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1-4


「おじゃーしゃーッス!」




とある日のこと。


人が消え静まり返った店内に、キトの声が響いた。



「……帰れ」



それに返事をしたのは、唯一店内に残っていた店主───コルヴィその人だった。



「ひどくないッスか!?

 自分、お客さんッスよ!?」


「今日はもう店じまいだ。

 それに……たとえ客だとしても、今はガキがひとりで来るような時間じゃねェだろうが」



コルヴィの言う通り、周りの民家からは朱光石の灯りも見えない。


日付も、あと一刻で変わろうかというところだ。



「ふっふーん、こう見えても自分は氷雪の民ッスよ?

 見た目で判断されちゃ困るッスねぇ」



返された言葉などお構いなしに、キトはカウンターの席に腰かける。


対してコルヴィは、珍客に目もくれず片付けを続けていた。



「十六」


「へ?」


「少なくともフード付きよりは若ェだろ、お前。

 身体の線も細ェしな……だいたい16ってとこだ。

 違うか?」


「……いやんッス。

 どこ見てるんスか」


「腹ァ丸出しでよく言うぜ」


「むむむ……面白くないッスねぇ」


「アタリ、だな」


「はいそうですよーッス。

 もー……バレちゃったなら、大人しく帰ることにするッスかね」



年齢を言い当てられたのが効いたのか、キトは諦めて席を立とうとする。



「まァ、待てよ」


「なんスか?」


「ガキ相手とはいえ……一度座った客に、何も飲ませずに帰らせる店だとは思われたくねェ」



コトリと音を立てて置かれたグラスを、コルヴィはそのまま滑らせる。


それはキトの目の前で止まり、照明の光を朱く反射した。



「これ……いいんスか?」


「こっちじゃどうかは知らねェがな……。

 ウチの国じゃ、酒は15からなンだぜ?」


「……えへへ。

 思ったより話の分かる店主さんッスね!

 いただきますッス!」



出されたグラスに、キトは嬉々として口をつける。



「んー……ふぅ。

 おいしいッスね、この赤いお酒!

 なんて名前なンすか?」


「そいつァよかった。

 ウチ自慢の一品でな。

 『ミルク』ってんだ」


「へぇー。

 ……って、それただの牛乳じゃないッスか!!」


「かっかっか!

 朱光石の光で、騙されたな」


「どーりで飲んだことある味だと思ったッスよ!」


「だろうな。

 ま、ガキにゃそれがお似合いってこった」


「むぅ……。

 まあ、喉が渇いてただけだからなんでもいいッスけど……」


「なら、なおさらだな。

 空きっ腹にいきなり酒を流し込むもんじゃねェ。特にその細ェ身体ならな」


「そうなんスか?」


「ああ。

 ンなこともわからねェからガキだって言われンだよ」


「ぐぬぬ、言い返せないッス……けど、さっきからガキガキって、失礼なヒトッスね!」


「閉店後の店に入ってきたヤツにタダで飲みモン出してるだけ、感謝してもらいてェもんだが……」


「あ、これタダだったんスか?」


「まァな」


「マジッスか!

 それは感謝ッス!」


「見るからに金持ってなさそうな顔してっからな、エサやる気分でつい出しちまった」


「ちょっとー!

 どういう意味ッスか!」


「そのまンまだよ。

 あんまり人の過去にとやかく言いたかねェが……お前、他人様に言えるようなコトしてきてねェだろ?」


「っ……!

 それは……」


「俺ァ人を見る目がある方じゃねェが……それぐらいならわかンだよ。

 お前の手つき、足音、目線とかでな」


「……図星ッスよ。

 はぁ……トーヤさんも、同じことを言ってたッス。

 自分、そんなにわかりやすいッスかねぇ」


「あン?

 フード付きがか?」


「はいッス」


「チッ……なんか(しゃく)だな」



ボトルを棚に仕舞ったコルヴィが、その戸を乱雑に閉める。



「でも……でも、今は違うッスよ。

 そのトーヤさんのおかげで、自分もまともな仕事についてるッス。

 ……ついたばかりなんで、相変わらずお金はないッスけど……」


「わーってるよ、そンぐらい。

 ……俺も、同じ性質(たち)だからな」


「同じ、ッスか?」


「ああ。

 フード付きと関わるまでは、汚れたことばっかやってたからな」


「そうだったんスか……」


「たぶん、俺とお前は同類だ。

 だからわかンだろうよ」


「なるほど……なんか、納得ッス」


「だからこそ、お前を見てッと……なんつーかな」



そう言ってコルヴィは、片付けのついでと言った風に一本のボトルを取り出す。

そして、半分ほどになったキトのグラスに黒い液体を注いだ。



「これは?」


「コーヒーリキュールだ」


「え……お酒……?」



注ぎ終えるとすぐにコルヴィは後ろを向いたが、グラスの中身は鮮やかなカーキ色に染まった。



「……俺が初めて酒を飲んだのも、お前ぐらいの時だった。ってのを思い出してな」


「店主さん……!!」


「チッ、マスターって呼べ。

 『店主』はダセェ」


「マスター!!

 思ったより、粋な人ッス~~!」


「それだけ飲んだら帰れよ。いいな」


「はい、約束するッス!!」


「ったく。

 夜中だってのに、騒がしいヤツだ……」


「えへへ……」



酒のせいか、それとも朱光石の照明のせいか。


綻んだキトの顔は、徐々に朱く染まっていく。



「で、お前。

 名前はなんつーンだっけか」


「んぐ……ちょっとー。

 自己紹介なら、前にしたじゃないッスか。

 覚えておいて欲しいッスー」



「あァ?

 だったらテメェ、俺の名前覚えてんのかよ」


「え?

 それは……まぁ、その」


「燃やすぞコイツ……」


「ご、ごめんなさいッス!

 自分が悪かったッスから!」


「チッ……。

 俺ァ、コルヴィだ。

 二度と忘れんじゃねェ」


「ッス!

 自分は───」




毎日昼12時に、一話ずつ投稿予定です

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