友との別れそして再会の約束
夢の実現のための準備を終え、これからと言うタイミングで
26代目は力尽き、その場に崩れ落ちる
しかし彼は満足だった
雷蔵と巡り会ってからの10日間
300年のうちの10日間
その一瞬にも等しい時間が、彼の人生に意味を与えてくれたから
★冒険者生活9日目(午後)★
自室のベッドに横たわる26代目
倒れた際に、治療が出来る施設へと雷蔵がバベルに指示を出すが
「こればかりは治療のしようがないのです マスター」
と言われてしまった
ホムンクルスの活動時間の終了
それが、26代目の倒れた理由だったからだ
「迷惑かけちゃって済まないねぇ」
「迷惑なことなど一つもない」
「それどころか、いろいろと無理をかけてしまった・・・すまない」
「それこそ、無理なんかかかってないんだよぉ」
笑顔で答える26代目
「僕はねぇ、300年の間、毎日この日が早く来てほしいと思っていたんだ」
「君がこの世界に来てくれた、あの日までね」
『賢者の塔』は、この世を支配するほどの知識と技術が保存されている
それが使えれば、助けられる命が沢山あった
だけどそれは許されなかった、魂に刻まれた制約の為に
『第三者に影響を与えてはいけない』
それは、彼だけでなく代々の管理者にとって呪いと言っても過言ではなかった
「ずっと疑問に思いながら過ごしてきたんだ」
「僕は何のために生まれたんだろうってね」
それでも、彼は研究を止めなかった
自分では使う事の出来ない『決戦兵器』作り出すために
生まれた時に命じられた使命をただただ実行した
「バベル 今までありがとうねぇ」
「君がいなかったら300年も頑張れなかったよぉ」
「私こそあなたと過ごせたことを幸せに感じております」
バベルは本心からそう答えた
「僕の活動時間300年はねぇ、只々命令を実行するためだけに存在した」
「意味のない日々だと思っていたんだけどねぇ」
「君とそして最後に君の仲間たちと過ごせた日々が、意味を与えてくれたんだぁ」
「まだ恩を返せていない」
雷蔵は、申し訳なさそうにそう言う
「君が、この世界に来てくれた 賢者になってくれた」
「そして、僕たち管理者の願いを叶えると言ってくれた」
「それだけで、十分すぎるほどなんだよぉ」
もし、転生してきたのが他の誰かの魂だったら
その誰かが、『賢者の塔』の力を手にしていたら
きっと最悪の未来が待っていただろう
いつも無表情で、不器用で、お人好し
ちっとも忍者らしくない雷蔵
彼がこの世にやってきてくれたからこそ、自分たちの夢を託せる
「白玲ちゃん、イデアちゃん、ジスレアちゃん、クレアちゃん」
「ライゾーの事よろしく頼むねぇ」
「・・・任せてくれ」
「あんたがいなくなると寂しくなるよ」
「精いっぱいライゾーさんを支えます」
「大丈夫・・・ですよぉ うえ~ん!」
クレアが泣き出すと、こらえきれなくなり、みな泣き出してしまった
「泣かなくてもいいんだよぉ」
「だってねぇ 僕はこんなにも満足してるんだからさぁ」
不意に、26代目の体が光を帯び始める
「ああ、時間が来たみたいだ」
「それじゃあ みんな元気でねぇ!」
「これが別れじゃない」
「生まれ変わったらまた会える」
「記憶は無いかもしれない」
「でもきっとまた会える」
「だから『また会おう』だ!」
「そうだねぇ、みんなまたねぇ!」
26代目の体が光の粒に変わり次第に消えていく
『そうは言ったけどねぇ』
『ホムンクルスは偽りの魂』
『生まれ変わりは無いんだよぉ』
『ただ消え去るのみなんだぁ』
『でもねぇ、僕は生まれて本当に良かったよぉ!』
『ありがとう・・・』
こうして26代目の活動時間は終わりを告げた
「お・2・・いめ・・お・ろ!」
消滅したはずの、26代目は次第に意識が覚醒していく
「おい!26代目起きろ! 俺だよ! 分かるか?」
「んん? 君は25代目? えらく見た目が変わったねぇ」
「しゃべり方もそんなだったっけぇ?」
目の前に見えるのは25代目
しかし、彼が記憶している彼女は、感情の無い人形のような少女だった
「ああ? この格好か? イカスだろう!」
「多分、本来の自分の姿・・・いや、なりたかった自分なのかもなぁ」
「それよりほら、そんなとこに寝っ転がってないで」
「他の面子にも挨拶しろよ!」
見渡せば、他の管理人たちの姿も見える
彼らも、記憶の中の姿とは似ても似つかない姿をしている
だが、何故かわかるのだ、その人物が誰なのかを
代々の管理人たちに、代わる代わる挨拶していく
なんだか不思議な気分だ
「それより、ここはどこなのかなぁ?」
「僕たちは活動時間が終わったら消滅するはずだろう?」
「ここがどこなのか俺たちにも分からねぇんだ」
「仕方ねぇから、俺たちはこの場所を『管理人たちの箱庭』って呼んでる」
「『管理人たちの箱庭』・・・」
話を聞くと、彼らがここに来たのはほんの10日ばかり前なのだそうだ
「お前が、ライゾーって奴いや賢者様か?と出会った時ぐらいからだなぁ」
「何故、25代目がライゾーを知っているんですぅ?」
「何でってほらっ!あそこの白い壁」
「あそこに映ってるじゃんよ」
25号目が指さした方へ眼をやると白い壁に、別れを告げた人々が映っている
雷蔵とその仲間たちが
どうやら、管理人たちは、この映像で、ライゾーと出会ってからの出来事を見ていたらしい
「ここは不思議なところでよぉ」
「腹は減るし、のども乾く」
「欲しいものがあれば、頭に描くだけで勝手に出てくんだよ」
っと言って手の平を見せてくる
突然、その掌の上にリンゴが現れ、彼女はそれをひとかじりする
白い壁を見つめる
泣きじゃくる仲間たちと雷蔵
ふと彼が振り向き目があった気がした
そして、ほほ笑んだようにみえた
『気のせいだよねぇ』
「おい!ライゾーの奴、今こっち見て笑ったぞ!見えてんのか!?」
「あいついっつも無表情なくせして、たまにああやって笑うのな」
「ああ、やべぇ! キュンって来た!」
気のせいではなかったのだ
そこには、無邪気に笑う友の顔があった
その笑顔を見て26代目もつられて笑う
「ここから、見せてもらうよぉ」
「君が大活躍するところをねぇ!」
また会えるその日までね