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僕と哲司は遥の家の庭を囲んだ塀に沿って、まどろんだ明るさの中、肩を並べて歩く。
「俺たち、遥を守ろうな」
哲司がさりげなく言った。
それがさまになってカッコいいから、僕は嫉妬してしまう。
「ばーか、哲司が勝手に守れよ」
「おい、お前、遥を見捨てるつもりか」
「違うよ」
「じゃ、だったらなんでそう、意地悪なんだよ」
「意地悪も言いたくなるんだよ」
「賛太らしくねぇな。一体どうしたんだよ」
僕は答える代わりに溜息を吐いた。
僕が今回の一騒動で分かったことは二つ。
一つは犯人の事。
これは本人も自白したから、あっさり片付いた。
そしてもう一つ。
これは中々自白してくれそうになかった。
でも僕は気づいたんだ。
遥は哲司が好きだということ。
あの消しゴムを遥が見つけたとき、もし僕のことが好きなら、一番最初に僕に見せに来たはず。
だって、僕は、賛太だから。
『マイ ネイム イズ サンタ クロス』
あの消しゴムが僕の名前と繋がらなかったことは、遥の気持ちは哲司に向いているということだ。
あの消しゴムは僕の分身だというのに。
僕は賛太でサンタ。
サンタクロースのサンタと同じ音。
普通、一番最初に連想するってんだよ!
やっぱりまた溜息が出た。
学生ズボンのポケットにも、消しゴムが一つ入っている。
これは願いが叶いそうもない。
人間あきらめが肝心。
僕はそれを取り出し、力のままに思いっきり上にほうり投げてやった。
それは暮れかけた空に向かっていった……はずだった。
だが投げた場所が悪かった。
まだ遥の家の庭、ちょうど池がある辺りの塀の近く──
「おい、ちょっとそこのお前、待て!」
後ろから怒鳴った声がする。
振り向けば西野川が僕を睨みつけていた。
「まさか、お前が、石を投げた犯人か!」
西野川の手には、さっき投げた消しゴムが握られていた。
「やばい。哲司、走るぞ」
「おい、賛太」
僕たちは、一目散に駆けだした。
そんなことをしたら余計にあやしまれるというのに。
「待ちなさい!」
後ろから西野川の声が聞こえる。
「誤解です。僕じゃないです。李下に冠を正してしまっただけです」
必死に言うも、僕はなんだか笑けてきてしまう。
因果応報なんてクソ食らえ。
運が悪い時は悪い。
でもいいこともきっとあるに違いない。
人生山あり谷ありだから。
今、僕は必死に走る。
必死になったとき、僕は哲司よりも早く走れることに気が付いた。
もしかしたら、僕にもまだ逆転の余地があるかもしれない。
希望が見えたところで、後ろを振り返ると、西野川がまだ追いかけてきていた。
「うわぁ~」
とにかく、今は逃げるが勝ち。
でもこの後どうなるかわからないけど、明日は明日の風が吹くのだろう。
その時、僕は少しだけ今とは違う自分になってそうな気がした。
The End
最後まで読んで下さった方、ありがとうございます。
【補足】
タイトルの消しゴム・ガロアの『ガロア』は英語でgaloreと綴ります。
これは『たくさんの・豊富な』という意味です。
使う時は名詞の後ろにつきます。
例えばこんな風に
I have erasers galore. たくさん消しゴムを持っている。
many(または a lot of) erasersの方が一般的だと思いますが、最近覚えたてで、パッと頭に浮かんでこんなタイトルになりました。




