2-4
「───よう」
「お、トーヤさん!」
王城前の門番ズに話しかけると、いつも通り威勢のいい声が返ってくる。
「お疲れ様です!
……本部の方からとは、珍しいですね?」
「ああ。
ちょっと、ヴェルニグに呼び出されてな」
「なるほど。
ついさっき団長がここを通ったのも、それでですか」
「だろうな。
フリージアに駐在する小隊の件で、ちょっと話してたんだよ」
「駐在の件、というと……。
フリージアも大きくなってきてるから、ってところですか?」
「そういうことだ。
……まぁ、それだけじゃなかったんだが」
この二人には普段からフリージアのことを話していただけあって、話が早い。
そして俺がその件について引っかかっていることも、二人にはお見通しのようだった。
「よければ、聞かせてくださいよ。
今日は、そのために来られたんでしょう?」
「ま、そういうことだな。
……邪魔するぜ」
「ええ」
そう言って俺はいつも通り、二人のすぐ隣にある木箱に腰かけた。
「よいしょっと……。
さて、何から話したもんか」
これはおよそ、装備か何かが入った箱なのだろうが……大抵の場合、二人と話すときはこれに座らせてもらっている。
昼過ぎは二人にとっても暇な時間帯らしく、お互いの眠気覚ましにということで、俺が王城に滞在している間は度々ここに来て世間話をしている。
このように三人で王城に背を向けながら横目で会話をするのにも、慣れてしまったというわけだ。
「フリージアへの駐在、でしたか。
駐在の任務なら……多分、派兵師団ですよね?
ちなみに、どの隊なんです?」
「んー?
たしか……第八小隊、って言ってたっけか」
「第八小隊……っていうと。
もしかして、エルビンのところですか?」
「ああ、そうだ。
知ってんのか?」
「やはりそうでしたか!
いえ。俺たち、エルビンとは同期なんすよ」
「へぇ……同期、か」
「ええ。
入団の時期が同じだったので、訓練生時代はよく一緒だったんです。
一応、歳自体はあいつの方が下らしいですけど……まぁ、ほぼ変わらないですね」
「ほー……」
訓練生時代。
言われて初めて、そういうのもあるのか、と納得する。
「そうか……あいつがあの村に、ですか。
それは、いいことですね」
「いいこと、なのか?」
「もちろんです。
聞く限りでは、きっと無期任務なんでしょう?」
「ああ……たしか、そう言ってたな」
「なら、栄転ですよ。
派兵師団にとって、無期任務で一つの場所に配置されるのは、喜ばしいことです。
「そうだったのか……」
栄転。という単語を聞き、少し心が軽くなるのを感じる。
「そうだ。
それなら、今度こないか? フリージアに。
エルビンの昇進祝い……って言うのは正しいかわからんが、エルビンも呼んでみんなで騒ごうぜ」
「お、いいですね!
乗りますよ」
「俺も賛成ですね。
だったら今度、俺たちの休みが重なる日にでもお邪魔しましょうか」
「歓迎するよ。
だったらその日は、うまい魚料理を用意して待ってるぜ」
「魚料理、ですか?」
「ああ。
外国から魚が入荷できるようになったの、言ってなかったか?
この一ヶ月、俺はそのためにペルエットにいってたんだが……」
「そうなんすか!?
全ッ然知りませんでしたよ!」
「そうか、言ってなかったか……」
「だからここ一ヶ月以上、こちらで見かけなかったんですね……」
「ああ……悪いな。
急に魚が食いたくなったもんで、ちょいと隣の国まで」
「はは……!
それはなんというか、トーヤさんらしい理由ですね」
「そうか?
まぁ、その反動で先週は殺されかけてたんだが……それも、集まった時話すか」
「ええ。
せっかくですし、ペルエットでの土産話も聞かせてくださいよ。
きっと、山ほどあるんでしょう?」
「もちろんだ。
じゃあ、具体的な日付が決まったら連絡してくれよ」
「ええ、ぜひ」
「楽しみにしてますよ」
二人がフリージアを訪れる際には、ぜひコルヴィの酒場を借りるとしよう。
「それはそれとして……ちょっと気になることがあるんだが」
「ええ」
「まぁ……なんつーか。
もし俺が聞くべきことじゃないなら、ハッキリそう言ってほしいんだけどさ」
「聞きますよ」
二人もこちらが本題だと察しているのか、俺の顔を見ずにそう促した。
「エルビン、さ。
どうも複雑そうだったんだ。
今回の任務を、ヴェルニグから説明された時」
「と、言いますと?」
「なんつーか……ほら。
二人はさっき、無期任務は栄転だって言ってたろ?
