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2-1


「よい、しょっと……。

 ふいー、ようやく戻ってこれたぜ……」



フリージアの、南門。


門といっても、石垣が途切れて虎口のようになっているだけの場所なのだが……とにかく俺たち五人は、見慣れた光景を前に馬車の旅から解放された。



「うむ……やっぱ安心感があるな、この景色は」


「トーヤはお城と同じくらい、ここに滞在していた期間が長かったものね。

 ……ありがとう、ミーチカ」


「はいっ!」



ミラーヤに手を預けながら降車したサフィーアに続き、リエラとブランシュも屋形から降りてくる。



「わぁ……ここがフリージアなんだね!」


「おう。

 俺たちの仕事場兼、第二の住処ってとこだな。

 どうだ? 穏やかで、いいとこだろ?」


「うん!

 山とか森に囲まれてるけど、見晴らしはよくて……まさに山の中の町って感じだね!

 アタシは海で育ったから、なんだか新鮮だよ!


「はは、そうか。

 気に入ってくれてよかったよ。

 でもまぁ近くに海は無ぇから、例えばサッパリしたくなって衝動的に水に飛び込む……みたいなことはできないかもな」


「あはは、たしかにね。

 もし海が恋しくなったら、フローエンに帰った時に。かなー。

 でも空気自体がわりと冷たいし、その必要もないかも」


「気温の違い……そうか。

 他の国に比べたら、クロキアは温度が低いもんな」


「うん。

 というか、薄着だとアタシにとってはちょっと寒いかも……」



この世界では、その人物が持つマナの性質がその身体に大きく影響を与えているのだ。


俺含め、クロキアの人間は寒さに耐性があるようなので……リエラが寒がるのも無理はないだろう。



「ま、とにかく。人口もそこまで多くない村だ。

 そのへんの違いも含めて、慣れていかないとな。

 とりあえず、まずは村長のナスレグさんに挨拶を───」



そう言って、俺たちが村の中に足を踏み入れようとした、その瞬間。



「あ゛あ゛あ゛ーーーーーっ!?!?

 ボスゥーーーーーーー!!!!!」



麦畑の奥の結構な距離から、こちらを見つけたのであろう人物の声が響いた。



「わ……なんかこっちに走ってきてるよ。

 トーヤくん、あの人は?」


「……キトだな。

 相変わらず目が良くて、声がでかい……」



二人称だけで誰かを判別できるその人物は、しばらくすると体全体で急ブレーキをかけ。



「……自分、みんなを呼んでくるっスーー!!!!!」



再び土埃をあげながら、とんぼ返りをしていったのだった。



「に、賑やかな人だね……」


「まぁ……この村で一番騒がしいヤツって認識でいいぜ。

 ……ただ、今からもっと騒がしくなりそうだが」






────

──







ほどなくして。


さきほどの予想を裏切ることなく、俺たちの周りには賑やかな人だかりができていた。






「王よ、よくご無事で……!」


「あらヴェルニグ、ご苦労様。

 お出迎え、ありがとうね」


「ええ……ミラーヤ殿も」


「はいっ!

 ご心配おかけしました!」


「それについては……正に、ミラーヤ殿の仰る通りですな。

 ひと月が経っても王が戻られない故、皆いたく心配していたのですぞ」


「あらまあ。

 お小言はお城に帰ってから、と言いたいのだけれど……予定より遅れたのは事実だものね、ごめんなさい」


「いえ……ご無事であれば、それで良いのです。

 王城の者たちにも、早くそのお姿をお見せください」


「ええ。

 私たちは、明日の便でお城に帰る予定だから。

 都合がつくなら、貴方もついていらっしゃい」


「御意に」







「おかえり、お姉ちゃん!」


「ああ。

 ただいま、マリー」


「ん!

