第54話「砂浜と、日差し」
翌日。
遅めの朝飯を済ませて海岸に出ると、ちょうど砂浜の端あたりでリエラの姿を見つけることができた。
「おーい、リエラー!」
「あ、トーヤくんたち!
おはよーっ!!」
昨日の事件が嘘のように、リエラはいつも通りの快活な様子で俺たちの方に駆け寄ってくる。
「おはよ。
トーヤくん、ブランシュさん!」
「おう、おつかれ」
「ああ」
リエラの恰好は、昨日と同じ水着……の上に、薄めの防水ジャケットを羽織っている。
ちょうど俺たち二人と同じような恰好であり、今日はただの海水浴ではないという意思の表れなのだろう。
「今日は二人なんだね?」
「まぁ、初日だしな。
最初に勝手さえ知っとけば、明日からどっちかだけになっても大丈夫だろ?」
「たしかに、それはそうかも!」
「んで。
リエラの方はあんなとこで何してたんだ?
端も端だぜ、砂浜の」
さきほど俺たちが声をかけた際にリエラがいたのは、砂浜と緑地のちょうど境目あたり。
地理的に言えば、フローエンの砂浜で最も北端となる場所だろう。
「あはは、別になんにもしてないよ。
ただ二人が来るまで暇だったから、南の端からここまで歩いてきてただけ!
海とか砂浜に、おかしいとこはないかなーって」
「そっか……。
なら、俺たちが来る前にすでに仕事を始めてくれてたってことか。
なんか申し訳ねえな」
「ふむ。
明日からは、我々ももう少し早く来るべきか?」
「あ、いやいや。そういうわけじゃないよ、ホントに!
むしろ、この時間でも早いくらいだから!」
「そうか?」
「うん。
まだ朝だから……っていうのもあるけど、そもそも平日は海に出てくる人も少ないからね。
出てきたとしても、泳ぐためじゃないだろうし」
「まぁ……たしかに、見渡しても人はほとんどいないが」
「でしょ?
午後からはちょっと人も増えてくるだろうから、本番はそこからだね。
それまでは準備運動ってことで!」
「ならまぁ、俺たちもその心構えでいるとするか」
「うんうん。
じゃあ三人揃ったところだし、まずはちょっとだけ歩こっか!」
────
──
リエラに案内されるままたどり着いたのは、岩場を利用した小さな埠頭のような場所だった。
ちょうど海岸の中央あたりに位置していることもあり、南北ともに見通しのいいポイントと言える。
「とうちゃーく!」
「なるほど、ここが見張りの拠点か」
「そゆことだね。
北と南、どっちの海岸も見れる場所だから」
リエラの言う通り、海岸はどうやらここを境にして南北に分かれているようだった。
北側の海岸はまさに昨日俺たちが遊んでいた場所であり、かなり広い面積を有している。
さきほどリエラと合流した北端地点に人が立ったとしたら、ここからでは豆粒のように見える距離だ。
反対に南の海岸はやや狭く、管理された砂浜という印象だ。
昨日のように催し物が開催されるスペースや、整地されたグラウンドのような一帯も見受けられる。
そしてそれよりさらに南に行くと、砂浜は姿を消し、船着き場や大型の埠頭のようなものが存在するエリアとなる。
あちらは見ての通り漁船や漁師の人たちのための場所であり、今回の俺たちには関係がないということだろう。
「たしかに、こりゃちょうどいい場所だ。
埠頭だから、足場も安定してるしな」
「でしょ!
この高さなら、波もたまにしかあがってこないしね。
パラソルさえ立てれば、一日中でもいられるよ」
「なるほど、それなら椅子も必要だな。
あと座布団も」
「あはは……椅子はいいけど、座布団はどうだろ。
波と潮で、ダメになっちゃうんじゃないかな……?」
「ふーむ……なら、耐水性の座布団はないのか?
ここは港町なんだろ?」
「き、聞いたことないかも……。
っていうか、波打ち際まで来てそこまでくつろぐ人が珍しそうだけど」
「そうか……それは……そうかもしれんな。言われてみれば……」
「……なんか、枕を選んでたときにもちょっと思ったんだけど。
もしかしてトーヤくんって、意外とぐうたらさん……?」
「ん?