でもエルビンは、素直に喜んでる様子でもなかったんだ。
どっか悩んでる、っつーのかな」
「ああ……なるほど」
「はは。
それは、想像がつきますね」
「やっぱ、二人には理由がわかるのか?」
「んー……そうですねぇ。
わかるというかなんというか」
「ええ。
まぁそうなるだろうな、とは」
「なんとなくで、ってことか」
「そうですね。
その理由も、できれば説明をしたいんですが……今度はこちらが、何から話したらいいものか。という感じですね」
「……聞いていいことなら、ぜひ教えてくれないか?
俺としては、エルビンとはこれから一緒に仕事をすることになるからさ。
あんまり、わだかまりとかを持ったままでいてほしくない。
……ヴェルニグの前でも、エルビンは明らかに悩んでたんだけどな。
あの頑固団長殿だ。大した説明はしてやってなかったんだよ。
本人曰く、わかった上で放置してる。ってことらしいが」
「なるほど。
それもまた、簡単に想像がつきますねぇ……」
「どこまで行っても、俺はクロキアじゃない場所で生まれ育った、外の人間だからさ。
エルビンにも二人にも、あんま踏み込んだ話はしてもらえないかもってのは承知してるんだが……」
「ああいえ、とんでもない。
トーヤさんはもう、立派にクロキアの方、騎士団の人間ですよ。
少なくとも、トーヤさんに関わった人間はみんなそう思ってます」
「そうですね。
そこに垣根はありませんから……せっかくですし、色々ぶっちゃけましょうか」
「……助かるよ」
ちらりと二人の横顔を見てからそう言うと、二人はどちらからともなく話し始めた。
「そっすねえ……まず、エルビンの態度からですけど。
あいつは別に、嫌がってるわけじゃないと思いますよ」
「そうなのか?」
「ええ。
あいつは生真面目ですから。
多分、『自分に背負えるのか』とでも考えているんでしょう」
「……それは、つまり。
尻込みしてるだけ、ってことか?」
「言ってしまえば、そういうことになりますかね」
「……無期任務ってのは、そんなに重い仕事なのか?」
「まぁ、重いというかなんというか。
少なくとも、無期任務に配置される隊長としてはかなり若い方でしょうね。
あいつ自身、こんなに早く無期任務に充てられるとは思ってなかったんじゃないっすか?」
「自分も同意ですね。
聞く限りでは、フリージアの任務は、かなり複雑なんでしょう?
ただの警備任務とは違うように思えますが」
「ああ……たしかに、そんなことも言ってたな。
裁量があるとかなんとか」
「自分たちはトーヤさんから色々聞いてるんで、もう慣れちゃってますけど。
やっぱりフリージアって村の環境は、特殊ですよ。
他の国の人間がいて、もっと言えば一緒に暮らしてるじゃないですか。
そんな中の警備任務となると、杓子定規じゃ務まらない」
「だからこそ、経験のある人間や小隊が充てられるべき。
っていうのは、騎士団の人間なら誰もが考えることでしょう。
だからエルビンは今回、あくまで一時的な任務だと予想していた。
仮に無期任務だとしても、他に経験豊富な小隊はいくつもある。だというのに、まさか自分にそのお鉢が回ってくるとは思っていなかった。
そんなところですかね」
「なるほど……そういうことか。
俺としては、エルビンは半年前の防衛の時からフリージアに関わってもらってるからさ。
俺や村のみんなとも面識があるし、エルビン以外に適任はいないと思ってたんだがな」
「ええ。
間違いなく、そのあたりを考慮した上での采配ではあるでしょうね。
ただ、エルビン自身は自分にはまだ早いと思っていたんでしょう」
「そもそも派兵師団の仕事は、大きく分けて二種類あります。
ひとつの地に留まるものと、各地の状況に対応するため転々とするもの。
町の数だけ前者の仕事があり、それ以外の大多数の師団員は後者に充てられる。
前者───つまり無期任務はひとつの町を任されるということでもあり、ある種、責任のある仕事ですから」
「だからこそ、無期任務に充てられるのは栄転とも言えるんです。
隊長だけでなく、隊員たちも、ずっと同じ町で生活ができる。
同じ場所で腰を据えて生活できるってことは、将来のことを考えることもできる、ってことです。
しかも城下町に近いなら、なおさら……って感じですかね」
「そう、か……」
それはエルビンにとって喜ばしいというだけでなく。
フリージアという場所にとっても、二人の言う『町』として認められたという証でもあるのだろう。
「なら……よかった、のかな」
「ええ。
だと思いますよ」
「……そっか。
だったらヴェルニグが言ってた『師団により考え方が違う』とか言うのも、それのことかな」
「あー……。
それは、そうですね。ほとんどそうだと思います。
ただその言い方を聞くと、ちょっと別の意味がある気もしますが」
「別の意味?」
「これは、今から話そうと思ってたんですが……なるほど。
団長殿がそう言っていたということは、これも予想されていたのかもしれませんね」
「……?」
俺が『わからない』という風に顔を上げると、二人はどこか納得したように再び口を開いた。
「あいつ、お上りさんなんすよ」
「……っていうと?」
「ミールノエ近くの村でしたっけ?
