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2-5


「───ってなことがあってな」



隣に座るサフィーアに、今日の出来事を語る。



「ふふ……懐刀(ふところがたな)、ね。

 そう呼ぶには、貴方は少し鋭すぎるわ」


「……そうかよ」


「ええ。

 おまけに言えば、自我も強すぎね。

 その子たちのいう通り、持ち主をおいて、他の国にまで行ってしまうんだもの。

 ……もし貴方にその自覚があるのなら、私の懐にいなさいな。

 道具ではなく、人として、ね」


「へいへい……」



ソファの上。


少し話し疲れてきたこともあり、抗議の意味も込めて、寝転がるようにして彼女の膝に頭を預ける。



「あら。

 今日は甘えん坊さんね?」


「前に言ってたろ。

 ここが俺の居場所だ、って。

 だから遠慮なく(くつろ)がせてもらってるだけだ」


「まあ……ふふ。

 歓迎するわ」



彼女の冷たく小さな手が、俺の頭にそっと添えられる。



「……ねえ、トーヤ。

 私が貴方を選んだ理由はね。

 三つあるの」


「ん」



まるでおとぎ話を語るように、サフィーアはゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。



「一つは……貴方が私に、対等な立場で接してくれるから。

 傍にいて、同じ目線で、率直な意見を伝えてくれる。

 そんな風に接してくれる人がいることは、王様という立場だからこそ、とても大事なこと。

 それと同時に私にとって、とても嬉しいことでもあるの」



それは、いつかも聞いた気がする。


その言葉の通り、サフィーアは日頃から俺に対し常に、立場を除いた対等な目線でいるよう求めてくるきらいがある。



「そして二つ目は、さっき貴方が言った通り。

 貴方がまっさらな子だったからこそ、私の傍にいられる。という理由ね。

 これは、ある意味とても打算的な理由だから、少し申し訳ないのだけれど……」


「打算的じゃなくて、合理的っつーんだ。

 謝る必要はねえよ」


「……ありがとう、トーヤ」


「んで、三つ目は」



瞼を閉じたまま、俺はそう促す。



「三つ目は……そうね。

 この理由は、今はまだ秘密にさせて頂戴」


「あぁ? なんだそりゃ」


「ふふ……ごめんなさい。

 だけどこれは……とっても大事なこと。

 大事なことだからこそ、今の貴方には伝えられないの」


「……」


「いつかその時が来たら、必ず話すから。

 ……ね?」


「……ま、そこまで言うなら今は聞かないでおいてやるか」


「ありがとう」



そう言ってサフィーアは俺の頭をくしゃりと撫で、上機嫌に微笑んだ。



「……どうかしら。

 私は、貴方の不安を。

 少しでも取り除けたかしら」


「……なんだ?

 不安がってるように見えたか?」


「ええ。

 とても」


「……」



図星だ。



俺が感じていたのは、ちっぽけで、わがままな不安。



それは、あの二人と話した時から───俺が顧問魔術師に選ばれた理由を話していた時から感じていたこと。



もしかすると、今ここにいるのは、俺でなくてもよかったのではないか。


必要な条件さえ満たしていれば、他の人間でも替えが効くものだったのではないか。


俺という主体は、本当に必要だったのか。



そんな子供じみた感情すら、しかし目の前の女性は見透かしていた。



「……私があの時貴方を選んだ理由は、今言った通りよ。

 だけど今は、私個人として。

 貴方に───トーヤという一人の人間に、傍にいてほしいと思っているわ」



だからこそ、彼女はいつも。


俺に必要なものを、全て与えてくれているのだろう。



「……」



俺は答えを探すように片目を開け、彼女の顔を見上げる。


サフィーアはそれに気付いたものの、俺に対してささやかに微笑みかけるだけだった。



「……ふふ」



繰り返し俺の髪を撫でる彼女の手の感触を(たの)しみながら。


言葉を探しているうちに、いつの間にか俺は意識を落としていたのであった。






──






「──けない、──ちゃってたわ……」



(ん……)



体重を委ねていたものが動き出し、頭が宙に浮いた感覚で俺は薄目を開ける。



「とーや……きて──もう」



優しく脳を揺らす音色に誘われるように、手を引かれ立ち上がる。



それでもなお、揺蕩(たゆた)う意識を掴めないままに。



「──うがない子……ほら、──いで……」



ふらふらと、目の前の白い塊に身を委ねる。



「──やすみなさい……」



そのまま、心地良い涼しさと柔らかさに包まれ───俺が再び意識を手放すのに、時間はかからなかった。









────

───

──









「……ん……?」



窓から差し込む光が、いつもとは異なる角度で俺の瞼を叩く。



(……あれ……俺……)



俺のものではない香りと、腕にかかる僅かな重さ。



それが、最初の感覚だった。



(……)



どうやら俺が抱きかかえているらしい、腕の重さの正体。



それを確かめるため、俺はやがてゆっくりと目を開ける。



(……おい……バカかよ……)



凍てついた血液が一瞬にして身体中を巡るような感覚。



そして覚醒と同時に口をついたその罵倒は、他でもない自分に対してのもので。



(とにかく逃げ……!?

 ……いや、動くと起こしちまうか……!)



重さの正体は、銀色のベールと純白のネグリジェを纏い、すうすうと寝息を立てる少女だった。



(寝たフリ……!?

 ……通用するか? いや、ミラーヤが起こしに来たらどうする!?)



寝ぼけていたにしろ、まさかサフィーアと同じベッドで寝る選択をするとは。



もう少し意識と理性を保てなかったのかと昨日の自分を叱責したところで、過ぎた時は戻らない。



今ばかりは、自分の時魔法の不便さを嘆くばかりだった。



(……ってか、今何時だ……!?)



「……んぅ……?」



(まずい、起こしたか……!)



俺の焦りが伝わったのか、やがて白銀の持ち主が目を覚ます。



「……あら、とーや……?」


「……」



苦し紛れの狸寝入りを披露する俺の胸にそっと顔を埋め、彼女は嬉しそうに呟く。



「……まだ寝て……は、いないわね……。

 心臓が……とっても早く動いているもの……」



どうやら伝わっていたのは焦りではなく、早鐘を打ち続けるこの鼓動だったらしい。



俺が抱きかかえる形で体が密着しているので、当然と言えば当然なのだが。



「ふふ……おはよう、トーヤ。

 それと……ありがとう。

 寝ている間も、私のことを守ってくれていたのね」


「……寝ぼけてただけだ。

 悪かったな」



回らない舌で謝罪を告げ、腕を引き、起き上がる姿勢を整える。



「あら……謝ることはないわ。

 だって、私がベッドに誘ったのだもの。

 そうでしょう?」


「そういう問題じゃねえだろ……!

 仮にも王様なんだから、もうちょっと用心ってモンをだな……!」



そのまま背中を向け、服を整えながら立ち上がったのだが───。



「ふふ……私はよくってよ。

 だって、貴方の腕の中、とっても寝心地がよかったんだもの。

 私は、もう少し一緒に───」


「だああ!

 朝飯作ってくる!!」



背後からの、甘い追撃。


それを振り払うようにして、俺はサフィーアの部屋を抜け出したのだった。



毎日昼12時に、一話ずつ投稿……しておりました。


第2章終了となりストックが無くなったため、幕間を挟んで少し投稿お休み期間...か、不定期投稿となります。


期間中は、全く別のおはなしを投稿しようと思っております。

そちらも、ぜひご覧いただけますと幸いです。

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