俺は必要なこと以外に体力を使わない主義なだけだぜ。
まぁ、どちらかと言うとインドア派ではあるが」
「そ、そうだったんだ……」
「動く時は動く。
動かなくていいときは全力で休む。
それが一番だ」
「へぇ……なんか意外かも。
トーヤくんって、活動的なイメージだったから」
「やるときはやってくれるのだがな……トーヤ殿は。
特に戦闘面では光るものがあるというのに、どこか争いを好まん節がある。
軍人の私から見れば、大いに勿体ないと感じる部分なのだが」
「俺としては、努力をしてないつもりじゃないぜ。
あくまで自分のペースで、ってやつだ」
「それは十分に理解しているさ。
だが、トーヤ殿を本気で鍛えたらどうなるのか……と、私はつい想像してしまうものでな」
「はっ、やめてくれ。
俺は鎧を着て動き回る気も、全身ムキムキのマッチョになるつもりもないぜ」
「ふふふ……たしかに似合わないかもね。
トーヤくんに、ムキムキの筋肉は」
「む。
それはそれで男としてなんか癪だが……まぁいいさ。
あくまで俺の相棒は、筋肉じゃなくて布団と枕だ」
「やれやれ……」
「あはは。
なんか……トーヤくんがどんな人か、ちょっとずつわかってきたかも」
「そうか、そりゃいいことだ。
んで。今日最初の仕事は何なんだ、リエラ先生」
「っと、そうだね。
じゃあまずは……このあたりの地理と、いざって時の連絡先から共有しとこっか」
「お、頼むぜ」
────
──
「ふぅ、ようやく日陰に帰ってこれたか」
「あはは、まるまる一周おつかれさま。
海岸周りは、だいたい把握できた?」
「ん、そうだな。
こっからだと南北が一目で見渡せるが、実際歩いてみると結構な距離があったなと」
「それはそうかもだね。
あと砂浜って歩きにくいから、余計にそう感じたのかも?」
「あー、それもありそうだ」
「たしかに、普段使わん筋肉を使っている感覚があるな。
外周を走り続ければ、良い訓練になりそうだ」
「訓練をするなら、日焼け止めは塗らないとだね!
……って、そういえば二人は今日はちゃんと塗ってきてるの?」
「ん?
今日も何も、昨日からなんも塗ってないぜ。
ブランシュは?」
「私もだな。
我々炎熱の民は日差しに強いというのもあるが……そもそも、日に焼けて何か問題があるのか?」
「ええ!? 大問題だよ!
あんまり日焼けすると、お肌が老化しちゃうんだよ!?
女の子にとって、これほどの問題は他にないんだから!」
「じゃあ俺には関係ないか」
「私もだな」
「なんでそうなるの!?
トーヤくんはいいとしても、ブランシュさんはダメでしょ!!」
俺はいいのか。
「私は気にせんよ。
『女の子』という歳でもないのでな」
「ダメに決まってるでしょ!
もー、ほら。ちょうどアタシオイル持ってきてるから、使って!」
「……好意は受け取るが、遠慮しておくよ。
ジャケットも着ている上に、我々は基本的に日陰で待機するのだろう?
であれば……」
「そういう問題じゃないの!!」
「……いや、しかし……」
「ブランシュさんが自分で塗らないんなら、アタシが塗るよ!?
ほらっ!!」
リエラは取り出したオイルを掌に垂らし、手に広げながらブランシュに接近する。
その鬼気迫る勢いに、ブランシュもややたじろいでしまっている。
「……わ、分かった、借りよう。
だから少し落ち着いてくれ、リエラ殿」
「よしっ!」
老化の心配から早々に自分が除外されたことに少しの寂しさを覚えつつ。
日焼け止めという便利なものがこちらにもあることに、俺は改めて興味をそそられた。
「てか、日焼け止めなんてもんがあるんだな。
何でできてんだ?」
「スペアラズベリーの種っ!」
「……リエラ殿、塗るのは脚だけで良いだろうか」
「そっか、上とか前はアタシに塗ってほしいってことでいいんだね?」
「……承知した、肌が出ている部分全てだな」
なぜか俺まで怒られてしまったが……ぎこちなく手の上でオイルを広げるブランシュは、これ以上リエラに意見をすることすらできないようだった。
「そういえばリエラ、今日はあの乗り物は用意しなくていいのか?」
「ん?」
「ほら、昨日の渦で俺が海に沈めちまったヤツだ。
あんときは緊急時だったとはいえ、沈めたのは申し訳ない限りなんだが……海を見張るならまた必要なんじゃないかと思ってな」
「あ、ほんとだ!
