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“自称”勇者と道連れの旅  作者: 針狸


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28.閑話 ヤークとリリム

 学校のこと、モモのこと。

 全て話した後でルートリアはとても穏やかに笑った。


『ありがとう』


 彼女はやっぱり意識しなければちゃんと笑えるんだなと思う反面、お礼の意味を考える。旅についてきてくれて、自分たちを選んでくれてありがとう、ということなのだろうがそれにしたって礼の気持ちが重い。スナッチがそういうあいつを見るたびにつらそうにしているのも気にかかる。


「ヤーク、次こっちお願い」

「ん」


 薬は底を尽きていた。だから乾燥させて持ち運んでいた薬草で調合をしているリリムを手伝っていた。本来ならここに座っているのはルートリアのはずだが、今日はその様子がない。リリムも何も言わない。

 私は倒れてしまっていたから知らなかったが、ルートリアは血の消耗が激しかったらしい。私は外傷が酷く身の内に籠もる熱で倒れてしまったようで、回復魔法ですんなり治ってしまった。それでも調子が悪くないか朝からクラリスが気をかけてくれる。身体はだるくないか、気分は悪くないか、軽く聞いてくれるが昔から身体は頑丈なほうだ。心配がむず痒く、でもやはりそれは嫌いじゃない。気分でいうとよくなってしまっている。


「ヤークの通っていた学校とかいうのでは薬は作らなかった?」

「作ることはあったけど私自身はそういう授業はあまり受けなかった」

「授業って、選べるものなの?」

「選べるものと選べないものがあったな。入学したものの魔力がないと最初から諦めたものたちは生計を立てるために薬学を学んでいた、はずだ」

「難しいんだね」


 人間なんて寿命が短いんだから好きなことしたらいいのにと呟く。リリムはひどい生活だったと聞いたがだからこそ不自由だったのだろうか。今が自由とは思えないが……。首元には重そうな首輪がある。今もルートリアと繋がっているそれは世間的には服従の証だ。ルートリアは話が聞こえるか聞こえないかの距離で地図とにらめっこしている。次の村を過ぎた道のりでも考えているんだろう。


「リリムは腕輪だけでも外して良いって言われたのだろう? そのほうが自由で嬉しいんじゃないか?」

「私は、たぶんまた一人にされたら、まだ辛いから」


 たどたどしく話しながら大事そうに首輪を撫でる。よくはわからないが、その方が安心なんだろう。そう考えると——どちらかといえば繋がれているのはルートリアか?

 考えてみれば、この間は腕輪の重みで手綱を引かれたのは私だ。


「計算か? 無意識か?」

「?」


 私に対しては無意識かもしれないが、ルートリアに対しては意識的に引き止めているのかもしれないな。


「あの子には少し話したけど、ずっと一人だったの。うーん、一人よりもっと寂しいかな。いない方がいいって言われ続けていたから……」

「ふむ、このパーティは本当に似た者の寄せ集めだな」

「今でも石を投げてくる魔物は苦手」

「あれは精神にくるな」


 学校にはそこまで品のない者はいなかったが、失敗などと言いながらチャチな魔法をこっちに仕掛けてくるやつには随分とイラついた。優秀であるがゆえの辛みだな、うん。


「何もできないって思っていたの」

「魔力量的に腹立つ言葉だけど聞こう」

「必要としてくれて、できるところを全部拾い上げてくれるから」


 あれも無意識だろうか。ルートリアは人を好きになる部分がおかしい。私が魔法について熱く語ると大抵の人間は嫌そうな顔をするが、あれは呆れつつも嬉しそうに私のそういうところが好きだと相好を崩す。


「……なんでもしてあげようかなって気持ちになる、ずるい」

「はは」


 最後に漏れた本音に笑う。なるほど、確かにずるい。モモや同級生に感じていた『ずるい』という気持ちとはまた違う。甘え下手で甘え上手。始めはスナッチがあまりにルートリアを甘やかすものだから、スナッチとルートリアを恋仲だと思っていたけれど、どうもルートリアと関わるとああなってしまうものだ。恐らく今の私ですら他人が見たらルートリアとどういう関係か気になってしまうものだろう。……それにしてもルートリアとリリムの距離感だけはずっとおかしい気がするが。