 ……っと、なんかいい匂いさせてるね?」


「む……わ、わかるか?」


「うん。

 私があげた香油とは違うっぽいけど……」


「……実は、あちらで良い香水を見つけたものでな。

 お前のためにも、一つ買って帰ってきているのだが」


「え、ホント!?」


「ああ。

 とびきりの土産を持って帰ってくる、という約束だったのでな」


「香水を!? あのお姉ちゃんが!?」


「……やはり、似合わんか?」


「ううん、ぜんっぜん!

 すっごく楽しみだよ~っ!」


「そうか。

 安心したよ」


「うん。

 改めて……おかえりなさい、お姉ちゃん!」


「ああ……ただいま」








「それで、ナスレグさん。

 この子がリエラです」


「初めまして。

 僕が、村長のナスレグだよ。

 これからよろしくね、リエラ君」


「あ、は、はいっ!

 リエラです、よろしくお願いしますっ!」


「リエラには、ペルエットからの魚の輸入と……あっちとの交易の管理をお願いしようと思ってます。

 住居については、寮の方で賄える予定です。

 急な増員になりますが……問題ありませんよね?」


「うん、いいんじゃないかな。

 トーヤ君が決めたのなら、異論はないよ」


「よし……。

 よかったな、リエラ」


「う、うんっ」


「で、自分はキトッス!

 こっちも、よろしくお願いするッス!」


「お、お願いしますっ!」


「そんな緊張しなくていいぜ、リエラ。

 キトは俺たちとも歳が近いからさ。

 たしか、リエラよりちょっと下だったんじゃないか?」


「16ッスよ~」


「ってことは?」


「えっと、アタシの二つ下……かな」


「ほほー。

 じゃあ、リエラおねーさまッスね!」


「お、お姉様……!?

 えっと……!」


「落ち着けリエラ、冗談だ。

 リエラがその呼び名で呼ばれたいなら別だが」


「あ、そ、そうだよね……!?」


「にしし。

 お騒がせしましたッス」


「ってな感じだ。

 お互いタメ口でいいよな、もう」


「あいッス。

 自分としても、それでお願いしたいッスよ。

 敬語、苦手なもんで」


「じゃ、じゃあ……アタシからも。

 改めて、よろしくお願いするね。キトちゃん!」


「お願いしまッス、リエラ先輩っ」


「えへへ……。

 なんか、歳の近い子がいて安心したかも」


「意外だったか?」


「意外っていうか……うん。

 クロキアの人たちって、長生きだって聞いてたからさ。

 もっとこう、みんな年上の人たちばっかりなのかなって思ってたよ」


「あー……なるほど?」


「氷雪の民、って呼ばれてるんだっけ?

 なんか、みんなお髭を伸ばしたお爺さんだらけ……みたいな印象があってね。

 あ、もちろん、ペルエットの人間から見た、勝手な想像だっていうのはわかってるんだけど」


「ふーむ……そうだよな。

 外の国に対する偏ったイメージみたいなもんって、あるよなぁ」


「なるほどーッス。

 さすがにそこまでじゃないとは思うッスけどー……。

 でもでも、ナスレグ村長なんかは、実は見た目よりけっこーなお歳ッスよね?」


「そうかい?

 僕はもう130を超えているけど……若く見られているのなら、嬉しい限りだね」


「ひゃくさんっ……!?」


「まぁ、そういう反応になるよな。

 俺も最初はそうだった……ってか、表に出ないだけで、内心では今も驚きっぱなしだよ。

 クロキアの人たちの寿命については」


「ははは。

 では、また近いうちに、歓迎パーティーでも開こうか。

 そのあたりも含めて、慣れていってもらわないとね」


「あ、いえあの、アタシ、そこまでしてもらうほどじゃ……!」


「遠慮しなくていいんだよ。

 なにせこの村は、娯楽が少ないからね。

 何かと理由を付けて、僕たちが騒ぎたいだけだから」


「さんせーッス!