たしか、そのへんの出身だったと思います」
「ここで生まれ育ったわけじゃなくて、故郷から身一つで城下町に上ってきたんですよ。
……たしか、エルビンの親父さんも騎士だったんだっけ?」
「ああ、そうだったと思う」
「そうなのか?
じゃあ、親父さんは今───」
俺がそう言いかけると、二人は首を横に振る。
「あいつが小さい頃に、他界されたらしいです。
詳しくは知りませんが……訓練生時代に、そんな話を聞きました」
「天涯孤独、ってヤツですかね。
だからこそ、親父さんに憧れて騎士になったとも言ってましたが」
「そう、だったのか……」
「二十年以上前のことらしいんで、もう昔の話ですけどね。
……って言っても、今話したいのはそこじゃなくて、ですね。
城下町以外の、他の町が出身のヤツは派兵師団に入れられやすいってコトです」
「出身が、師団の振り分けに関わってるのか?」
「ええ。
言葉を選ばずに言うと、お上りさんや根無し草みたいなのは、派兵師団に。
逆に、ここで生まれ育ったヤツらは、城下町を守る警備師団に。
そんな配属をされやすいってことですね。
あくまで、ざっくりした傾向ってだけですけど」
「ちなみにこれは差別とかじゃなくて、きちんとした理由があるんですよ。
独り身の人間は、任務で転々としやすい派兵師団に合いますし。
逆に城下町で育った人間は、地理感覚があるから警備師団に。って具合です。
これは団長殿が仰っていた、適材適所の考え方の一部ですね」
「そういうのもあるんだな……」
「そんで、エルビンの親父さんも派兵師団だったらしいっす」
「加えて言うなら、ヴェルニグ団長も。ですね」
「ヴェルニグも?」
「はい。
団長殿は、ミールノエ出身ですから。
さらに言えば、エルビンの親父さんとも団内で関わりがあったようですよ。
団長の方が後輩だったんで、同じ隊の中でよく世話になってたとかなんとか」
たしかに以前のペルエットでの道中で、サフィーアがそんなことを言っていた気がする。
「団長はあの強さで派兵師団から名を上げ、師団長になり、騎士団長にまで上り詰めた人です。
……で、結構珍しいんですよ。派兵師団からそこまで昇進するのって」
「そうなのか?」
「ええ。
派兵師団の任務は、上官の目の届かないところでの警備が多いですし。
あとはさっきの生まれの話なんかもあって……派兵師団の仕事ってのは、評価されづらいんです。
ただヴェルニグ団長に関しては、いくつもの功績を上げたこともあって師団長に。
そこから前団長や他師団長の推薦で、異例の昇進になったとか。
まぁあの強さと、誰よりも真面目な姿勢ですから。納得の采配ですけどね」
「そうだな。
真面目過ぎて、サボってっとすぐ便所掃除させてくるしなぁ」
「ああ。
俺たち、バレないようにうまいことサボってるつもりなんだけどな……。
ねぇ、トーヤさんもそう思いませんか?」
「……その件については、悪かったって」
俺が謝ると、二人は大きな笑い声をあげた。
彼らが言っているのは、前に俺がヴェルニグに対し二人がサボっていることを漏らしてしまった件だろう。
「ま、とにかくですよ。
エルビンやご自身の出身に加えて、親父さんとの関わりとか、今までの任務経験とか。
そのへん全部考慮して、エルビンを無期任務に充てたんじゃないですか?
少なくとも自分は、そう思いますけどね」
「ああ。
あいつは訓練生時代でも、特に真面目だったからな。
それがちゃんと評価されるってのは、他人事とはいえ嬉しいことだな」
「だな」
ヴェルニグはミールノエ出身で、出自や師団としての経験もエルビンに近い。
その背景で自身が苦労したことに加え、エルビンの父親との関係もある。
それらを考え、今回エルビンにチャンスを与えた。ということだろうか。
「……色々あんだな」
「そっすね。
まぁ昇進だなんだの話なんて、俺らには縁がない話っすけど」
「間違いない」
「そうなのか?