「それで、今はストックの尽きた薬に加えて増血剤も作っているのか」

「これは甘やかしとは違うよね?」

「クラリスが怒らないなら大丈夫だろう」

「ああは言うけど一番過保護だよね」


 煎じないタイプの粉薬だ。ゴリゴリと削っているけれど、ルートリアは嫌がるだろうなあ。何かと混ぜて飲むならいけるか。いや、あれはああみえて味にはうるさい。大体のものを美味しそうに食べるけれど、『今日はあれ入れたんだね。まろやか』などと細かく話をしてくる。


「苦いのは文句言わないと思うよ」

「粉か」

「水と一緒に飲むの下手みたい。咳き込むの嫌なんだろうね」

「もう口移しで飲ませてやったらいいんじゃないか? リリムの色仕掛けならなんでも頑張るだろ」

「いっ、いやだよ!」


 耳まで赤くして拒否する。あれだけ密着して寝たり日頃から距離が近いくせにそこは越えられないラインなのか。そもそも恋愛には一切興味なんてないのだが、まるで付き合っているかのような動きを見せているくせにそういうのじゃないって言われるとそれはそれでイライラするものだった。

 まあ、エルフと人間では寿命が違いすぎるから本気になられても困るのだけれど。そこがわかっているからか、ルートリアは私たちが“一人でも”強くなることを望む。死ぬ気はないと言いながらきっちりと自分がいなくなった後のことを考えている。


 ……全部、私が魔王を倒せば解決するか?


 傲慢な考えだけれど悪くない。ルートリアは長く生きられるし、私がいなくなって悲しむものも居ない。友人たちが少し残念に思うくらいか。ルートリアも嫌がるだろう。勇者を目指すルートリアの隣に並ぶと決めたのだから自分も同じことは考えておかねば。そして追い抜くのだ。


「あの子、私の胸に興味があるだけだから口付けしたって意味無いよ」

「そういえばそんな話をしていたなあ。じゃあ揉ませてやれば」


 それも嫌なのか。ぶるぶると首を横に振って沈んだ顔で拒否を示す。ご褒美、ご褒美ねえ。これも甘やかしだな。そういえば、ふと前に聞いた悩みを思い出す。今も悩んでいるんだろうか。


「名前で呼んでやるのは?」

「えっ」


 私たちの名前は平気で呼ぶのだから問題ないだろうと踏んだのだけれど、やっぱり種族特有の何かがあるのだろうか、顔を赤くしたり青くしたりしながらうろたえている。


「そ、そんなにあからさまだった?」

「え、あぁ、まあ」


 私自身は気にしていたわけではないけれど、本人が気にしているなどということは内緒にしておいたほうがいいんだろうな。


「種族的なものか?」

「う、うーん」


 言い辛そうなら無理に聞かないけれど。あぁ、背中が痒くなってきた。やっぱり人に気を使うというのは慣れない。


「エルフだけなのかな」

「何?」

「その、名前を呼ぶと、たまに魅了状態になっちゃう人間がいるらしくて」


 ほう。それは面白い。

 ハイエルフ以上に見かけられず伝承の生き物である人魚という存在にもそういう効果はあるらしいけれど、エルフにもそんな効果があったとは。ここでいう魅了状態とは理性を捨て本能の赴くままにリリムを求めてしまうということだろう。


「私達の名前は普通に呼んでないか?」

「相手に好意がなければ心地良い程度らしいから」

「好意がなければ?」


 それは確かだけれど、それはそれで凄い自信のある発言をしていることに気付いているだろうか。




「リリムはルートリアに好かれている自信があるのか」




 こういうことを正直に聞いてしまうからデリカシーがないのだとよく言われていた気がする。今もリリムの顔が極限まで赤く染まったところだ。目を驚きで開いたあと、じわりと涙が浮かぶ。


「わ、私自身は、旅としての能力とかは、わからないけど、か、身体は、好かれていると思います……」

「お、おぉ……」

「だ、だって、しょっちゅう、顔が綺麗、とか、一緒に寝るのが私じゃないと嫌とか、あんなの、勘違いだって起こすでしょう……?」


 己の発言による大失態で言葉がめちゃくちゃになっているな。なるほどなるほど、褒めすぎるのも問題か。問題でもないか? 薬を手放し頭を抱え始めたリリムに可哀想な目を向ける。


「まあ、旅に出ている間に間違いがないといいな」

「はい、気をつけます……」


 旅で危ないのは男女だけじゃないんだなあ。故郷は女だらけだったけれど、そもそも恋愛に興味がなかったから知らないがそういう関係のものもいたんだろうか。ほんの少し視野が広くなった時間だった。

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