 パーティーは美味しいモノも出てくるし、お酒が飲めるッスよー!」


「はは。

 キト君は、お酒はほどほどにね」


「あ、あいッス……」


「なんだキト。

 実は酒好きだったのか?」


「あ、いえッス。実は前からーってワケではないッスよ。

 ただ、こっちに来てからちょーっと教えてもらって、それで好きになったというか。

 ……って言っても、自分が飲むのは、あまーいミルク入りのヤツだけッスけどね。

 ワインとか麦酒なんかは、ぜんぜんで」


「へぇ……意外だな」


「われながら、自分も同じ感想ッスよ。

 お酒って、自分でも飲めるようなのもあったんッスねぇ~って」


「なるほどな。

 にしても、キトに酒を教えるようなヤツってーと……」



「───よう」



畦道の向こうから、見慣れた赤い人物が現れる。



「……なるほど、そういうことか」


「久しぶりだな。

 ようやく戻ってきやがったか、フード付き」


「よう。

 どうだ? 酒場の調子は」


「あァ?

 バーと言え、バーと」


「ははは、まぁそう謙遜するな。

 よくて居酒屋、みんなからの印象はせいぜい大衆食堂ってとこだろ?」


「はァ……口が減らねェ野郎だ。

 帰ってきて早々ソレかよ、おめェは」


「はっ、人が変わって帰ってきても怖ぇだろ?」


「あァ、そうだな。

 いつも通りのクソ野郎で安心したぜ」



言いながら、俺たちは拳を強く突き合わせる。



「ンじゃまァ……また空いた夜にでも顔を見せやがれ。

 俺ァ今から、仕込みがあるからよ」


「なんだ、もう帰るのか?

 こっちには新人もいるってのに」


「お前が骨になって帰ってきてンじゃねェかと、期待して見に来ただけだ。

 ……それに、こんだけ人がいる所で、お行儀よくゴアイサツってガラでもねェだろうがよ」


「ま、そりゃそうだが」


「俺に紹介したきゃ、ソイツもウチに連れてこい。

 お前の奢りでな」


「わーったよ。

 今日か明日には」


「おう、じゃァな」



それだけ言って、コルヴィは踵を返す。



「……えっと。

 トーヤくん、あの人は?」


「コルヴィだ。

 クソみてぇなヤツだが、クソほどいいヤツだぜ」


「そッスね!

 実は、ボスがいない間にも、なんだかんだ村のみんなのコトを助けてくれててッスね……。

 たとえば畑の柵の修繕とか、家具の移動とか。文句言いながらも、色々手伝ってくれてたッス。

 今じゃ、もともと村にいた人たちからもすっごく頼りにされてるんッスよー」


「へぇ……。

 ま、面倒見はいいもんな、コルヴィは。

 相変わらずガラは悪いが」



どうやら、俺たちの声が聞こえていたらしい。


後ろ手にひらひらと振られていた手が、親指を地面に突き刺すかと言う勢いで下に向けられた。



「あ、あはは……」


「まぁ、ああいうヤツだ、よくしてやってくれ。

 ちなみに、俺がここで交易の仕事をするって決めた時から協力してくれてる男だぜ。

 信頼はしていい」


「うんっ」


「あと、アイツもフレイミアの人間……つまり、炎熱の民ってヤツだ」

 

「あ、そうなんだ!

 ってことは、ブランシュさんと同じ……だよね?」


「そういうことだな。

 もちろん、二人に面識はあるぜ。

 仲良しこよしってわけじゃねえが」


「へぇー……そうなんだね」


「ああ。

 コルヴィがとっとと退散したのも、ここにブランシュがいたからかもな……って。

 これ以上はやめとくか。そろそろ、青筋立てて戻ってきちまいそうだ」


「あはは……」


「ま、人それぞれ色んな事情があるってこったな。

 もちろん、ここにいる人たちだけで全部ってわけじゃねえし……しばらくは、人の顔を覚えるところからだな」


「うん……そうなりそう。

 じゃあ、改めてよろしくお願いします。

 トーヤくんボスっ」


「……おう」





結局この日、俺たちが荷物を置いて落ち着けたのは、夕方になってからだった。



毎日昼12時に、一話ずつ投稿予定です

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