……ってか、二人はどこ師団なんだ?」
「警備師団っすよ、一応」
「警備師団っていうと、城下町担当だっけか」
「そっす。
その中でも王城に一番近い場所と言えば聞こえはいいっすけど、正直めちゃくちゃ暇な仕事っすよ。
大抵の場合、一日中突っ立ってるだけで……ここを通るのもほとんど城の中の人間なもんですから、特段怪しいヤツが来るわけでもない。
やることと言えば、たまーに門を開けたり跳ね橋を上げたりするだけで……なんも変わらない毎日っすね」
「橋の上げ下げしてるだけで、昇進の話が来るわけもねえしな」
「ふうん……。
やっぱ、不満なのか?」
「そりゃもう全然っすよ」
「……全然ってのは?」
「逆に聞きますけどトーヤさん。
俺たちに、野心とか向上心なんてものがあると思います?」
「んなもんあったら、こんなとこで駄弁ってねえで、鍛錬でもなんでもしてるよなぁ」
「だな。
せめて団長が通った時ぐらいは、なんかしてるフリでもしろってな?」
「その『なんか』が思いつかねえから、いつまでもここにいるんじゃねえか?」
「間違いない」
そう言って二人は、また楽しそうに笑い声をあげた。
「……聞いた俺がバカだったよ」
「いやいや、トーヤさん。
怪しいヤツが来た時のために体力温存するのも、仕事っすから」
「そうそう。
俺たち実は、真面目に仕事してんすよ」
「はあ……」
「まぁまぁ。
これも適材適所ってヤツっすから」
「ですね。
毎日それなりに仕事して、そこそこの金をもらって。
家に帰ったら、うまい飯を食って寝る。
それだけで満足なヤツもいるってことっすよ」
「エルビンとは違って、か」
「そういうことっす」
その返答に、またため息をつきかけたが……元来、俺もそのような人間だったことを思い出す。
「……まぁでも、そうだよな。
その気持ちもわかるな。
そういえば俺も、できることなら一日中寝てたい人間だし」
「そうなんすか?
トーヤさんって、わりと忙しくしてるのが好きな印象あるんですけど」
「同じくですね。
トーヤさんからは毎回色んな場所での話を聞くのもあって、常に走り回ってる印象がありますね」
「それは……まぁ、成り行きだな。
本来俺は、寝具と睡眠を愛する平和主義者なんだぜ」
「へぇ……なんか、意外っすね」
「俺の仕事と言えば、王城でサフィーア様に飼われて、小間使いのように走り回らされることだからな。
それでも、この俺がこの仕事を張り切ってる理由があるとすれば……ま、一つだな」
「その心は」
「王城のベッドは質が良い」
「なるほど」
「なら納得っすね」
そうしてまた、俺たちは静かに笑いあった。
「……そういえばなんだけどさ。
騎士団の師団って、たしか三つなかったか?
ほら、警備師団と派兵師団以外に、あと一つ」
「ありますよ。
王城師団っすね」
「ああ、それだそれ。
王城師団は……王城内の警備だっけか?」
「そっすね。
といっても、王城内でなんかが起こることなんてまずないんで。
事務仕事だとか雑用とかも多いらしいですよ。
師団の中では、団員の人数も極端に少ない枠組みですし」
「なるほどな……。
玉座回りとかサフィーアの執務室の前とか、そのへんに配置されてるのは全部王城師団の所属ってことか」
「そういうことっすね。
ちなみにさっきの話に照らし合わせると、ですが。
王城師団への配属理由は、半分ぐらいは家系によるものっすね」
「家系っていうと……ああ、なるほど。
仮にも、王城の中だもんな」
「です。
万が一にも変なヤツが紛れ込んだらいけないんで、代々王城師団に勤めてる騎士の家系なんかが多いってことっすね。
ただあんまり血筋を重視しすぎると、今度は団内や王城内での扱いの差がどうとか、いがみ合いが起きちゃう可能性があるんで。
ほどほどにってことらしいっすけど」
「まぁ、サフィーア様自身が相当な魔法の実力をお持ちらしいですから。
あんまり厳重な警備は必要ないとかなんとか……そのへんも考慮して、人選についてはある程度ゆるくやってるらしいですよ。
万が一にでも、団内での格差がどうとか、派閥争いだとかにならないように」
「あー……理解したよ。
なんつーか、難しいんだな、色々」
「そっすね。
ほんとに、色々ありますよ」
改めて、騎士団の配属一つとっても様々な事情が絡み合っているのだと実感する。
「……それで言えば、トーヤさんも結構謎っすよね」
「ん? 俺か?」
「はい。
なんと言えばいいのかわかりませんが……その。
わりと突然現れた人物、と言いますか」
「あぁ……なるほど、そういうことか。
有り体に言えば、俺こそポっと出の怪しい人間にしか見えないってことだよな」
「ああいえ、そこまでは言いませんが……」
「いや、いいぜ。
その点については、俺も自覚してるからさ。
正直、『気付けば王城に入り浸るようになってたヤツ』って感覚なんじゃないか?