出してくるつもりだったんだけど、すっかり忘れちゃってた!」
「お?
やっぱ、代わりがあるのか?」
「そうそう、あるの。昨日のと同じくらいの大きさのが。
しかもちょうど、トーヤくんたちの泊まってるコテージの倉庫にね!」
「倉庫……?
そういえば、談話室の奥に開けてない扉があったような気がするな。
あそこか?」
「そうそう。
ホントはスタグおじさんの協会が持ってるものなんだけど……昨日のお詫びにって、アタシに譲ってもらったんだ!
だから、沈めちゃったのは気にしなくていいよ!」
「そっか、安心したよ。
んでどうする、持ってくるか?」
「そだね、持ってきたい……んだけど。
アタシいまこんな状況だから……」
そう言って、リエラはオイルで塗れた両手をこちらに示した。
「ああ、構わないよ。
そういうことなら、俺が行ってくる」
「ごめんね、お願いしていい?
運ぶための台車も、一緒にあるはずだから」
「わかった。
ちょっと待っててくれ」
「ありがとね!」
────
──
「うぃーす、ただいまーっと」
「あっ、トーヤさん!
おかえりなさーい!」
玄関を開けると、二階から明るい声が飛んでくる。
同時に正面の階段からぱたぱたと足音が聞こえ、こちらに下りてこようとしているのがわかった。
「んしょ、っとっと……。
お早かったですね、どうされました?」
「うおっ……」
その声と共に、水着姿のミラーヤがたいへん大きなものを揺らしながら階段を下りてきた。
……無論、大きなものとは尻尾のことだが。
「……なあ、ミラーヤ。
早速なんだが、ひとつ聞いていいか?」
「はい?」
「……なんで、水着姿なんだ?
朝は、ちゃんと服着てたよな……?」
「えへへ、そうなんです。
わたしもさっきおもいついたんですが……実は、水着だととってもお掃除がしやすいんです!
動きやすいですし、お洋服が汚れる心配がありませんので!」
「……なるほど……」
彼女の両手には掃除道具が握られており、たしかに掃除をしてくれていたであろうことが伺える。
「たしかに昨日はちょっぴり恥ずかしかったですけど……もうだいじょうぶです!
リエラさんの言ってた通り、なれると動きやすくて、すっごくいいですね!」
そう言って雑巾を高く掲げた拍子にまた彼女の体の一部が跳ね、俺の目を奪う。
……もちろん、それとは尻尾のことだ。
「あっ。
もうちょっとしたら、みなさんのお昼ごはんも作りますからね。
お料理もこの上にエプロンを着るだけでいいので、きっととっても楽ですよ!」
「ミラーヤ」
「はい?」
「……服を、着てくれ」
「わふ?
どうしてです?
この格好なら汗もかかないので、お洗濯も楽で……」
「服を、着てくれ。頼むから。
……いいな?」
「え、えっと……はい。
わかりました……」
理由はわかっていないものの、俺が強く発した言葉の意味は理解してくれたようだった。
「そ、それで。
トーヤさんは、どうしてかえってこられたんです?」
「ああ……昨日の乗り物の代わりが、もう一台ここの倉庫にあるらしくてな。
それを持っていこうと思って」
「あ、なるほど!
倉庫でしたら、談話室の奥ですね!
ちょうどまだお掃除ができてない場所なので、わたしもお手伝いしますよ!」
そう言って駆け出したミラーヤは、たふたふと例のアレを揺らしながら談話室に向かう。
尻尾だ。
「ミラーヤ、大丈夫だ。
俺は一人で大丈夫だから、服を着て掃除に戻ってくれ」
「そうですか……?
