと反発する。求めるものが違うからか能力も真逆で考え方も違う、似ているのは真面目で怒りっぽいところぐらいだろうか。

 順調に進んでいくと、何かの咆哮が聞こえてきた。いや、咆哮に似た何かだろうか。今のリリムは、耳に器用に魔法をかけているらしく平然としている。


「ゴーレム、かな。今のは重たいものが無理に動いて擦れる音だと思う」

「ヤーク大丈夫?」

「どういう意味だ?」


 最初に名前も存在も知らずに出会ったときを思い出すなあ。土の魔物は洞窟内に精製されやすい、らしい。鉱山で作られたあの魔物は様々な鉱石が入り混じり切りつけるだけで火花が散り爆発に繋がるようだった。その代わり水がしみこみやすかったので私とリリムだけでも倒せた。


「もろければいいなあ」

「最悪の場合はスナッチとクラリスの二人で頑張ってもらうしかないな」


 大振りの男二人でガツンガツン削るしかないのか……。いや、土魔法って効くのか? そういえばゴーレムを操る魔術師も居るという。なら、土魔法でそもそも材質を変えれば? そこまではできないか、でも形は変えられるのでは?


「クラリス」

「ん?」


 耳打ちしようにもクラリスの背は低い。そのうえどうせ今のリリムには聞かれてしまう。常識人であるヤークとスナッチには聞こえないように小さく話しかける。


「戦闘が始まったらお願いがあるんだけど」

「嫌な予感しかないな」


 ひそひそと土魔法を使うようにお願いしてみると、すごく嫌そうな顔をされた。リリムも隣で引いている。


「生きる為にしょうがないからやってやってもいいけど、倫理的にどうかと思う」

「えっ」

「人ってほとんど水だよねって言ってるようなものだね」

「リリムは怖いこと言うなあ」

「ル……、君が言ったのもそういうことだよ」


 リリムが私に水魔法を使ったら何ができるんだろう。怖いけれどヤークに聞いてみようか。


「もうすぐだよ」


 ……後にしよう。まずはゴーレムを倒してからだ。

 この判断を後悔することになる。疑問は先に聞いておくべきだった。

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