昔からずっと王城にいる人たちからしてみれば、特に」
「まぁ言葉を選ばなければ、正直そうでしょうね……。
トーヤさんが来られた時、一応団長からは下知があったんですけどね。
『黒髪の、見慣れない靴を履いた者がいれば通せ』と。
逆に言えば、それだけでして」
「そういうことだよな。
王城のことをよく知ってる人間ほど、俺は異質だったってわけだ」
「ええ……。
まさかその時の方が、騎士団の顧問魔術師をされることになるとは思いもしませんでしたが」
「まぁ役職については、成り行きみたいなもんではあるけどなぁ……。
俺がフリージアに行きたいっつったのも、そこでの防衛戦に参加したのも。
それから、フリージアで氷を作りたいっつったのも……全部ただの思い付きだ。
その経緯で、都合が良いからってこの役職を与えられてるだけでな。
実際やってることはサフィーアの小間使いみたいなもんだし、たまたまそのお鉢が余ってたってことなのかもしれねえな」
「なるほど、そういうことだったんですね……」
「……俺は、余っていたというわけではなさそうに思えますけどね」
「っていうと?」
珍しく両者で意見が食い違ったため、聞き返す。
「トーヤさんもご存知でしょう、顧問魔術師というのが特殊な枠であるということは」
「まぁ、それは」
「昔は近衛騎士という枠があったそうですが、それが解体された今、それに代わる枠組みが顧問魔術師と言われています。
そして、サフィーア様を最も近くで守る役割として選ばれたのが……ミラーヤさんと、トーヤさん。
ですが、元から護衛が必要ではないほどにお強いサフィーア様に付く役割を、あえて増やす意味もなければ減らす意味もありません。
ということは、本来は枠が余るということはないでしょう?」
「……まぁ、そうだな」
「だからこそ、俺はトーヤさんが顧問魔術師に選ばれたことには意味があると思いますけどね。
お鉢が余っていたとか、たまたまとかいう話ではなく」
「……なるほどな。
そう言われれば、その通りか」
「……どういうことでしょう?」
俺も言われてから気付いた構造を、頭の中で整理しながら口に出す。
「つまるところ……顧問魔術師ってのはサフィーアにとって、体のいい小間使いであり、手足のように動かせる人間がいいわけだ。
それが王としての命令かどうかに関わらず、な。
そして何より……」
「どうあっても裏切らない人間がいい、ってことですね」
「そうだ」
「裏切らない人間……。
ああ、なるほど。そういうことですか」
ようやく合点が言ったようで、頷きながらの言葉が返ってくる。
「ああ。
俺とミラーヤは、どっちも拾われた人間だ。
サフィーア様のお膝下以外に身寄りがなくて……拾ってもらった恩もある。
それから、クロキアで生きるための心得や常識なんかも、サフィーアに教えられてるしな」
「つまり、家系や血筋なんかのしがらみがないので、生きる上での余計な利害関係が一切ないってことですね。
故に、内通したり裏切ったりということが起こらない。
……というより、起こり得る原因そのものがない。本来ならば誰もが持っているはずのそれが、です」
「そう言われれば、納得ですね」
「それに加えて……俺もミラーヤも、そこそこ力があるからな。
物理も魔法も含めて、だ。
そのあたり全部ひっくるめて、手元に置いておくのにちょうどいい人間だったってことだな」
「いわゆる、懐刀ってやつですか?
……勝手にすっぽ抜けて、国外にまで行ってる刀ですけど」
「しかも、最近は魚を捌いてるらしい。と」
「お、言うようになったなお前ら?」
「ははは!
冗談ですよ」
「そっすよ。
誉め言葉のつもりで言ったんですって」
「ったく……」
俺は呆れつつも、もしこの力が刀として使われるのであれば、そのような振るわれ方のほうが平和的で良いのだろう……とも思ったのだった。
毎日昼12時に、一話ずつ投稿予定です。
また、第2章終了となりストックが無くなったため、ここからは幕間を挟んで、少し投稿お休み期間...か、不定期投稿となります。
期間中は、全く別のおはなしを投稿しようと思っております。
そちらも、ぜひご覧いただけますと幸いです。