せめて、談話室の机をどかすくらいは……」
「大丈夫だ。
俺は男だから。
男だから……先に服を着てほしいんだ。
わかるな?」
「わふ……。
わ、わかりました?
じゃあ……重いものをもつときは、きをつけてくださいね?」
「ああ、ありがとうな。
また昼飯時になったら戻ってくるよ」
「はいっ。
きっとおいしいお昼を作って待ってますね。
では、わたしはお掃除にもどります!」
「ああ、頼んだ」
そしてまた、ミラーヤはアレを大きく揺らしながら階段を上って行った。
尻尾。
「……やれやれ。
とんだ災害だな、ありゃ……」
ご主人様はきっと、読書をしながら部屋にでも籠っているのだろう。
でなければ、あんな姿のミラーヤをサフィーアが止めないわけがない。
「しっかりしてくれよ、王様……」
そうして、俺はどこかもやもやした気持ちを抱えながら倉庫に向かったのだった。
────
──
「ふい、お待たせ」
「よんじゅうきゅう~……ごじゅうー!!
あーやっとトーヤくん来たー! これできゅうけえー!!」
「うむ、よくやった。
少し休むと良い」
「……なにやってんだ?」
俺の目の前には、片手での腕立て伏せを終えたブランシュと、地面に突っ伏したリエラの姿があった。
「筋とれぇー!」
「いやまぁ、それはわかるんだが。
なんで今筋トレなんだ……?」
「稽古の一環だ。
ちょうど、今日の夕方から始めるという話になったのでな」
「ああ……そういうことか」
「トーヤくんが戻るまでってことだったんだけど……もうしんど~い!」
ぜぇぜぇと息を切らしたリエラが、うつ伏せの状態ながら恨めしそうにこちらを見る。
「まぁ……早く戻ってこれなくてすまんかった。
こっちもちょいとデカすぎる問題を退けてきたところでな。
だが、機体はちゃんと持ってきたぜ」
「ありがと~!」
そしてリエラが息を整えている間に、俺とブランシュで水上バイクを埠頭の杭に括り付けた。
リエラ曰く、この杭はボラードというらしい。
「そういえばリエラ、昨日はどうだったんだ?」
「うん? 昨日?」
「ほら、連絡のために走り回ってくれてたんだろ。
あ。あと食材ありがとな」
「あ、全然!
きちんと漁師さんたちにも情報回せたし、問題なしだよ!
家に帰った時には、もう真っ暗だったけどね。あはは」
「そうか。
じゃあ、漁師の人たちはひとまず心配いらない感じか」
「だと思うけどねー。
みんな、スタグおじさんの言うことならちゃんと聞いてくれるし」
「なんかまるで、スタッグさんの言うこと以外は聞かないみたいな……」
「そりゃもう、ね。
漁師さんたちって、みーんな我が強いから。
喧嘩こそあんまりしないけど、みんな『自分のやり方が一番だ!』ってところがあってさ」
「あー……なるほどな。
なんとなく想像はつくが」
「でしょ?
でも、お互いに協力していかないと海で生きていけない……みたいなのは暗黙の了解であるらしくて。
だからこそ、そんな人たちをまとめあげてるスタグおじさんは、やっぱりすごいなーって思っちゃうなぁ」
「なるほど……リエラの言う通りかもな。
俺も昨日、改めてスタッグさんは立派な人だと感じたよ。
なんつーか、話してて安心感があるっていうかさ」
「ね。
ああいうのを、気風がいいって言うのかな?
憧れちゃうね」
「それで言えば、だぜ。
そんなスタッグさんに頼られてるリエラも、十分立派なんじゃないか」
「アタシ?
あはは、アタシなんて全然だよ」
「そうか?
連絡とか警備の仕事も任せてもらって、これだけ信頼されてんだからさ。
すげえことだと思うぜ」
「ううん……ホントに全然だよ。
お仕事って言っても、使い走りみたいな誰にでもできることだからさ。
それこそ、アタシじゃなくてもいいような。ね……」
「うーん……そうか?
俺は、そうは思わねぇけどなぁ」
「……あはは、ありがとね。
トーヤくんは、優しいね」
リエラはそう言っているものの、俺は彼女が十分に賞賛されるべきことをしていると感じる。
スタッグさんのような人に頼られるということもそうだが……一つの指示に対して、その裏にある意図を汲み、必要なことを判断し、自発的に動く。
昨日の渦のことも含め、緊急時にそのようなことができる人間はそう多くないはずだ。
特に今回の場合は、リエラの人柄や人脈も信頼されているからこその依頼なのだろうとも思う。
だがリエラ自身それに気付いていないのか、当たり前だと思っているのか。
自分の行っていることに対し、あまり肯定的になれてはいないようだった。
「……そういえばリエラは、スタッグさんとはどこで知り合ったんだ?」
「んー?
最初に、ってこと?」
「ああ、そうだ」
「えーっと……そうだなぁ。
小さい頃にちょっとしたツテで知り合って、かな。
ホントに三歳とか、四歳ぐらいの頃かなぁ? そこから、今でも可愛がってもらってる感じなんだけど……」
「そんなに昔からか」
「そうそう。
血が繋がってるわけじゃないけど、ホントにアタシにとっては叔父さんみたいな人でね───」
────
──
「───という感じで、今日は特に変わったことはありませんでした」
「おう、ご苦労さん」
俺たちが今いるのは、漁業協会の事務所のような場所。
屋内でも磯の匂いが漂うその建物は、商店街と居住区の間のあたりに位置していた。
「リエラちゃんはどうだ?」
「う、うん……。
海の方は、問題ナシだと、思う……」
「……大丈夫かい、リエラちゃん?
なんか、座り方から変な感じがしてっけどよ……」
「だ、大丈夫。
これは……ちょっと、空き時間に筋トレをしすぎただけで……」
「そ、そうかい。
まぁ、動けなくならんようにだけ気ぃつけな」
「ごめんなさい……」
そう言って、リエラは足を細かく震わせながら座りなおした。
「とにかく、問題なかったってんならよかったぜ。
海の方でも、今日は変わったことは起きてねぇしな」
「渦の発生も無し、ですか?」
「おう、そういうこった」
それを聞いて、俺たち三人は少しほっとする。
昨日の件は、これから続く大災害の始まりに過ぎなかった……という最悪の可能性だけは、現実のものになってほしくなかったからだ。
「とはいえ、油断はできねぇからな。
そっちの方も、引き続きよろしく頼むぜ」
「はい、もちろんです」
スタッグさんの言葉を受け、俺たちは改めて三人で顔を合わせ頷き合う。
「そんで、だ。
そういえばなんだが……兄ちゃんの仕事の方はどうすんだい?」
「……ここで、いいんですか?」
「おう、もちろんだ。
たしか、いっぺん俺に相談してぇってことだった気がするが」
「そうですね。
まずは……俺がやってる交易の内容について、紹介できればなと。
少し長い話になるとは思いますが」
「構わねえよ。
兄ちゃんには、ノルネスのおやっさんのことで恩があるからな。
できる限り応えてぇとは思ってる」
「ありがとうございます。
それなら近々、どこかでお時間をいただきたいと思っていまして」
「なら明日でいいぜ。
昼過ぎには、ここに帰ってくると思うからよ」
「そんな急にで、構わないんですか?」
「おう。
こっちも、朝の漁が終わったら大してやるこたねぇんだ。
大抵昼からは、ここで網の手入れとかしてっからよ」
「そうですか……。
では、明日必ずお伺いします。
警備の方は、二人に任せることになりますが」
「ああ、十分だ。
……むしろ、水着の姉ちゃんが二人も海岸を見張ってくれてるってんならよ。
俺の方が約束をほっぽり出して、わざと海に溺れに行っちまうかもしれねぇな? こりゃ」
「ちょっと、スタグおじさん?」
「ガハハ!
そう睨んでくれるなって、ただのオッサンの冗談じゃねえか。
せっかくのリエラちゃんの可愛い顔が、台無しだぜ?」
「もうっ!
……ブランシュさん、こういう人は海に投げ出されても助けなくていいからね!
スタグおじさんが海で溺れるなんて、フローエンで一番ありえないことなんだから!」
リエラの言葉を聞き、スタッグさんはまた大口を開けて笑った。
俺とブランシュはそれを見て、肩をすくめながら笑みをこぼしたのだった。
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